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icon 2014.3.23

井上弘久(ex.転形劇場、Uフィールド)インタビュー◆チャールズ・ブコウスキー没後20年にたむける朗読演劇『町でいちばんの美女』に寄せて

2014年3月9日、チャールズ・ブコウスキーは没後20年を迎えた。彼の死を悼み、また感謝を込めて、朗読演劇家の井上弘久さんが、今年も舞台に立つ。

 

3月4日には、下北沢B&Bで朗読演劇+トークライブを行なった。トークには、『町でいちばんの美女』の翻訳家・青野聰さんがゲストとして出演。ブコウスキー作品の魅力や朗読演劇の可能性から翻訳の裏話まで、二人の真剣な語り合いに会場は心地よい緊張感に包まれた。2014年連続公演のスバラシイ幕開けとなった。

 

4月は新宿ラバンデリア、5月は渋谷アップリンク、6月は代官山「山羊に、聞く?」と今後も次々さまざまに月に一回、連続連打される予定。中原昌也(ミュージシャン)、桃江メロン(作家)などコラボレーションするアーティストも多彩多様だ。

 

井上さんがブコウスキーに出会ったのは、2年前の還暦の誕生日に若い友人から『町でいちばんの美女』(新潮文庫)をプレゼントされたことがきっかけ。そのときからずっと読みつづけてきた。ぞっこん魅了され、朗読演劇のソロライブはライフワークだとも語る。死ぬまでブコウスキーとともに表現することを決意した、朗読演劇家・井上弘久にとってブコウスキーとは何か。メールインタビューを敢行した。連続公演へのモチベーションとともに情熱たっぷりに応えてくださった。(取材・文/七 六助)

 

 

20年前に死んだはずのブコウスキーが日本の東京に現れるというのも悪くない

——連続公演をやろうと思ったきっかけを教えてください。

 

井上弘久(以下、井上):直接のきっかけは、今年(2014年)がちょうど没後20年にあたるためですが……、ブコウスキーの遺作といわれる長編小説『パルプ』(亡くなった1994年に出版される)に、とうの昔に死んだはずのフランスの作家セリーヌ(ブコウスキーが高く評価していた作家です)が登場します。小説は破格の探偵小説とでもいいますか……。

 

——探偵小説に、セリーヌですか。

 

井上:そう、セリーヌ。それも、ブコウスキーが暮らしていたロサンジェルスに現れるのです。主人公である私立探偵のもとに、「死神」を名乗る美女が「世間では死んだことになっているセリーヌがじつは生きている。その彼を探してだしてほしい」と依頼にくる。その理由が「今度こそ自分の手ではっきりとあの世に送りたいから」と。

 

——「死神」を名乗る美女がセリーヌを殺そうとしている……。

 

井上:小説には、得体のしれない異星人美女も登場したりして、ブコウスキーでなければとうてい書けないケッサク(!)小説なのですが、どうして死んだはずのセリーヌが出てくるのかが最初は分かりませんでした。

 

——ケッサク(!)の『パルプ』、ぜひ読みたいです!でも、どうして死んだはずのセリーヌが。

 

井上:それが、昨年のソロライブを終えて今年のことを考えるようになって気がつきました。そうか、ブコウスキーはセリーヌに自分を託したのだ、と。つまり、世間では死んだはずのセリーヌが生きていたということは、当時、白血病で死を意識していたブコウスキー自身も、『パルプ』のセリーヌのように「きっとどこかで生きているんだ、嘘だと思ったら探してごらん」と読者に言っているのだ、と。ということで、連続公演のきっかけは、20年前に死んだはずのブコウスキーが日本の東京に現れるというのも悪くない、と思えたからです(笑)。

 

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