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鈴木卓爾監督インタビュー「うさぎみたいに『見続けている存在』がいて欲しい」◆最新作『楽隊のうさぎ』公開によせて

「音の粒をそろえることに集中すると、余計なものは見えなくなるから」。劇中のこの一言に、ぐっと引き込まれた。

 

「授業が終わったら、早く家に帰りたい」と考えている引っ込み思案の中学1年生・奥田克久は、ある日不思議なうさぎに誘われ、学校で練習時間が一番長い吹奏楽部に入部することに。友達とのいざこざや自分のなかの葛藤に迷い悩みながらも、音楽のおもしろさに夢中になっていく。そして、定期演奏会の日がやって来る――。

 

中沢けいの小説『楽隊のうさぎ』を、音楽の街・静岡県浜松市の市民映画館「シネマイーラ」が中心となり、『ゲゲゲの女房』『私は猫ストーカー』で知られる鈴木卓爾監督が映画化した。ちなみに鈴木監督も静岡県磐田市出身。主要キャストはオーディションで選ばれた中高生46人。そのほとんどが浜松市在住で、まさに「ひと」と「まち」の愛情が作り上げた一本になった。

 

演技経験や演奏経験がある子もない子も一緒になって、1年という年月をかけ、じっくり練習して撮影に臨んだ。劇中の演奏はすべて本人たちによるもので、たどたどしくもみずみずしい音になっている。そして宮崎将、山田真歩、井浦新、鈴木砂羽など、実力派のキャストが脇を固める。

 

いわゆる熱血感動物語ではない。小気味いいテンポでもなければ、派手でもない。だが、音楽になる前の音の粒、人と人の間の距離、表情の機微に目を凝らし、耳を澄ますことのできる映画だ。静謐でどこか生々しい。

 

HEATHAZEでは、渋谷ユーロスペースや新宿武蔵野館などでの公開に合わせ、鈴木監督にメールインタビューを敢行。映画とは、「見つめ続けること」なのかもしれない。(取材・文/福アニー)

 

 

「音楽映画の持つ熱と爆発力は昔からやってみたいことのひとつでした」

――本作、よくある熱血感動物語ではなく、淡々とおさえた演出が印象的でした。原作も、吹奏楽の甲子園と言われる普門館での全国大会をめざす物語ではあるものの、劇的ではありません。優勝を競わない定期演奏会という設定、吹奏楽の花形ではない打楽器が主役など、映画ではどんなアプローチで原作の魅力を引き出そうとしましたか?

 

鈴木卓爾(以下、鈴木)沢けいさん原作の小説の魅力は、たくさんの部員のいきいきした表情を描き出したところにあるのだと思いました。映画化にあたって、劇的ではないむしろ音楽に向かう日常の中でうまれるさまざまな瞬間にこそ光が当たっているような映画を目指しました。パーカッションの立ち位置からは大勢の部員の後ろ姿が見渡せる。その意味では部の土台となる立ち位置からの集団の中の主人公が見えて来る魅力があり、みんなで音を出すという作業が克久の視点で見えてくるように作られました。定期演奏会が映画の山場になったのは、音楽監督の磯田健一郎さんの提案が大きかったです。小説『楽隊のうさぎ』の音楽に向かっていく過程を、じっくりと映画の時間として描けたと思っています。

 

――「音楽はだめなほう」と語る鈴木さんが、原作を映画化することになったきっかけを教えてください。音楽の街・浜松の全面協力の経緯なども。

 

鈴木:脚本の大石三知子さんが、以前から小説『楽隊のうさぎ』を音楽映画にしたらどうかという企画を暖めていたのを、プロデューサーの越川道夫さんに提案し、同時に、浜松のミニシアター「シネマイーラ」の榎本雅之支配人が浜松を舞台にした映画を市民のみなさんに参加してもらいながら作れないだろうか?という提案とが、ひとつになったかたちでお話をいただき、スタートしました。私は、音楽はまったく聴くばかりで自分からは出来ないし、音楽がどうやって生まれて行くのかも知らなかったのですが、音楽映画の持つ熱と爆発力は昔からやってみたいことのひとつでした。NHK「中学生日記」や「さわやか3組」の脚本の仕事をしていたこともあり、十代の子供達の持つ存在感や瞬発力はとても魅力的だと思っていたので、若い人達の映画を作る事もしてみたかったのです。

 

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――劇中では演技・演奏経験のある子もない子も、一緒くたになって時間を紡いでいますね。観ていて違和感がなかったのですが、演技や演奏のラインを合わせるのに、指導や練習などで工夫したことはありますか?「子どもたちに物語が寄っていった」とおっしゃっていましたが。

 

鈴木:音楽の練習も芝居の練習も、撮影期の間の時間に、じっと見るというアプローチをしていきました。磯田さんは吹奏楽部を導いて行きながらも、パートごとの先輩が後輩に教えるという学校の部活動のように任せる事で、ひとりひとりがひとりひとりと関係性を紡いで行くのをじっと見つめ続けてくれました。その様子を磯田さんの背後から越川プロデューサーが物語の中の人物ではなく、目の前の人物から『楽隊のうさぎ』の物語が重なってくるようにじっと見るのを補佐してくれて、芝居の練習では、場面ごとにみんなの選ぶ感じ方が動きになって出てくるのを、やはり見続けました。そうやって、どこかこの映画のあるべき方向性をじっくり見つけ続けていきました。

 

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――とくに中学生男女のじゃれ合う場面や、音を出すシーンは無骨で生々しかったです。ストーリーのテンポもゆっくりで、派手さもなく、しかしじっくり丹念に撮ったことが伝わってきました。1年かけての撮影、くじけそうになった期間やシーンも多かったのではないですか?とくに男の子は、身体的にもみるみる成長していきそうですし…

 

鈴木:出演してくれているみんなはちょうど一生のうちでも激変している時期です。それは、私達が願った事でもありました。めまぐるしい変化を迎えているみんなの発散する、静かで大きな爆発力を見たかったのです。オーディションに来てくれた事で、一緒に映画を作るようになり、芝居も初めての子達なので、プロの俳優さんとの作業のようなてきぱきとした作業が進められるわけではないので、コントロールをどこまでしてもいいのか、いけないのか?わからなくなることがありました。この映画の作り方は、この『楽隊のうさぎ』の時間の中から発見しなければいけなかったのです。それは簡単でなかったし、私のキャパを超えたものでした。磯田さん、越川さん、スタッフのみんなに助けられながら、映画の作り方そのものを、キャストの皆を見る事で教えられて発見して行く時間でした。それはやはり、最初に願った事だったのではないかと思っています。