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向井秀徳(ZAZEN BOYS)インタビュー◆4/10「HERE AND THERE」出演の前に

4/10に開催される第一回の『HERE AND THERE』は、ZAZEN BOYS抜きには語れない。僕がブッキングを担当したわけではないので、こんなことを言うのはおかしな話だが、『HERE AND THERE』というタイトルが示している「あちらとこちら」、ジャンルだったり、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドだったり、ミュージシャンとオーディエンスだったり、その架け橋になっているバンドとして、ZAZEN BOYSほど象徴的なバンドは他にいないと言っていいだろう。もちろん、ZAZEN BOYSといえば日本屈指のライブバンドであり、メンバー4人の高い演奏能力を基盤とした凄まじいアンサンブルを、エンタテイメントの領域にまで高めたようなそのオリジナリティあふれるステージングは、世界中を見渡しても他ではお目にかかれないもの。彼らのライブが見れるというだけでも、イベントに大きな価値が生まれていることは間違いない。この日の取材では、NUMBER GIRL時代までも振り返りながら、向井秀徳のライブ観について、じっくりと話を伺った。最後に聞いた「生涯ベストライブ」にまつわる実に「らしい」エピソードなど、軽妙かつジェントルな語り口からは、ステージとはまた違った向井の魅力が垣間見えるはずだ。(取材・文/金子厚武、写真/福アニー)

 

 

――今日は「ライブ」をテーマに話をお伺いしたいんですけど、ZAZEN BOYSのライブは初期のころに比べてだいぶ変わってきたと思うんですね。インプロの要素とかは昔からあったと思うんですけど、基本的には「曲を演奏する」っていうライブだったのが、それに加えてメンバーとのやり取りだったり、向井さんのパフォーマンス的な側面も強まってきたと思うんです。そういった変化の背景に、向井さんのどんな考えがあるのかをぜひ話していただければと思います。

 

向井大体その場の思いつきで始まるんですよ。ライブ中に「こんな風に変えてみようかな」って始まって、そうするとメンバーはビビりますよね、いきなり変わってるもんだから。でも、そこで生まれる新しい何かがあるわけだ。失敗することもあるんですよ。ずっこける感じで、「やめときゃよかった」みたいなね(笑)。でも、それが上手くはまって、メンバーも急激な変化に乗っかってきて、新しい世界が生まれて、お客さんも盛り上がると、「面白いな」って。それでそのアレンジを続けていくと、徐々にまた変わっていって、全然違うことになっていったりする。だから、大体最初のきっかけは思いつきですね。

 

――最近のライブではお客さんに歌わせたりもしてますよね。

 

向井そうですね、前はあんまりしてなかったんですけど、客席を巻き込むパターンっちゅうのがありますね。チャルメラのメロディに言葉を乗っけて、一緒に歌ってもらうというか、強引に歌わせてるんですけど。

 

――人に歌わせたり、客席を左右に分けて合唱させたり、いろんなパターンがありますよね。

 

向井あれも最初は思いつきだったんですけど、だんだん形になってきて、今は面白がってますね。前は一緒に客席と合唱するっていうのは、そんなに魅力を感じてなかったんです。それぞれがそれぞれ奇声を発したり、黙ってたり、こっちはこっちで盛り上がってたり、いろんな人たちの感情の渦がどんどん渦巻になっていって、大きなうねりになるっていうのがライブの醍醐味だと思うんで、一緒になって何かひとつの束になるっていうことはあんまりしてなかったんですね。みんなで一緒にこぶしを振り上げて、縦ノリで、一体感が生まれるアンセムみたいなね。そういうのはあんまり興味ないっていうか、ちょっと違和感を感じるんですね。

 

――それを否定するわけじゃないけど、自分がやるのには違和感があると。

 

向井そう、だから今やってるのも、決して「俺たちは仲間だ」みたいに一体感で盛り上がりたいわけじゃないんだけど、ステージと客席を行き来する感じでコミュニケーションするっていうのが最近は多いですね。まあ、ほとんど一方的にズカズカ客席に入っていってるだけですけど

 

――でも、それがまたさらに変化していって、思いもしなかった世界が開けてくるかもしれないですよね。

 

向井かもしれないですね。あとは単純に、曲ができて、それをレコーディングしましたと。それを発表して、ライブでやり始めると、曲がより自分たちの血肉になっていくというかですね、より生き生きしてくるわけですね。それでどんどん楽曲が育っていくというか、そういう実感はありますね。

 

――レコーディングの段階だとまだ原型で、それからツアーをして、ツアーファイナルでやっとその曲が完成する、みたいなこともあるでしょうね。

 

向井まあ、完成するというよりは……例を挙げて言ったら、『ZAZEN BOYS 4』に“Asobi”っていう曲が入ってるんですけど、あの曲は音源では完全に打ち込みのサウンドなんですね。でも、ライブではバンドの演奏ですから、ライブでどんどんやっていくことで、曲が魂を持つというかですね、肉体的になっていったわけです。あれは同じBPMで、繰り返しのビートですから、曲の中で大きな変化はないんですけど、同じイーブンキックのビートでも、ライブをやっていくことで感じ方が変わっていったりするわけですね。

 

――なるほど。

 

向井あと、それをお客さんの前でやることで、お客さんたちもビート感を知っていくというか、体に入っていくと、ビートを通じてコミュニケーションをしてるような感覚になる、それが非常に心地いいですね。だから、「これが最後の形です」って提示をするつもりはないです。ライブを続けていくことによって、いろんな聴く人の感じ方があるし、それをまた発見していくというか、ライブをやり続けるっていうのはそういうことですね。