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icon 2014.11.23

映画『ひ・き・こ 降臨』オールスター座談会――主演の秋月三佳と小宮一葉、監督の吉川久岳、脚本の宮崎大祐に聞く、新感覚ホラーができあがるまで

 「よくいえば役を超えられた手ごたえがあったし、いつもそうなれたらいいなって思ってますね」(秋月)

――そうした社会性をはらんだ新感覚ひきこ、キャスティングはオーディションだったそうですね。たくさんの応募のなかから主演の御三方を選んだ決め手は?

 

吉川:脚本の宮崎くんとプロデューサーの小田さんも同席してもらって、3人のバランスとそれぞれの個性の強さを基準に選考していきました。秋月さんと小宮さんはすんなり決まったんですが、紀里子役が難航して。サイボーグ(かおり)さんはオーディションでもかなりはじけててどうなるかわかんないけど、2人の間に彼女を入れたらなにかおもしろいことが起きるんじゃないかというので決めました。本読みのときに最初に会ったでしょ?あのときどう思いました?

 

秋月:「変なやつ来たー」と思いましたけど(笑)、ちゃんと役に入ってますよね。フィクションのなかでちゃんと生きてる。

 

小宮:私も「来たー」って思いましたね。初めて見る生き物だって(笑)

 

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左から小宮一葉、秋月三佳

 

吉川:あのときの2人の「マジか」って表情、すごい印象的で。本読みの段階からすごいグイグイ来る子だったんで、劇薬って感じでちょっと不安になりましたね…。目に入る人全員に抱きつくみたいなコミュニケーションの取り方するし(笑)

 

小宮:でも本読んでるときは普通にしゃべるっていう。撮影期間中はずーっと一緒にいたんですけど、ふとしたときにすごい深い話をしてくるんですよ。めちゃくちゃ頭いいし、とにかくすごいんです。

 

秋月:初顔合わせの瞬間は「どうしよう!?」と思ったけど、その後の本読みでは普通に芝居するんだみたいな(笑)撮影の待ち時間はずっとサイボーグさんのものまねしてましたもんね。ボイパも「リズム感いいっすよ」なんて言われながら教えてもらったし。今日の取材、来てほしかったなあ。オーディションでは誰がサイボーグさんを推したんですか?宮崎さん?

 

宮崎:かなり裏話ですけど、書類選考の段階で僕だけがサイボーグさんを残したいって言ったんですよ。ただ、実際にお会いして僕は一転、反対しました(笑)現場で彼女を誰がコントロールするんだろうって助監督的な気配りが働きまして。

 

(全員笑)

 

吉川:でもサイボーグさんに決めましたね。単純にうまい下手じゃない、その人自身が持っているものをベースに役を乗っけていく形にしないと、短い撮影期間では厳しいと思ったので。そういう意味で、ゆかりの健全さや弱さを表現できるのは秋月さんじゃないかっていうのは総意でした。映画のなかで、ゆかりというキャラクターを超えたところでちゃんと存在していられるくらいの強度があるというか。

 

宮崎:普通にそこにいるだけでこの人は善い人なんだろうなって雰囲気を持ってますよね。

 

秋月:私、オーディションのときには、ひきこ役がやりたいってうるさくて、何度もやらせてもらったんです。でも最終的にゆかり役をいただいたときは、一番自分の本質に合っているのかなと。自分のなかの力強さを役でも出していいんだ、自分の本質と混ぜて役に出していけるんだっていうのは、芝居していてすごく感じました。役をもらって台本を読んで、自分なりに解釈して役を演じているんですけど、よくいえば役を超えられた手ごたえがあったし、いつもそうなれたらいいなって思ってますね。

 

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 秋月三佳

 

吉川:劇中で3人がトイレの盗撮魔を覗くところやみんなでキャーキャー騒いでいるところで、秋月さんはキャラクターを超えてそこに生き生きと息づいていて、それがすごいいいなと思うんです。この間拝見させていただいた舞台でも、秋月さんとキャラクターのハイブリッドとしてそこにいるようで、そういう稀有な才能が決め手になったのはありますね。

 

秋月:ありがたいことですよ…。

 

吉川:どの程度ゆかりに背負わせるかっていうのも1つテーマとしてありました。ゆかりはもともといじめられていたけど、ひきこが転校してきて自分自身はいじめの対象から外れて助かった。そういう罪の意識を持ちつつ、それに蓋をして忘れているような、普通の弱さを持つ普通の女の子であってほしい。3人が3人とも重くなってしまうとそういう人達の話でしかなくなるし、物語に広がりが生まれなくなるなと。なのでクランクイン前に、秋月さんといろいろ話してイメージを共有していきました。

 

秋月:ひきこは復讐に走っちゃったけど、ゆかりはそれはよくないよって、悪いことは悪いんだっていう芯を持って演じるようにしました。

 

吉川:そうですね。ゆかりはそういう健全さも持っている。ただ一方で、ゆかりの「復讐はよくないよ」って言葉だって、その場の3人のなかで求められている言葉を発してるだけで、本心で言ってる感じじゃないような気もするんですよね。最後まで強くは主張しないし、なんとなくの流れでというか。そこでかえって強く主張しすぎても説得力がなくなるし、そのバランスを出すのは演じていてかなり難しかったと思います。善人って弱いからこそ自分の保身に走ったり傍観者になったりしてしまうと思っていて。ゆかりがひきこの家で廊下の奥から音のするほうを見ているシーンや、最後に追い詰められて睨みつける場面は、普段は弱くてかわいらしい存在なんだけど、なにか危機が迫るとキッと防衛本能が働く小動物のようなイメージで撮りました。それから、ひきこは脚本の段階ではとらえどころのない存在だったので、どういう風にしていこうっていうのはかなり悩みましたね。

 

小宮:私は3人の女性みんなおもしろいと思っていたんですけど、やるんだったらひきこかなと思っていました。子どもの頃は学校の帰り道にいま口裂け女が出てきたらどうしようみたいな恐怖がありましたけど、貞子や富江のようなホラーに出てくる女性達って実はすごい哀しいバックボーンを持っているんだなって、思春期を越えたあたりから怖さよりも共感する部分が出てきて。なのでひきこも、この子いろいろあったんだろうなあってわりとすぐに共感してしまいました。

 

吉川:実際、小宮さんのひきこに演出的なプランを寄せていったところがありますね。最初は記号的な表情が顔に張り付いてるロボットのようなイメージだったんですけど、自分が考えていた以上に感情的なひきこを小宮さんが演じてくれて、これはいいなと。ゆかりと紀里子と関わるなかでひきこのプログラムが狂っていって、徐々に隠れていた感情が出てくるさまがすごいおもしろくて。

 

小宮:ひきこにはとても思い入れがあって、本を読めば読むほど、演じれてみればみるほど、無意識のところからも役が出てくる不思議な体験をしました。最初はそこまで感情を揺らす芝居をするつもりじゃなかったんですけど、現場に行ってみたら自然と私としてじゃなくひきことしての感情が出てきて…。この子こんなこと考えてたんだ、大変だったねって。ほんとにこの役に出会えてよかったし、ほんとにひきこっていたんじゃないかなって思うくらい。でもそれは、私の肉体じゃないと出せなかったって思いがあります。ひきこは目的がはっきりしてるし軸は常にぶれない。ゆかりに興味があって、紀里子にはそんなに関心がないんですよ。でも2人と一緒にいて、やってることはほんとに悪いことなんだけど、「初めて友達できた!」って楽しい気持ちもあって。歪んでるけどそれがひきこにとっての青春で、自分なりの愛情が出てきたのを感じました。ほんとに脚本や現場の雰囲気がよくて、自然な流れで最後までいったなあって思います。