icon 2013.5.16

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第6回)

五月の天使

文月悠光

 

――天使だったのか

胸の傷口からまっしろな羽をあふれさせ、

あの人は言った。

伏せられた紙たちを一斉に表に返して

わたしたちは

そこにある色や線に見入ったものだ。

真夜中のくぼみに腰をおろして

一滴のしずくを装っていた。

――天使なんていない どこにもいないの

あの人がはばたいてしまわぬよう、

わたしは手にナイフを光らせている。

互いに息を泳がせて

二人きりの海をつきとめるのだ。

あの人の胸に光を浅く描いていると

ただ、まぶしく快かった。

この息の帰り着く場所を思っていた。

 

 

 

●Profile

近影正面(小)文月悠光

1991年北海道生まれ。 2008年、第46回現代詩手帖賞受賞。2010年、第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で第15回中原中也賞、第19回丸山豊記念現代詩賞を受賞。エッセイ・書評などを執筆。ナナロク社のホームページにて詩を連載中。タイツブランドtokoneに参加し、タイツに詩の言葉を載せる。2013年6月、第2詩集『屋根よりも深々と』を刊行予定。早稲田大学教育学部に在学中。

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