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鈴木卓爾監督インタビュー「うさぎみたいに『見続けている存在』がいて欲しい」◆最新作『楽隊のうさぎ』公開によせて

「人と人の間が離れたり縮んだりする、そういうものを見たいのです」

―― 劇中の演奏シーンはすべて同時録音とのこと、音録りでもっとも苦労したことはなんですか?

 

鈴木:原作小説のみんながいきいきした音楽を奏でる時間、その音楽を映画のかたちにしていく時、出演者みんなの息づかいがいきいきと伝わるものでないとそれは目指せない事もあり、今回の音楽は全て同時録音で現場で一発撮りのものを使う方針がありました。それがどんなに大変だったか、音楽監督の磯田さんが参加してから始めて私達はわかりました。

普通のドラマに足し算的な意味あいで音楽映画という物をとらえていたのですがそれが間違いで、いわばかけ算のようなものだったんですね。

「Flowering Tree」というオリジナル曲が生まれたのは、定期演奏会で森先生が作曲した曲をみんなで演奏するという提案を磯田さんがしたところから始まりました。磯田さんは、花の木中学校の吹奏楽部のみんなの自分たちの音楽をやるんだという気持ち、それはみんなでやることなんだという、その意識から育てて行ったんです。

楽曲は、部員ひとりひとりのアテ書きのように書いたと磯田さんは言っています。

越川さんは、全体練習の中での、楽器に向かうありようや休憩時間のなかでの姿をじっと見る事で、ひとりひとりのしぐさの発見や、みんなの主体的な振る舞いを見いだす事をやってくれました。脚本の大石さんにふって、台本の中へそれを反映し練り直し、というお芝居の作業も同時進行でした。

演奏の時間にも、ひとりひとりの芝居が必要だし、理由がいるんだと言う事、その具体を見つけて行く事が必要だったんです。

いわば目に見えないキャッチボールのような作業を、キャストスタッフ全員でやっていったんです。

戸田義久さんのカメラが、本番の演奏を手持ちカメラでひとりひとりとらえていく時の根拠、そして映画の後半の流れの中から、花の木中学校吹奏楽部が演奏をする中に、音楽そのものが生まれる時間が生じるような生々しいもの、それは全てが連携をしなければ、けして得られないもので、そこまでやっていっての同時録音の意味だったんです。

 

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―― 私も以前、ヤマハの会報誌でサックス、フルート、ドラム、トランペットの試奏取材をしたんですが、数時間の取材ではろくに音も出せないほど、本当に難しくて…鈴木さんがキャストになるなら、どの楽器をやりたいですか。

 

鈴木:どのパートも魅力的です。私はパーカッションをやってみたいです。リズム感はないと自覚しているのですが…、吹奏楽部の一番後ろや横の位置に、パーカスは配置されている事が多く、きっと楽隊全体のみんなが見えたりするんだなと言うのが今回気づいた事でした。

 

―― 個人的に克久とお父さんの夜の公園シーン、克久と守が本屋で鉢合わせるシーン、克久と朝子の夜の路上シーンにぐっときました。どれも距離感が絶妙で…全編を通してドラマティックな展開を排することで、そうした距離感や機微、音そのものが立ち上がってきたように思いますが、いかがですか?

 

鈴木:ありがとうございます。微妙で小さな変化みたいなものが、じっくりした時間をかまえる事で映画として見えて来る、そういった時間の経ち方の中で、人と人の間が離れたり縮んだりする、そういうものを見たいのです。それはとても繊細な作業だったり、力よりはすっと無理なくみんなで動く事で良い結果が得られるのですが、その為には、起きている事に気づき、自分自身の言葉でみんなとやりとりをしていくことが必要でした。

 

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