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icon 2013.10.6

8/7 BiS階段@渋谷WWW ライブレポ

BiSと非常階段。この悪名高い両者の共演ということで、僕は期待に胸を膨らませつつ、念のために耳栓を用意して渋谷WWWへと向かった。

 

入場待ちの列に並ぶと、一枚の誓約書が回ってくる。どうやらこの日の演出はすでに始まっているようだ。つまり、ここから先は何がおころうと責任は取らない、ということらしい。なるほどねーと思いながら、特に迷うことなくサインを済ませて入場。すると会場内にはステージ上からフロアの床まで、全面にブルーシートが敷き詰められている。うん、たしかにこれはイヤな予感しかしない。

 

まずはオープニングでBiSのライヴがスタート。サクサクと楽曲を披露しつつ、いつも以上にゆるい挨拶を挟んで、あっという間にライヴは終了。やはりこの日のメインはBiS階段ということもあってか、肩慣らしといった感じのパフォーマンスだったが、場内はすでにものすごい熱気と盛り上がりっぷりだ。さっそく汗が止まらない。

 

続いて非常階段の4人が登場。BiSのファンに向けて、アルバムがリリースされた喜びを伝えるJOJO広重。彼が話す姿を初めて目の当たりにした人は、きっとあの温厚な語り口に拍子抜けしたことだろうと思う。でも、それはもちろん演奏が始まる前までの話。T. 美川がノイズを立ち上げると、JOJOのギターと岡野太のドラム、そしてJUNKOのまるで超音波のような奇声が交わり、そこからは気の振れたような爆音が延々と続いていく。当然お客さんのなかには難しい反応を示した人もいるはずだが、ぱっと見渡した感じだと、このいつ終わるとも知れないノイズの洪水を、概ねどの人も楽しんでいるようだった。

 

30分間ノン・ストップの爆音が止んで、いよいよ本編のセッティングが始まる。ステージ上に大量の一斗缶が運ばれていき、そのたびに客席から「えー!」とか「マジかよー」などの声が上がる。フード付きのレインコートで身を包んだスタッフの姿を確認して、とりあえず自分はなるべくステージから離れた位置で観ることに決めた。

 

BiSと非常階段のメンバーが揃って登場し、いよいよ演奏がスタート。やはり1曲目は戸川純のカヴァー「好き好き大好き」だ。オケがはじまり、非常階段がそれを掻き消さんばかりの極悪非道なノイズをまき散らしていく。するとおもむろにスカートの中へと手を入れ始めるBiSの6人。彼女たちは歌いながらパンティーやらブルマやらを客席に投げつけ、お客さんはそれを手にしようと群がっていく。開始からわずか数分。目の前には凄まじい地獄絵図が広がっていた。

 

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切れ間なく非常階段の演奏が続いていくなか、BiSの6人はステージ上から怪しげなものを次々とフロアに放っていく。生理用品、消火器、生食品(たぶんイカ)、蛍光色の液体…。音源で聴くとBiS階段の楽曲は妙に泣けてくるんだが、それがライヴになると別モノというか、そんなおセンチな気分になる余地などまったくなし。BiSちゃんたちのテンションもやはりいつもとは違うようで、モノを投げるだけでは飽き足らず、ひっきりなしに客席へとダイヴしていく。

 

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カラになった一斗缶を投げつけ、豚の頭でトドメの一発。強烈な耳鳴りを残して、BiS階段はステージを後にしていった。少しずつ我に返る観客たち。会場中がとにかくイカ臭い(比喩ではなく、そのままの意味です)。

 

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結局、耳栓は使わなかった。非常階段およびBiS階段の鳴らすノイズは、始まりこそびっくりするけど、耳にしているうちにだんだんと心地よく、穏やかな気持ちになっていくのが不思議だ。ただ、あくまでもこれは僕自身の感想だ。なかには終わりが見えない爆音に恐怖を感じた人もいるだろうし、BiSのパフォーマンスに感化されて攻撃的な精神状態になった人もいたかもしれない。どちらにしても、他ではまず得られない体験だったことは間違いないと思う。

 

この数日後、ミチバヤシリオがBiSから脱退することを発表した。ノイズに触発されて覚醒したような振る舞いを見せるBiSのなかで、いつもと変わらずニコニコと楽しそうな表情で一斗缶を投げていたミチバヤシの姿が、今も忘れられない。(渡辺裕也)