icon 2013.4.6

木村文洋×山戸結希対談◆4/20「愛のゆくえ(仮)×あの娘が海辺で踊ってる(完全版)」上映の前に

2012年のインディペンデント映画界を席巻した二本の傑作が、カップリング上映される。オウム真理教が惹起したテロ事件の被疑者として指名手配され、17年ものあいだ逃亡を続けた男と、その逃亡生活を支えた女性信者の出頭前の一夜を描いた『愛のゆくえ(仮)』(木村文洋監督)。観光地・熱海を舞台に、AKBに憧れる自意識過剰な女子高生のビルドゥングスロマンを、瑞々しい感性で歌いあげた『あの娘が海辺で踊っている』(山戸結希監督)。今、インディペンデント映画を撮ること、上映することとは一体どういったことなのか?4月20日の上映を控えた両監督に、お話を伺った。(取材・文/後河大貴、取材・写真/福アニー)

 

チラシ表

 

――今回のカップリング上映は、どういった経緯で決まったのでしょうか?

 

木村 山戸さんの映画(『あの娘が海辺で踊ってる』)は、2012年の初夏ぐらいから話題にはなっていました。「凄い映画がある」と。僕の師が井土紀州さんという方なんですが― 東京学生映画祭審査で観たとのことでした。『愛のゆくえ(仮)』プロデューサー兼カメラマンの高橋和博さんは、井土さんの同輩ですから凄く興味を惹かれていて、PFFで山戸監督の『Her Res ~出会いをめぐる三分間の試問3本立て~』を先に観たらしいんですが、これはどうも凄いと。

 

山戸 井土監督は東京学生映画祭で『あの娘』に審査員特別賞を作って下さいました。高橋さんはPFFで、『Her Res』を観てというか、フィルムセンターで映写くださっていたんですよね。

 

木村:高橋さんは映写技師なんです。そうですね、PFFで映写して観て「凄いセンスのある人だ」と。で、公開中に『あの娘が海辺で踊っている』を見て、「ここ何年間かで一番衝撃的だった」と。そんな流れのなかで、「今年連続的に『愛のゆくえ(仮)』を上映するなら、是非一緒にやりたい」ということで、やる運びになったという感じです。

 

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――『愛のゆくえ(仮)』と『あの娘が海辺で踊っている』の二本を拝見して、冒頭の入り方から、追求されている主題にいたるまで、双子のように似ている作品だなあと思ったのですが……。

 

木村:どうでしょう。山戸さんからどうぞ。

 

山戸:似ているというご指摘は意外です…!双子説、是非詳しくお聞きしたいです。そうですね、まず『愛のゆくえ(仮)』の感想を。試写と劇場、二回拝見したのですが、全く違う映画に見えたんです。編集を大幅に変えたのだなぁと感じて「変えられましたよね?」と聞いたら一個も変えてなくて吃驚しました。なぜか見るたびに印象が大きく変わる映画で。一回一回、観る人間の心情と混ざって、感受するものが新しく発生し直すように作られている感覚がします。かなりの要素を演劇から導入していることとも関係しているのかもしれないです。たとえばその“発生し直す”ことの最も象徴的な箇所が、エンディングの「グッド・バイ・マイ・ラブ」に紛れた静寂なんです。上映するたび、この時間は必ず変化するじゃないですか。暗闇の温度も、黒い長方形の大きさも、隣の人の息遣いも。スクリーンのこちら側の空間と溶け合うための時間が流れる、自分にとっては生モノみたいな映画です。だからこそ、次回の上映も必ず見に行こうと思っています。

 

木村:僕は山戸さんの映画と『愛のゆくえ(仮)』は似ているとは思わなくて…。というのは山戸さんの映画を見たときに、高橋さんはセンスと言いましたが、僕はその無欲さに打たれました。パンク、と言ったらいいのか…。僕も学生時代に小谷忠典監督(『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』)の学生自主映画『子守唄』とか観て、感動したんです。自分の生まれ育ったところで、友達を出演者にして、自分達の忘れられない物語を撮る…。だいぶあとになるんですが、富田克也さんの『雲の上』とか、ああいう作品を見たときの瑞々しさを、山戸さんの作品にも凄く感じました。それに比べると、自分は色々考えるようにはなったな、と反省したんですけど。

 

山戸:そういえば、高橋さんが「同時上映しよう」って声をかけて下さったのは、何か二作に類似性を見て下さってという感じでもなく、どうしてなんでしょうか。

 

木村:あの人は僕が知る限り、ほとんど他人の映画を褒めない人なんですけど(笑)。ただ高橋さんは1969年生まれで―法政大学在学中から8mmの自主映画制作、上映イベントも主宰企画していた。石井聰亙、矢崎仁司、山本政志…諸監督の映画上映をしていたんですね。その時期のインディペンデント映画のぶっ飛んだセンスを、山戸さんの映画に感じたというようなことを言ってましたね。『Her Res ~出会いをめぐる三分間の試問3本立て~』には特に山川直人さんの映画のようなセンスを感じた、と。

 

山戸:8ミリという指摘はよく頂くので不思議な感覚です。