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icon 2013.5.8

木村文洋×山戸結希×高橋和博クロストーク採録◆4/20「愛のゆくえ(仮)×あの娘が海辺で踊ってる(完全版)」上映を終えて

観客④:『愛のゆくえ(仮)』は脚本の完成度も非常に高かったと思うんですが、演じる役者さんの言葉を超えて身体から伝達されるものというのがすごく豊かに感じました。年齢を重ねた乳房や背骨のフォルムもとても魅力的でした。

 

木村:今日のお話で言えば、僕は男性的に言語を信じてしまいがちなので…。前作『へばの』でもそうだったんですが、男女問わず裸にしてしまうきらいがあって(笑)。どこかで身体性を獲得したいという欲求があるんだと思います。

 

観客④:身体性ということで言うと、山戸監督も『あの娘』では日本舞踊、『おとぎ話みたい』ではバレエと踊りを扱っていらっしゃいますよね。

 

山戸そうですね、バレエや日本舞踊なども、結局一朝一夕ではなくて、長い期間を掛けて鍛錬されたものなので、少女の肉体に蓄積された時間、生きながら身体に課せられて来た負荷を映画に写し取りたいという欲求があります。踊りを撮ることは、年月が刻印された肉体のフォルムを活写する意味が伴い続けるので、身体性の獲得へのご指摘と共振する部分が勿論あると思います。

 

観客⑤:『あの娘』の、自分の世界を作りあげてしまっている主人公の潔癖さや痛々しさは、現実に近くにいたら嫌ってしまいそうですが、実は海が好きだったり子どものような可愛らしさだったり色んな要素が詰められていてとても魅力的でした。

 

山戸ありがとうございます。主人公の魅力を決定的に担保しているのはどのシーンか?と考えた時に、切り離せず浮かぶショットがあります。『あの娘』は、脚本をせっかく概念的に書いたのに、撮影中になると予期せぬことがドンドン起きてしまい、そういった現場のリアリティに宿る偶然性や外部性に抗え切れないことが多々ありました。その象徴的な箇所として、一番ラストのカットで、主役を演じる加藤さん本人がシーンの設定に耐え切れなくなって笑ってしまったんですね。結局それをOKテイクにしているんですが、あの真偽不明のまま闇に紛れて行くショットが、最終的に主人公の大事な部分を形づくってくれたと思っています。あの笑顔は脚本には書けない。今回の偶然性の最たるものとして思い出されて、実際に映画をつくってみて、そういうことが面白いなと感じました。

 

木村:高橋さんは、映画を制作することも上映することも含めて「映画」だということをよくおっしゃっています。今回の上映に関しても、映写チェックに2時間くらいかけたということなんですが。

 

高橋:やっぱり映画館ではないので、色味と音を細かく山戸さんと一緒に調整しましたね。

 

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山戸:『あの娘』は、映画館の環境でギリギリ成立するくらいの映像なので…今回のようなカフェでの上映は高橋映写技師に調整をしていただくのが必須要件でした。でなければ、映画本来の物語よりも映画の外枠の欠点が先んじてお客さんに届いてしまう危険性があり、これまでの上映でもすごく気を使う部分でした。昨年の秋にポレポレ東中野で上映した時も、最初、「このままだとお金と時間をかけて観に来てくださるお客さんに、グシャグシャな自主映画を観てもらうだけで終わっちゃうなぁ」と思っていました。それなら、「処女作」「自主映画」「学生映画」というウィークポイントとも言える要素の、利点を再射光するアプローチはないかと考えて、『Her Res』との二本立ての上映後、3本目に人力3Dの演劇『さよならあの娘』を連日やりました。『処女の革命3本立て!』と銘打って宣伝していました。

 

高橋 出番を待つ制服姿の女の子がその辺をウロウロしてるんですよ、何事かって(笑)。こういう観せるための「仕掛け」は劇場ならではで、DVDや配信じゃできないことですよね。そろそろ時間なので最後にもう一度訊きたいんですけど、『あの娘』は本当に封印しちゃうの?

 

山戸 観たいと言っていただけるのは本当に嬉しいんですが、毎回毎回上映の度に細かな映写チェックに付き合って頂いたり、演劇やパフォーマンスをやったり、物語を届けるための外枠をきちんと埋めていく作業をしないと1本立ちさせられない作品なので。実際、それだけ出来が悪くて、そうしないと商品足り得ない代物を作ってしまったということだと思います。また、東中野と渋谷の上映を経て、予想をはるかに超えるお客さんに恵まれて、今届けるべき人には届けられたのではないか、という気持ちもあります。これからも続けて、時間と労力をかけて上映していくということも出来ると思うんですが、それより今は監督として、『あの娘が海辺で踊ってる』よりもっと面白い映画を沢山作っていきたいと思っていますので、そのために時間と労力と、今のわたしの全部を使いたいです。もっと強く、広く、深く、人の心に訴求する映画を、必ず撮りたいと思います。本日は封印にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。

 

 

少しでも観客に観てもらえる場(機会)を自ら創り出すことが目的だったはずの上映会での封印宣言。

実はすでにオーディトリウム渋谷での上映の際に封印宣言はされていた。渋谷での最終日に山戸監督とトークをした際、「『あの娘~』は単独で上映するには、あらゆるものが未熟で作品としての強度が足りない。だから今後の上映は考えていません」という趣旨の話に対して、僕は「技術では補えない、大胆かつ繊細な力がある。企画によっては考えてみてもいいのではないか」と惜しんだが、山戸監督は静かに微笑むだけだった。

では何故この場で上映されたのか?きっと『あの娘』を初期から知る人間と共に上映することで、区切り・けじめをつけたかったのではないだろうか。これも作品をどう伝えたいかという姿勢のひとつだと思う。

この日山戸監督は、振り返るよりも先を目指したいとハッキリ言い切った。いまは、その走り出した後ろ姿を「眩しいなぁ」と目を細めて見つめるしかない。そして、『愛のゆくえ(仮)』対バン上映は、また新たな熱を求めてさらに続く。

 

それから約1週間後。コンペ企画「MOOSIC LAB 2013」で上映された山戸監督の最新作『おとぎ話みたい』は、話題が話題を呼び「事件」とも言える盛り上がりを見せ、同コンペのグランプリ、ベスト・ミュージシャン賞(おとぎ話)、最優秀主演女優賞(趣里)を獲得した。

http://news.moosic-lab.com/article/357164984.html

 

 

 

●Information

『おとぎ話みたい』上映情報

「MOOSIC LAB 2013」アンコール上映 新宿K’s cinema(連日21:00~)

5月20日(月)、23日(木)、24日(金)に上映

詳細は「MOOSIC LAB公式サイト」にて→http://news.moosic-lab.com/article/357768137.html

 

 

『愛のゆくえ(仮)』連続上映会vol.3

『愛のゆくえ(仮)』×『ドコニモイケナイ』 Space&Cafe ポレポレ坐 (18:30~)

6月1日(土)上映 2作品上映後、ゲストによるトークあり

詳細は「愛のゆくえ(仮)公式ブログにて→http://aikari.exblog.jp/

 

 

 

●Profile

木村文洋

1979年、青森県弘前市生まれ。大学在学中より8mmによる自主映画制作を開始。 2000年度より京都国際学生映画祭創成期のメンバーの一人として運営に参加する。大学卒業後、同世代の自主映画作家の現場に参加し、映画監督の佐藤訪米、井土紀州に師事。 2008年、青森県六ヶ所村再処理工場の近くで生きる一組の男女、家族を描いた『へばの』(西山真来・吉岡睦雄 主演)を初長編監督。第32回カイロ国際映画祭、第38回ロッテルダム国際映画祭などでも評価を受け、ポレポレ東中野において1月のロングラン上映。現在まで国内外で定期的に、自主上映を続けている。長編監督第2作『愛のゆくえ(仮)』(前川麻子・寺十吾 主演)は第25回東京国際映画祭「ある視点」部門において上映、2012年12月よりポレポレ東中野公開、2013年連続上映中。 現在、監督第3作『息衝く』準備中。

 

 

山戸結希

上智大学文学部哲学科。大学に映画研究会を立ち上げ、同年夏に独学で撮影した処女作『あの娘が海辺で踊ってる』が東京学生映画祭で審査員特別賞受賞&ポレポレ東中野での1週間限定上映が異例の爆発的ヒットを記録。二作目『Her Res』PFFアワード入選。松本CINEMAセレクトアワード2012「恐るべき子ども賞」、新政府映画大臣就任。バンドじゃないもん!やおとぎ話のMV制作。

ロックバンドの名手・おとぎ話と新世代ファンタジスタ・山戸結希が、青春と光の爆撃を、少女の遺作を、今だけの花火を打ち鳴らす!『おとぎ話みたい』新宿K’s cinemaにて!