icon 2013.4.17

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第2回)

四月鬼

文月悠光

 

雨垂れ。
叩くだろう、君は。
彼女の青白い頬のうえを
這いつくように。

四月、過ぎゆく手のひらに応えられぬまま
彼女は石壁のごとくざらついている。
意志のない触手のささめきを聞く。
頭上ではすこやかに
手繋ぎオニが繁殖し、滴の束を振りおろす。
まっすぐな雨粒は檻のように見える。

打ちつけるものは底で手をむすび、
彼女のつま先へ輪をひろげるだろう。
そこに映る
たったひとつの顔をすくい上げるため、
彼女はひっそりと手を差し入れていく。

 

 

 

●Profile

近影正面(小)文月悠光

1991年北海道生まれ。 2008年、第46回現代詩手帖賞受賞。2010年、第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で第15回中原中也賞、第19回丸山豊記念現代詩賞を受賞。エッセイ・書評などを執筆。ナナロク社のホームページにて詩を連載中。タイツブランドtokoneに参加し、タイツに詩の言葉を載せる。2013年6月、第2詩集『屋根よりも深々と』を刊行予定。早稲田大学教育学部に在学中。
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