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浜田真理子インタビュー「全部音楽とも言えるし、全部日常とも言えるし」◆『But Beautiful』発売によせて

 「ミュージシャンのギャラは『9円』って昔から決まってるのよ。『食えん』のよ」

 ――音楽一本になったいま、「生活を音楽だけに捧げる暮らしは考えられない」とおっしゃっていた当時とはまた違った心境ですか。

 

浜田:「音楽やってるんで」ってすかした感じではないね。親の病院ついて行ったり孫の子守りしたり、日常をたっぷり味わいつつ、ちょっとツアー出てくるんでお父ちゃんの食事頼むねって感じかなあ。全部音楽とも言えるし、全部日常とも言えるし。

 

――歌手、娘、母、祖母と、いろんな顔をお持ちになって。切り替えは上手?

 

浜田:女子会もするしね(笑)OLやめた直後は、1日をどう過ごせばいいんだろうっていう退職したお父さんみたいになってたんだけど…映画や本に触れる時間が増えたし、国境なき医師団のCMをやって興味がわいたボランティアをやってみたり、NPOに入ってみたり。いままではまわりに目を向けると自分がぶれそうで怖かったから、閉ざして自分の音楽だけをストイックに考えてきたけど、もうちょっと広く見られるようになりましたね。

 

――女子会をやっているつながりで、ご自身を○○女子にたとえると?

 

浜田:おっさん女子だね。「めんどくせ~な、いいじゃんどうだって」みたいな。すぐ笑いをとりたくなっちゃうし、うがった見方しちゃうし、ギャグ大好きだよね。いまじゃ楽しいことだけしようと思って、地元のローカルテレビでバラエティ番組のレギュラーやってるし。山陰の森ガール目指そうかな…

 

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――「東京でやってみないか」とか、いっぱいお話も来たんじゃないんですか。

 

浜田:最初の頃はあったけど、娘が18になるまではちゃんと松江にいようと思ったから。娘が18になって就職もして、私も40ちょっとで会社が解散して、さて東京行くかどうするかなんて一瞬考えたときもありました。でもそのときにいろんなひとと出会って外に目を向けたら、地元のよさやおもしろさがわかって、このままでいいなって。ストイックにやってるときって、気持ちが東京に向いてたんだけど…あなたいま何歳?

 

――30です。

 

浜田:そうすると自分の仕事や立ち位置に対してものすごくストイックだし、こうしなきゃ、こうありたいってところに向かってると思うのね。私も20代、30代のときは「いや私の音楽性は」「そういうCMやってる場合じゃないんですよ」っていう。青かったとも言えるけど。

 

――誰もが通る道だとも言えますね。では島根に根を下ろそうと思ったのはお子さんのこともあったけれども、彼女が成長したあとも居続けたのは…

 

浜田:単純に、東京に出てくる意味がわからなくなったの。別にこっちでも音楽できるし。20代のときは東京がすべてだったから、東京に行かないと話にならない時代。バブルの時代。いまと違ってネットもないしね。でも私は子どもが生まれてシングルマザーで育てなきゃいけないってなったときに、東京でひとりでは育てられないと思った。親戚もいないし、「子どもが寂しい思いしてまでやる音楽ってなんだ?」って。「まず自分の人生や生活があって、それで音楽やるのが筋じゃないか」「生活に追われてバイトして部屋代払って…いや、無理」「だったらお客さんに、東京からこっちに来てもらえばいいじゃないか」って。強がりとも言えるけど。

 

――上昇志向はありました?

 

浜田:なにが上かってことだよね。はじめたときから売れたいとかはほんとになかった。売れるってことと、いいってことはちょっと違うじゃん。ただほんとにいい音楽、すばらしい音楽がやりたくて、若いときはそれをやるためには東京しかないと思い込んでいたの。でもいまは時代も変わって、どこにいてもネットで世界中に発信したり、自分でCDを作ったりできるわけだから。音楽の知り方も多様になったよね。

 

――時代と心境と環境の変化と。33歳でファーストアルバムを出して15年たったわけですが、当初はここまで続くと思っていました?

 

浜田:とはいえ、18くらいから人前でピアノは弾いてたからねえ。そのときから「いい音楽ってなんだろう」ってずーっと考えてるわけ。テレビで流れたらいいの、どう考えてもこれはおかしいなってのもあるじゃない。それで仲間に出会って、私の事務所ができて…やっぱりミュージシャンって食えないので…

 

――本質言っちゃった(笑)

 

浜田:ミュージシャンのギャラは「9円」って昔から決まってるのよ。「食えん」のよ。地元でもミュージシャンになりたいんですってひといっぱいいるけど、食べれないよって言う。どんだけまわりに迷惑かけてやっていく覚悟があんのってことなのね。私は家族の協力もあったし、OLもしてたし、やめたいまだって事務所からお給料もらってるからやってられるわけで。ミュージシャンって古代から、誰かの庇護のもとにあるわけ。大名、殿、宮廷お抱え楽士、パトロン…なくたって世の中成り立ってる職業だからね。私はピアノ弾きの仕事もしていたんだけど、店の経営が立ち行かなくなると、一番先に切られるポジションなの。それを身をもって体験してるからねえ。歌の力って言うけどさ、じゃああなたそれで食べれるわけ?それでお腹いっぱいになるわけ?そこは知っとかないといけないと思うの。俺の歌の力でみんなを幸せにする?ふざけんなって(笑)

 

――きれいごとだけじゃないんだよと。

 

浜田:311のあとも、「そんな歌、歌われたって…」って感じじゃないの。まずはライフラインが整った後の話で。ただ、音楽がなくてはやっぱり人生味気ないと思うし、音楽を知らないひとはやっぱり寂しいと思うわ。

 

――ここまで続けてこられた浜田さんのモチベーションって、音楽が好きってだけ?

 

浜田:もうそれだけですよね。子育てが忙しくて、音楽やってる暇ないわってやめてたときもあるし。でも失恋したら歌わずにはいられない。昔は自分の体験と歌詞が直結してたけど、その距離が年とともに離れてきたというか、だんだん創作もできるようになって。前は自分の身の上に起こった出来事しか書けなかったけど、たくさん書いてるうちにまだ会ったこともない想像のひとに起こったことも書けるようになってきたかな。

 

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――改めて、今回のアルバムができてのいまの気持ちを教えてください。

 

浜田:5作目なのに、はじめて自分でつくった感じ(笑)アルバムつくるのがすごく楽しかった。やっと自分も意見交換のなかに入れたかな、それがうれしいなって。ライブ感があって、そのときの一瞬のみんなの気持ちを切り取ってのこせた。ずっと「つくっていただいてた」感じがあったんだけど、今回「みんなで一緒につくったね」って手ごたえがあったので。いままで助けを借りたら悪い、負けだと思ってたんだけど、助けを借りるのが恥ずかしくなく、ひとのアイデアはどんどん使おうって。

 

――自ら開いていったんですね。

 

浜田:そう、なんでも自分なんだよね。自分が開いたら、どんどんいろんなことが入ってくる。そうするとまわりのことがよく見えたり、いろんなお誘いがあったりするので、そういうところに嫌がらずに顔出してみようと思って。まさか自分がNPOに入るとはねえ…若いときはそんなのださいと思ったけど、意外とやってみたらおもしろいし、自分がださくしなければいいだけでね。

 

――自分で自分をぶっ壊していく。

 

浜田:そうなの。ださいって言ってたのも自分だし、同じことをださくないと思うのも自分だし。結局、全部自分がつくってるんだよね、窮屈だと感じることも、つらいなと感じることも。なぜつらいかというと、自分はこうでないといけないって前提があるから。その前提を考えたのも自分なんだから、それを変えちゃえば、なんでもありなんだよね。

 

――最後に、次のアルバムもオリンピックのように4年後くらいになりそうですか?

 

浜田:もうちょっとがんばろう(笑)できれば生涯現役でいたいけど、いつまで歌えるかわかんないし、体力つけてね。あ、ライブ盤は作ろうかと。すっごいマニアな選曲にしよう。これやったら驚くだろうな、これやったら笑うだろうなって常に変なことを考えてるので、おもしろくするためにこれからも「ふりかけ」かけていきたいですね。

 

 

 

 

 

 

●Information

浜田真理子『But Beautiful』

2013年7月24日発売

SFS-016 2,500 円(税別)

販売元:美音堂

 

 【収録曲】全て作詞・作曲:浜田真理子
01.森へ行きましょう(①)
02.ミシン(①)
03.遠い場所から
04.ためいき小唄(②)
05.花散らしの雨
06.ちょっとひとこと(②,③,④,⑤)
07.はためいて (③)
08.骨董屋(⑤)
09.Good Bye,Love(④)
10.啓示(③,⑤)
11.あなたなしで(①)
12.五十雀

 

【参加ミュージシャン】
①phonolitestrings<水谷浩章(contrabass,strings arrangement)梶谷裕子(viola)橋本歩(cello)平山織絵
(cello)>
②水谷浩章(contrabass)
③大友良英(electric guitar,acoustic guitar)
④外山明(drums)
⑤近藤達郎(harmonica,accordion,mellotron)

 

【録音・ミックス・マスタリング】zAk at St-robo

 

【ジャケットデザイン】俣野温子

 

 

 

 

●Profile

profile浜田真理子

1964 年島根県生まれ、松江市在住。’98 年暮れ1st アルバム『mariko』をリリース。東京の大型CD ショップの試聴器でロング・ヒットする。’02 年レーベル美音堂が設立され10 月に2nd アルバム『あなたへ』をリリース。ライブ活動を年間数本のペースで始める。’03 年12 月廣木隆一監督、寺島しのぶ主演映画「ヴァイブレータ」にて「あなたへ」が挿入歌となり話題になる。’04 年7 月MBS・TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」に出演し反響を呼ぶ。’06 大友良英プロデュース3rd アルバムj『夜も昼も』をリリース。地元島根を舞台にした錦織良成監督映画「うん、 何?」(’08 年5 月公開)にて音楽を担当する。’08 年11 月世田谷パブリックシアターにて、演出家久世光彦のエッセイ「マイ・ラスト・ソング」を題材にした音楽舞台で女優小泉今日子(朗読)と共演し好評を博し、各地で開催を続ける。’09年3 月NHK ドラマスペシャル「白洲次郎」にて『しゃれこうべと大砲』が挿入歌に起用される。’09 年4作目となる『うたかた』をリリース。’11 年資生堂アースケアプロジェクトCM に『LOVE YOU LONG』を書き下ろす。’12 年8 月プロジェクトFukushima!のイベントを松江、郡山で開催し、新曲『はためいて』を書き下ろす。13 年3 月より大友良英をはじめ、プロジェクトFukushima!の関係者を講師として迎え、原発を考える講習会「スクールMariko」を半年にわたって松江で開催予定。’13 年5 作目となるアルバム『But Beautiful』をリリース。

http://www.beyondo.net/mariko/