icon 2013.4.6

木村文洋×山戸結希対談◆4/20「愛のゆくえ(仮)×あの娘が海辺で踊ってる(完全版)」上映の前に

――音楽家のtofubeatsってご存知ですか?90年生まれなんですけど、今度出すCDのタイトルが『ロストディケイド』っていうんです。とにかく、自分達の“ワンディケイド”は何だったんだろう?みたいな感じでタイトルをつけたらしいんですけど。先程「上映していくこと自体が映画制作の一環」だと仰られていましたけど、そこから鑑みて、この10年はどういった感じだったのか、率直にお聞きしたいんですけど。

 

木村:10年…2000年くらいですよね。あの時期は、日本映画がどうも新しい時代に入るんじゃないか、となにか興奮していました。先輩達からも興奮は伝わってきた。学生の頃は、たとえば映画館で黒沢清監督や青山真治監督の映画を熱狂的に観ていたし、瀬々敬久監督の作品もそうでした。まだVシネマというものがあって、映画監督が商業性との折り合いをつけながら、映画を撮られていた。そうした作品も面白いし、突如―映画監督のキャリア、本領が発揮された凄い作品も生まれて…というような。 でも、自分たちがいざ始めるとなったときに―商業の研鑽の場もほとんど無くなってしまい、何より映画を一本成立させるだけで、何年もかかるといったような時期に入ってしまっているというか……。その成立のさせ方、戦略がそれぞれ違います。ありえない低予算ででも何とか撮る、とか。行政支援の企画を勝ち抜く、とか。友人の映画監督で―震災直後に現地に入って取材をしてメディア側に提供して得た資金で、映画をつくっていく、とか…。各自戦略をみんな立てていってなんとか成立させるわけだけれど、やっぱり時間はかかるようになったな、とは思ってますね。また、それで生活することもなかなか難しいという。 だから…自分達の10年目というのは、もしかしたら映画の外側に足を向け始めているんじゃないか、と、ふと思います。かつて映画に熱中していた同世代の監督達はいま―農業であったり、演劇やそこに生きる役者さんであったり、現代美術家であったり、現実社会であったり、あるいは国の外でさえあったり―そういった外部に足を一歩踏み出すことで映画との架け橋をつくろうとしているんじゃないかな、と。

 

山戸:早く結実しなきゃって性急な気持ちなのですが、そんなに暗い状況なんですか?

 

木村:山戸さんは20代なんで、ガンガン攻めていただいて(笑)。

 

山戸:まだ『あの娘が海辺で踊っている』しか撮っていなくて、今のところは体力があるので、あるうちはどんどん撮ろうと思います。

 

――『愛のゆくえ(仮)』×『あの娘が海辺で踊ってる』カップリング上映に向けて、アピールしたいところがあれば、是非お願いします。

 

山戸:今回、ポレポレ東中野での上映ではなく、SPACE&CAFEポレポレ坐っていうところでの小さな上映会なんです。私は真利子哲也監督の映画を、小さな上映会で偶然に見てそれが強く記憶に残って映画を撮り始めました。そうした個人的な思いからも、来てくださる人に何か驚きがあるような、濃い上映会にしたいと思っています。実は、先ほどの、お客さんには映画の物語に満たされて帰って欲しいというこれまた個人的な思いから、『あの娘〜』は他作品との併映はお断りしていました。でも今回は、映写を高橋さんが担当してくださり、そして素晴らしい映画評をくださった木村監督の映画との併映で、そのお二人のやることになら何でも参加したいと思っています。それに「愛のゆくえ(仮)」は、見るたびに享受するものが更新されるような感覚があり、そういう映画と一緒に上映されるなら、その場でしか生まれないことが起きそうで、自分にとっても一回性の特別感があり、本当に楽しみです。お客さんにも、ぜひ覗き見る気持ちで、お気軽にいらして頂きたいです。

 

木村:上映後に―高橋さんと僕、それと山戸さんとで話すんですけど、ちょうど10歳ずつ年齢が離れていて。僕らも今の山戸さんと同じくらいの年齢から…自主映画をやっていた人間なんで、それぞれ何をやってきたか、とかまあ色々なお話ができたらと思っています。

 

――最後に、お二人の新作に向けての意気込みをお聞かせ願えますか。

 

山戸:そうですね、ちょうど今、MOOSIC LABの「おとぎ話みたい」を編集中なんですが、せっかく音楽というテーマがあって撮っているので、今までも自分は音楽を映画に多用してきましたが、音楽を映画の構造の中からもう一度発見するようなものを目指して作っています。

 

木村:長編の予定はないんですか?

 

山戸:一応、尺は60分くらいあるんですが、そうですね、もっと長い映画も次は撮りたいです。木村監督はずっと脚本を書いてらっしゃるんですよね。

 

木村:4年ぐらい、ちょっと……。早く上げないとな(笑)。次は『へばの』の続編にあたるような映画になります。1988年に―六ヶ所村から逃げてきた母子が、東京で20年ちかくどう生きてきたか、という物語をやろうと思います。いま再びこの国、東京で生きるというのは、どういうことなのか…。今年撮影します。『息衝く』というタイトルです。どうぞ宜しくお願いします。

 

チラシ裏

●4/20「愛のゆくえ(仮)×あの娘が海辺で踊ってる(完全版)」@東中野ポレポレ坐

http://teamjudas.lomo.jp/event_polepoleza_aikari.html

 

★山戸結希

上智大学文学部哲学科。大学に映画研究会を立ち上げ、同年夏に独学で撮影した処女作『あの娘が海辺で踊ってる』が東京学生映画祭で審査員特別賞受賞&ポレポレ東中野での1週間限定上映が異例の爆発的ヒットを記録。二作目『Her Res』PFFアワード入選。松本CINEMAセレクトアワード2012「恐るべき子ども賞」、新政府映画大臣就任。バンドじゃないもん!やおとぎ話のMV制作。

ロックバンドの名手・おとぎ話と新世代ファンタジスタ・山戸結希が、青春と光の爆撃を、少女の遺作を、今だけの花火を打ち鳴らす!『おとぎ話みたい』新宿K’s cinemaにて!

 

★木村文洋

1979年、青森県弘前市生まれ。大学在学中より8mmによる自主映画制作を開始。 2000年度より京都国際学生映画祭創成期のメンバーの一人として運営に参加する。大学卒業後、同世代の自主映画作家の現場に参加し、映画監督の佐藤訪米、井土紀州に師事。 2008年、青森県六ヶ所村再処理工場の近くで生きる一組の男女、家族を描いた『へばの』(西山真来・吉岡睦雄 主演)を初長編監督。第32回カイロ国際映画祭、第38回ロッテルダム国際映画祭などでも評価を受け、ポレポレ東中野において1月のロングラン上映。現在まで国内外で定期的に、自主上映を続けている。長編監督第2作『愛のゆくえ(仮)』(前川麻子・寺十吾 主演)は第25回東京国際映画祭「ある視点」部門において上映、2012年12月よりポレポレ東中野公開、2013年連続上映中。 現在、監督第3作『息衝く』準備中。