「確かにBiSは解散するんですけど、BiS階段は残る可能性もありますよね」(プー・ルイ)
――ここまでのお話で、両者の通じ合う部分がよくわかりました。一方で、BiSと非常階段の決定的な違いは、キャリアの長さですよね。非常階段が30年間におよぶバンド活動を続けている一方で、BiSは結成からまだ3年も経っていない。しかも結成当初から将来的な解散を見据えた上で動いている。BiSのみんなは非常階段のように長く表現を続けていくことについてどう思っているんだろう。
プー:BiSとはぜんぜん違う生き方ですよね。ただ、確かにBiSは解散するんですけど、BiS階段は残る可能性もありますよね。
――あ、それは考えてなかった(笑)。
プー:でも、理屈としてはそれもありなんですよ。
JOJO:だって、違うバンドだからね。
プー:そう。私たちは今、BiSじゃなくてBiS階段なので。
――なるほどね。ノンちゃんはどうかな? きっと表現したいことが他にもたくさんある人だと思うんだけど。
ヒラノ:はい。長きにわたって、みんなでやりたいことを共有しながらバンドを続けていくことって、ホントにすごいことなんですよね。それはすごく思います。
JOJO:11月のライヴが終わったあと、ノンちゃんがJUNKOさんに「どうやったらそんな絶叫が出せるんですか」って、すごく真面目な顔で質問してたんですよ。それに対してJUNKOさんは「30年間やってるからね!」の一言で済ませちゃって(笑)。
ヒラノ:もう、ホンットにかっこよくて! キャリアを積んでいる方はさすがだと思いました。
プー:さらっと格の違いを見せてもらったよね。
JOJO:JUNKOさんはこの前にヨーロッパ・ツアー13か所をひとりで回ってきたんだけど、その時に地元のラジオ局に出演してきたんだって。そこは変な音楽ばかりをかける、ちょっとカルトっぽいラジオ曲なんだけど、そこでJUNKOさんは「1時間あげるから、ずっと絶叫して」と言われたらしくて。それでBGMも何もなしでずっと叫んでたらしいよ(笑)。
ヒラノ:ひえ~。
JOJO:そうしたら、そんなラジオ局でもさすがにおかしいと思われたのか、視聴者から電話がかかってきたらしいよ。「これ、大丈夫なの?」って(笑)。本人はケロっとしてましたけどね。
プー:かっこいい! ノンちゃんにもそうなってほしいな。
JOJO:じゃあ、ノンちゃんはJUNKOさんの初の弟子として、一緒にヨーロッパを回ればいいよ(笑)。
――なんだかすごい話になってきたね(笑)。BiSに限らず、アイドルはそのほとんどが短期的な勝負を迫られますよね。そのアイドルという存在をJOJOさんはどう見ていますか。
JOJO:音楽性こそまったく違いますが、僕は若い女の子のバンドを過去に何度かプロデュースしているので、今のアイドルたちが短期間で燃焼しようとしている気持ちはわかっているつもりです。で、これは知り合いの方のツイートから拝借させてもらった話なんですけど、今のアイドル・ブームって、80年代のインディーズ・ブームによく似ているんですよね。『宝島』みたいな雑誌や、〈キャプテン〉(『宝島』が1985年に設立したレーベル)があって、たくさんのバンドが登場してきた。当時のそういう状況を今のアイドルの名前にすり替えると、ムーヴメントの形は変わらないんじゃないか。そういうふうに見ることも可能だと思うんです。
――確かにそれは興味深い見方ですね。
JOJO:もちろん、彼女たちはその時代に生まれてもいないんだけど(笑)。で、僕らやじゃがたら、スターリンなんかはその当時のムーヴメントの中でもアウトサイダーだったんですけど、きっとBiSは今の時代における当時の僕らのような位置にいるんだろうなって。THE WILLARDやLAUGHIN’ NOSEは、今のでんぱ組.incや東京女子流なのかもしれない。あるいはオーケンのいた筋肉少女帯や、紅白に出たたまみたいな存在もいるかもしれない。
――シーンを俯瞰すると構造はほとんど同じだと。
JOJO:そんななかに僕らのようなキャラクターがいて、あのシーンは成り立っていたんです。そして、今のアイドル・ブームにおいてBiSが果たしている役割というものも、やはり必ずあるんですよね。しかも、それはアウトサイダー的なものでありつつ、全体の色取りとしては絶対に必要なんです。僕はそういうふうに彼女達を見ています。
――JOJOさんはこうおっしゃってますが、ご本人としてはどうですか? BiSは自分達の立ち位置をどのように自覚して活動しているんだろう。
プー:えーっと。もちろん、私たちも最初は王道のアイドルをやっていくつもりだったから…ね?
ヒラノ:ね(笑)。自分たちが王道から外れた存在だなんて、まったく思ってなかった。
プー:だよね。それが初ライヴからいきなり叩かれて。でも、「My Ixxx」あたりからそういう路線を自覚したのかな。それで結果として今の位置にいたんです。正直、それが恥ずかしくて友達にBiSのことを話せなかった時期もあったけど、あれからこうして2年間やってきて、今は武道館やオリコン上位を狙えるようになったから。ちゃんと自分たちの居場所をつくれたんだなと感じてます。だから、今は狙ってやっているという意識も多少はあるかもしれない。
JOJO:そこもまた、どことなく非常階段とよく似ているんですよね。僕らは関西のバンドとしてスタートしたのもあって、東京のライヴハウスでお客さんにイヤな思いをさせたいという気持ちがすごくあったんです。それで新宿ロフトにミミズを撒いたりして(笑)。客が全員帰ったらそれが正解。そんな感じでした。だから、彼女達が他とは違うことをやろうとしたのは、すごくよくわかるんです。僕らからすると、アイドルが全裸のPVを作るなんて、あまりに壮絶なことに思えるけど、彼女達の「脱いだらみんなびっくりするだろうと思ってやった」みたいなインタヴュー発言なんかを見ると、それって僕らがステージでゲロを吐いたのとあんまり変わらない動機だなって(笑)。僕らも、ステージで女の子がおしっこをしたというのが、あそこまで話題になるなんて、当時は思ってもいませんでしたから。
――一方で、そうして活動を続けていくうちに、そうやってお客さんを嫌がらせようと思ってやってきた行動が、今度は求められるようになっていきますよね。
JOJO:もちろんそれは困惑しましたね。だって、僕たちは別におしっこをするためにバンドをやっているわけではないですから。僕らがやりたいのはあくまでもノイズなんです。じゃあ、そういうおしっこみたいな要素は排除していくべきか。あるいはその注目を利用しながらお客さんを集めて、ノイズを聴いてもらうきっかけにするべきか。それで僕らは後者を選んだんです。そこで辞めていったメンバーも当然いるんですけどね。きっかけなんてなんでもいいと思ったんですよ。
プー:それ、めっちゃBiSと似てる(笑)。
JOJO:それを目的に観に来たお客さんが、僕らのちょっと普通ではないノイズを聴いて、面白いと思ってくれたらそれでいいんです。それも100人にひとりでいい。今回のBiS階段や初音階段にしてもそうで、実際に聴いてみて、僕らのノイズがいやだと思った人は、そこで帰ってくれていいんです。でも、そのBiSファンのなかにひとりでも「ノイズって面白いな」と思った人がいてくれたら、それでいい。だって、僕はその人たちのためにやっているから。