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飯田仁一郎(Limited Express(has gone?)、OTOTOY、BOROFESTA)コラム◆『JUST IMAGE』発売によせて

それでもやり続けることとは

飯田仁一郎

 

HEATHAZEの編集長、福アニーより依頼されたコラムのテーマは、「それでもやり続けることとは」。自分がギター&ボーカル兼リーダーを務めるLimited Express (has gone?)は、今年で15年目くらい(最初は、コピー・バンド!)。配信情報サイトOTOTOYの編集長としては5年。京都の音楽フェスティバルBOROFESTAは12年。前職の京都のCD屋も8年勤めた。なんにせよ1つ1つが長いのが飯田仁一郎の特徴で、このテーマは見事(笑)。

 

やめたいと思わなくなった最も大きな体験は、2006年の暮れ、Limited Express (has gone?)を解散したとき。当時、海外ツアーに年に3回は出向き、国内のワンマン・ライヴも成功をおさめていたので、外見には非常に好調に見えていたと思う。けれど内部では、ツアーでのストレスや金銭的負担がピークを迎え、メンバーの脱退やその他のよくあるロック的な問題等も抱え、どうにもこうにも前に進めなくなって、大きな解散の決断をした。それで自分達はラクになれると思っていた。けれど、メンバーなんてものは家族のようなもの、音楽と共に生きるのは、服を着るようなもの。解散したって、まったくラクになることはなく、解散前はあんなに苦しかったのに、その苦しみ以上のものがやってくるのかと呪ったものだ。絶えきれずにメンバーに電話をし、「復活出来ないか?」と告げた。少しずつで良いから、新しいやり方を模索してみないかと伝えた。2007年、東京に出てきてしばらくしてからのことだったと思う。

 

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また音楽業界(この言い方が正しいかどうかは置いておいて)に在籍して13年目になる。長くやればやる程、音楽業界の中心を知れば知る程、成すべきことの多さに驚く。自身が音楽の魅力に取り付かれた最も大きな体験は、ボアダムスやTAG RAG RECORDのミュージシャンに出会った時。それまで普通に聴いてきたチャート的な、そしてROCKIN’ON的な音楽のその向こう側に、もっと刺激的で、もっと斬新な音楽があった。そして『聴いたことのない音楽』に出会う喜びを知ることとなる。しかしそんな音楽を掘り下げていけばいく程、そこで活躍するミュージシャン達が音楽で飯を食えていないことを知ることにもなった。ミュージシャンとしての技量や素質は、素晴らしいのに… そんな折、アメリカ/ヨーロッパ・ツアー中に、彼らと同じくらいの技量や素質を持ったミュージシャン達が食えていることを目撃する。彼らは各所を旅しながら、ある時はブッキング・エージェンシーと契約を結びギャランティをもらいながら、またある時は、ベニューや地方のブッカーに宿と食事を保証してもらいながら、音楽漬けの毎日を送っていた。決してお金持ちではないけれど、何よりも楽しそうであった。「あっ! こうやって食える土壌があるのか!」体験し実感し「日本でも、もっと多くのミュージシャンが食える土壌を創れるのではないか!」、自分が音楽業界にいる意味(目的)を切々と感じたのだ。

 

しかし、BOROFESTAを12年続けても、OTOTOYの編集長としてメディアをもっても、残念ながらその目的はいっこうに達成されてはいない(笑)。素晴らしいミュージシャンを紹介する土壌は増えたけれど、リスナーに『聴いたことのない音楽』に出会ってもらいたい欲求はとまらないし、もっと多くの人がそんな音楽を求めるようになれば、もう少しみんな食えるだろうって確信は揺らいではいないのだが。今は、もっと抜本的なシステムを変えていかなければいけないのではないかとさえ思っている。そしてLimited Express (has gone?)は、その『聴いたことのない音楽』を提供出来る存在でありたいと思う。自分達の音楽を聴いて、そんな音楽を知る喜びを体験する人が増えれば幸いだ。またFUGAZIのイアン・マッケイが言った「おもしろいことは、20000人の前で起っているのではなく、20人の前で起こっている」という言葉に影響を受けている。Limited Express (has gone?)で常に現場に立ち続けることによって、新しい音楽に出会い、『聴いたことのない音楽』を紹介出来るインプットを持ち続けたいと常に思っている。

 

自分のテーマは、「やり続ける」ではなく、「粘り強くやり続ける」である。実際、OTOTOYで創った東日本大地震救済支援コンピレーション・アルバム『Play for Japan』のテーマに、「粘り強く、被災地の再建と復興に協力していく」を掲げた。阪神・淡路大震災で被災し、2年後の高校の卒業時にはまだ仮設校舎があり、復興は何年も続くと言うことを身に染みて経験したから。前述した通り、「もっと多くのミュージシャンが食える土壌を創る」という目標は、まだまだ到達出来ていない。CDの売り上げは下がり続け、携帯配信販売のスマートフォンへの移行は上手くいかず、PC配信販売も伸び悩み、音楽産業はもっとも厳しい業界の一つになった。でもね、これ以上の最低はないから、後はあがるだけ。音楽を好きな人々が、ありったけの創造力と興奮をぶち込んで粘り強くやり続ければ、必ずもっと多くのミュージシャンが食える時代がくるだろう。そんな日を夢みて、Limited Express (has gone?)もOTOTOYもBOROFESTAも粘り強く走り続けることにしている。

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●Information

Limited Express(has gone?)『JUST IMAGE』

2013年8月7日発売 2310円(税込) Less Than TV

 

<TRACK LIST>

1.TVフラット

2.PU/AR

3.I See I See I See

4.セルロイド

5.we love this country like banana

6.KEY

7.JUST IMAGE(I don’t want)

8.Spotify

9.affirm it

10.融点

11.CUT

12.NEW YORK SHOCK CITY

※ゲストミュージシャン:DODDODO、谷ぐち順、Ryota Komori(Miila and the Geeks)

 

 

 

 Limited Express(has gone?) 4th album release tour『JUST IMAGE』

8/24徳島、8/25京都、9/7佐賀、9/8福岡、9/28~29北海道、10/5新宿、10/27京都、11/3名古屋、11/4金沢、12/1大阪、1月新宿

 

 

 

●Profile

logo12003年、US、ジョン・ゾーンのTZADIKから1st albumをリリースし、世界15カ国以上を飛び回る。その後、高橋健太郎主催のmemory labより、2nd album、best albumをリリース。WHY?、DEERHOOF、そしてダムド等の日本公演のサポートを行い、名実共に日本オルタナ・パンク・シーンを率先するバンドになるも、2006年突然の解散宣言。半年後、突然の復活宣言。なんとニュー・ドラマーには、日本が誇るPUNK BAND、JOYのドラマーTDKが正式加入!!! メンバーのJJは、ボロフェスタ、PACKaaaN!!!、東京ボアダムを主催。YUKARIは、ニーハオ!のリーダー、TDKはsineのギタリスト等、各人の活動は多岐にわたる。DODDODOとのsprit albumと3rd albumを経て、2013年、Less Than TVから4th albumを予定。

http://www.limited-ex.com/