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icon 2013.4.19

三宅唱コラム◆4/20〜5/3「Playback」東京凱旋上映の前に

バウス×Playback

三宅唱

 

 4月20日(土)より拙作『Playback』が“バウス”こと吉祥寺バウスシアターで公開となる。昨年末オーディトリウム渋谷での公開後、大阪ほか各地での上映がいまも続いているが、久しぶりの東京都内での上映となる。

 映画の記憶は場所と強く結びつくようで、「かつてアレを観たのはあそこだった」という思い出・事件・物語・歴史が映画館という場所にはこびりついている。「エヌ…」と呟けば誰もがシアターNでみた映画を思い出し(きっとユーロ時代の思い出も)、「セゾン…」と囁けば誰もがシネセゾン渋谷でみた映画を思い出すはずだ(あの煙草モクモクだったロビーとそんな時代が懐かしい)。

 さて、例に漏れずバウスにもいろんな噂や伝説があり、嘘かホントかわからないが、知っている範囲でご紹介したい。

 

(1)バウスのスクリーンには『アンストッパブル』の影がほんのすこし、うっすらと焼き付いている。

 映写が終わったあともなお、スクリーンにそのまま列車の影が焼き付いて残ってしまえ――有史以来だれも成しえなかったこの挑戦に、実はトニー・スコット(と爆音上映映写チーム)がバウスで成功している。2012年12月30日の夜のことだ。この日はトニー・スコット教デンゼル・ワシントン派の方たちなど多くが集まり、この壮大な試みを目撃した。冒頭からタイトルまでの数カットのうちにそれは実現した。

 なんだか書いているだけで空しくなってくるが、そんなことがあったと信じてみたい。映画はたしかにただの影だ。映写機の光がフィルムを透過して、その影が動いているだけ。トニー・スコットは、そんな影こそを愛する男たちをたくさん描いてきた。『デジャヴ』はいわずもがなだが、『アンストッパブル』にもそんな人間たちが沢山でてきたことを思い出す。冒頭、ミラー越しに妻と娘をみつめるクリス・パイン、操縦席のバックミラー越しにクリスをみつめるデンゼル、テレビのニュースに映ったデンゼルの影に興奮する娘たち、などなど。

 白黒フィルムで上映される『Playback』は、より強くその「影」感に溢れているはずだ。ぜひ『Playback』の影を愛してくれると嬉しいです。

 

(2)バウスは幾度も地震と津波をくぐりぬけ、サーファーとスケーターの聖地となった。

 2005年の秋に『地獄の黙示録』、2006年の初夏に『クリスタル・ボイジャー』、『ライディング・ジャイアンツ』という大波映画が相次いでバウスを襲った。このとき、最も強烈な揺れと波を記録したのは『エスケープ・フロム・LA』だった。

 『ロード・オブ・ドッグタウン』をバウスで観たとき、「映画館できくスケボーの音、やべえ!」と気づき、はじめて映画館で “Wish You Were Here”を聴いて「この曲、めっちゃせつねえ!」と気づいた。もしあのときバウスであのスケボーの音を聞いていなかったら……。たとえ村上淳さんと出会っても、「主人公がスケボーに乗る」という設定を書いていたかはちょっとだけ疑わしい。バウスであのとき観てよかった〜!というかんじです。

 

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(3)バウスはかつてジョニー・キャッシュやジョー・ストラマーなどのたまり場だった。マギー・チャンも一時期いた。

 2005年12月9日スニークプレビューで『レッツ・ロック・アゲイン!』が上映された。恥ずかしながらこのときまで、ジョー・ストラマーをほぼまったく知らなかった。にもかかわらず、今まで最も泣いた映画になった。「無人の店で演奏したよ。それをやると次はヒト1人にも犬1匹にも感謝する。聴いていなくでもだ」(ジョー・ストラマー)。

 かつての栄光から転落した中年の人物が、再び立ち上がろうとする姿。『ウォーク・ザ・ライン』も『クリーン』もそうだ。このテの物語に自分がヨワいことを自覚したのはバウスだった。その後、村上淳さんの顔写真をネットでいろいろ漁っていたとき(下品でごめんなさい)、「一時期のフランク・シナトラに似てるかも?」と思った。今度はシナトラの画像検索……最初に出てくるのが、マイクの前に立っているシナトラだった。結局『Playback』は、「村上さん演じるハジが再びマイクの前に立つまで」という物語になりました。

 

(4)バウスにはゴダールもたまに出入りする。

 これはほかにも言いだすとキリがないので省略。

 

(5)バウスの住所は実はアメリカだ。

 『憂鬱な楽園』派のバウス=台湾説、『サウダーヂ』派のバウス=山梨説など異論あるが、とりあえずバウス一階に超怪しい服屋があった頃、バウスはだいぶアメリカっぽかった。あの服屋はサウス系だった。

 ちなみに『Playback』のロケ地・水戸もかつて湿地帯であり、日本のサウスと呼ばれている。

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 バウスにまつわる数々の伝説、というかほとんど爆音上映の思い出ばかりになってしまった。そう、今年も6月に爆音映画祭がバウスにやってくる!しかもマイケル・チミノ特集!これは必ずバウスに日参しなければなりません!!

 ……さて本題だがまじめな話、ぜひ今回の機会に多くの方にバウスで『Playback』を観ていただき、みなさんに数十年後、「あのときバウスでこんなことがあったよ」とあることないこと語ってもらえれば本望です。そう、たとえば「三宅はバウスで『Playback』のシナリオ書いたらしい」とか「トニー・スコットの幽霊がスケボーに乗って出てきた」、とかね。

 映画館という現場ではいろんなことがおこりうる。そんな場所がぼくは最高に好きです。

 

 

 

 

 

●Information

映画『Playback』

2012/113分/1.85/B&W/Dolby SR/35mm

出演:村上淳、渋川清彦、三浦誠己ほか

監督;三宅唱 製作;DECADE inc. 配給・宣伝;PIGDOM、岩井秀世

第65回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門正式出品

第27回高崎映画祭新進監督グランプリ受賞

「映画藝術」誌 2012年日本映画ベストテン第3位

 

 

『Playback』東京凱旋上映in吉祥寺バウスシアター

4月20(土)~5月3日(金・祝)

連日21:05~

・初日20日(土)は村上淳、三浦誠己、三宅唱監督による舞台挨拶あり(予定)。

・4月26(金)には上映後、一階カフェにて三宅監督によるティーチイン。

詳細http://www.playback-movie.com/

吉祥寺バウスシアターhttp://www.baustheater.com/

 

 

 

 

 

●Profile

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三宅 唱

1984年札幌生まれ。

2007年映画美学校フィクションコース初等科修了。

2009年一橋大学社会学部卒業。

2009年短編『スパイの舌』が第5回CO2・オープンコンペ部門最優秀賞を受賞。

2010年初の長編作として『やくたたず』を製作・監督(第6回CO2助成作品)。

最新作『Playback』(2012)が第65回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門正式出品され、また第27回高崎映画祭新進監督グランプリを受賞した。東京では10週のロングラン上映を記録した(現在全国ロードショー中)。