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浜田真理子インタビュー「全部音楽とも言えるし、全部日常とも言えるし」◆『But Beautiful』発売によせて

「いつも行き当たりばったり、適当なんだけどね」

――ちょっと話を戻しますね。以前のインタビューで、「テーマがタイトルになることが多い」とあったんですが、新作を「But Beautiful」にしたのは?

 

浜田:もともと「But Beautiful」っていうジャズのスタンダードナンバーがあるんですね。愛は可笑しい、哀しい、静かだ、騒々しいときて、「でも美しい」って歌なのね。そこには「いいんじゃない」「まあいっか」みたいな意味も含まれていて。美しいものを常に目指してるわけなんだけど、どろどろしたことを歌っているし、内容は必ずしも美しくないかもしれない。それでも美しいってニュアンスを出したくて…デモを並べてみたときに、マネージャーとふたりで決めましたね。

 

――どんなことを歌われてても、最終的には希望が見えるってそういうところなのかな。

 

浜田:いつも行き当たりばったり、適当なんだけどね。「ミシン」なんて「男子は全員逃げる」みたいな。大友さんなんか「怖い」って部屋から出たもん。ファンタジーかと思いきや、サスペンス劇場だよね。そういうサプライズ好きだし、お客さんからは「ギャップ萌え」って言われました。「森へ行きましょう」って童謡でもあるから、それだと思って聴いたお客さんも、「身ぐるみ剥がされて樹海に連れて行かれるんですか!?」っておののいてましたよ(笑)

 

――確かに内容はハードですけど、ジャケットはファンシーでポップですよね。

 

浜田:今回、内容もすごく変わったことにチャレンジしたので、ジャケットもチャレンジしてみようと思って、いままでに頼んだことのない俣野温子さんにお願いしたの。俣野さんはプロダクトデザインの方で、傘やハンカチもすごくかわいい。偶然にも彼女の絵本を持ってて、はじめてお会いしたときに意気投合して。最初ジャケットを持ってこられたときはいままでにない感じでびっくりしたけど、彼女のスタイルやカラー、思ったことを受け止めて、そのままOK。俣野さん、私のイメージが小さい魚らしくて。それと今作のキーとなるミシンとドレス。暖色系が多かったなかで、青、黒、赤っていう原色を使ったものもなかったし、違う視点が入ってきておもしろかった。

 

――紙ジャケの質感もいいですね。

 

浜田:CDって配信もあって、あと何年寿命があるかわからないじゃない。だんだんモノ自体がなくなっていく今日この頃だけど、そんななかで絵本みたいに飾って、部屋のなかがぱっとしてくれたらうれしい。プラケースよりも紙ジャケにこだわってるのはそういうところかも。そこまで大切につくりたいな。

 

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――アルバムは豪華ミュージシャンと、ライブはピアノ一台でやられるわけですから、同じ曲でもアルバムとライブで違った顔が楽しめますね。

 

浜田:うん。いつもやってることの記録としてアルバムをつくるんじゃなくて、アルバムでしかできないことをやりたかったの。ライブはひとりだからアルバムの再現は不可能なんだけど、同じものの裏と表、原作と映画の関係のような…「読んでから観るか、観てから読むか」って角川映画のキャッチコピーじゃないけど、「聴いてから観るか、観てから聴くか」って感じ。今回のツアーはアルバムの収録曲順に全曲プレイしてるんだけど、あまりにも違うから、ライブ盤を出してほしいってお客様もいたし。ライブを音源の再現ととらえる向きもあるけど、私は完全にふたつのものだと思ってる。もし参加メンバーを誘ってライブしたとしても、アルバムは録音した3日間のバージョンでしかないし、永遠に再現はできない。どっちが答えってわけでもないし。

 

――一回性を大事にされてるんですね。

 

浜田:ライブって一回しかないからね。同じテーマで同じことをずっとやってたとしても、岡山と高松と大阪と名古屋ではお客さんの反応も全然違う。でもいつもピアノと声だけだから、そこで飽きないように来てもらうっていうのは工夫してますね。とくに知らない歌を聴いていただくときは、裏話なんかをMCでするとその情景が見えやすくなって、お家に帰って音源を聴いたときも楽しいかなって。

 

――そんな気配りを。毎回のライブは、ご自身とピアノのコンディションもあるでしょうしね。

 

浜田:声もピアノもPAも、毎日調子が違うわけで。違う曲のイントロを弾いてしまったとか、うっかりイントロを忘れていきなり歌い出してしまったとかも多々あるけど、それもその日の味になる(笑)ピアノだけは持って歩けないので、出会いなんですね。今日は高音がきらきらしてるピアノだから、今日は低音が魅力のピアノだから、それを活かそうって。楽譜があるわけじゃないし、どう弾けと決まってないので、リピーターのひとは「その日の演奏」を聴きに来てるんだと思います。何度でも楽しんでいただきたいし、私も各地をまわっててずーっと楽しいもん。それこそ即興性高いから、毎回違うことやるのが好きですね。

 

――浜田さんはライブ盤も多いですが、ライブをドキュメントしておきたいという意志があるからでしょうか。

 

浜田:うん、当時はOLしてて有給やGW使ってツアーしてたので、ライブ自体も少なくて、記録という意味もあって録ってたんだけど。5年前にOLを卒業してライブの数も増えたので、そろそろまたライブ盤も出したいですね。

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――ライブってどういうものですか

 

浜田:ライブはほんとにめんどくさいし、疲れるし、体調コントロールで気が狂いそうになるし、移動は大変だし…「でも美しい」。やっぱりやったあとの快感を味わってるからね、おもしろいですよ。

 

――新譜のタイトルにつなげてきた(笑)いまと昔で、ライブへの向かい方も違うものですか。

 

浜田:最初の頃はすごく緊張してて、お腹痛かったなあ。あがり症を克服するセミナーとかボディワークとかいろいろ行ったんだけど、ちゃんとやらなきゃいけない、お客さんは全員敵だ、いざ出陣って感じで。でもみんなお金払って私を見に来てるんだ、全員味方って見方を変えたら、楽になって。いまはいい意味で適当にのぞめてますね。

 

――年齢を重ねて見える境地も違ってきた。

 

浜田:年取ったのと、場数踏んだのと、視点が変わったってことね。いままではとにかく私がちゃんとやらなきゃいけないんだって思ってたけど、それは悪い緊張だったと思う。いい緊張っていうのはアドレナリンを出してパフォーマンスをあげるためのもので。その緊張感のなかで、みんなでつくるって言うとくさいんだけど、会場一体となりつつも、笑ったり泣いたり考えたり、ひとりひとりが違う感情を持つ。そういう場ですよね、ライブって。

 

――お客さんの層も幅広いですよね。

 

浜田:シニア世代が多いよ。フォークのカバーを歌いもするから、団塊の世代にすごく支持をいただいてね。おばさんは絶対仲間を連れてきて、おじさんはひとりで来るひとが多いかな。おばあさんとお母さんと子ども、父と娘で来るひとも。渋谷CLUB QUATTROでやるために、椅子買ったんだから(笑)

 

――グッズも渋そうですね…

 

浜田:グッズとファンクラブはやらないことにしてるの。「真理子倶楽部」って有志はあるみたいだけど(笑)でもサイン会はやるから、冠婚葬祭とかの四方山話で盛り上がって。やっぱり顔が見えたいじゃん。ライブって拍手だけだからわかんないでしょ。でもそうやって話をしていると、このひとのためにやってるんだなってわかるし、すごく楽しいですね。