hikiko1
icon 2014.11.23

映画『ひ・き・こ 降臨』オールスター座談会――主演の秋月三佳と小宮一葉、監督の吉川久岳、脚本の宮崎大祐に聞く、新感覚ホラーができあがるまで

 「ひきこはほんとに悪いことしてるって思ってないんですよ。自分のなかでちゃんと筋が通ってるんです」(小宮)

――感情ということでいえば、ラストシーンの3人の決闘はそれが爆発してましたもんね。

 

吉川:あそこはほんと怖いくらいの入り込みようでしたよね。ちょっと刃をこぼしただけの本物の包丁と、ペラペラの偽物の包丁があったんですけど、本物を渡すのが怖かった(笑)

 

小宮:その日は待ち時間が多くてサイボーグさんといろいろしゃべってたんですけど、彼女が「殺すって一番密なコミュニケーションですから。だからほんとに殺してください」って言ったんですよ。「はい、殺します」って約束したあと、最初に偽物と本物でやったんですけど、やっぱり本物はブレーキがかかっちゃって。そしたら監督が偽物でってキャメラの御木さんに言ってくれて、心おきなく刺せましたね。

 

秋月:最後はすごかったですね。闘いましたね。首絞めるのも怒りの感情と手の力の入れ具合が難しくて大変だったんですけど、いままでのゆかり史上最強に感情を爆発させなきゃっていうのがあって、思いっきりやりました。

 

吉川:ラストシーンはどういう風に決着をつけるか、宮崎くんと何回も脚本のやり取りをしながら、最後まで悩みましたね。ゆかりの家に紀里子が現れて、逃げるゆかりが川に落ちるとか、紀里子が途中でフェードアウトしてゆかり対ひきこの一騎打ちになるとかいろいろ出たんですけど…。やっぱり3人その場に居合わせて対決させたほうがいいだろうってことになりました。

 

hikiko7

吉川久岳

 

宮崎:いまの形になったのは撮影3日前でしたね。やっぱり最後は柱の3人が出てきて、互いの腹の内をぶつけ合って終えるべきだと思っていました。「なにか抗いようのない大きなうねりに巻き込まれてしまったときに、自分はなにができるのか」ってサブテーマが個人的にはあったので、紀里子をそこに持っていきたかったんです。実際、『アルマゲドン』みたいな展開でしたからね。

 

(全員笑)

 

吉川:宮崎くん、当初から紀里子に対する思い入れがかなり強かったよね。

 

宮崎:そうですね。打ち合わせの度に「それじゃ紀里子がかわいそうだ」って言ってました。僕はどんな小さな役でも、それが映画の機能として都合よく使われるのがすごく嫌いで。どの役も生きてて、家族もいて、もちろん殺されたら哀しむ人もいる、そんな存在であってほしい。そういう意味で、紀里子は物語が最後の形になるまで全体のバランサー的な役割が強かったので、このままではちょっといたたなまれないなと思っていたので…。

 

――そんな紆余曲折があったんですね。ラストシーンは言わずもがなですが、他に心に残っている場面を教えてください。

 

吉川:空き地でいじめっ子だった山崎にボールをぶつけるところかな。物語が最初に大きな転換点を迎えるのがあそこなので。

 

小宮秋月:めちゃ暑かったですよね。

 

小宮:山崎が「やめてくれよ~」ってときにすっごいいい顔するんですよ。ほんとにいい顔するからちょっとぞくっとしちゃったし、楽しくなっちゃって。

 

秋月:ぜって~殺す~(山崎のものまねをする)。

 

(全員笑)

 

小宮:私は地下駐車場でレイプ疑惑男をめっためたにするところですかね。ひきこって過去にいろいろあって、ああいう種類の犯罪が許せないと思うんですよね。一番最初にその感情が出てきたなって。

 

秋月:あの顔はすごかった。もうほんとにヤバいなって思いましたもんね。

 

hikiko8

劇中のワンシーン

 

小宮:ひきこはほんとに悪いことしてるって思ってないんですよ。自分のなかでちゃんと筋が通ってるんです。ゆかりをいじめてた子を捕まえたときも、「見て!褒めて!」って感じじゃないですか。あれも自分がされて嬉しいことをしてあげよう、ほんとにゆかりに喜んでほしいっていう純粋な愛情表現だと思うんですよね。ゆかりのことがすごい好きで、自分にない白さや健康さを持っているから、憧れ反面、自分と同じところまで引きずりおろして汚したいって気持ちがああいう結末につながっていくのかなあって気がしました。自分にないものを持ってていいなあと思う秋月さんに対する自分の感情と、ゆかりに対するひきこの感情はリンクしたところがあって、そこはキャスティングの妙ですよね。

 

秋月:いやいや、(小宮)一葉さんはすごいですよ。ほんとに自分にないものを持ってるなあって。私はいじめっ子だった小林が、車で轢きずられるところがトラウマすぎて…。

 

吉川:あのシーンは撮影自体も過酷でしたね…。砂埃もすごいし、一番時間がかかりました。キャメラの御木さんはじめ、ベテランスタッフのみなさんに大いに助けられました。スタッフは各部署1人だけだったので、1人で何役もやっていただいて。いろんな大作をやられてる技師の方々が自ら屋根の上に登って遮光したり、重い機材を1人で運んだりとかもありました。

 

小宮:そういえば最初にみんなに駅で会うシーンで、撮る前まではすごい晴れてたのに、急に雲行きが怪しくなって風が吹いてきて、雨が降ったんですよね。周りから「ひきこが呼んだんじゃない?」って言われたなあ(笑)

 

吉川:あったあった。現場は割と焦っていたんですけどね。一度でも雨が降ったら致命的っていうスケジュールだったので(笑)あとラストの取り調べシーンも印象に残っています。あそこは、ひきこがやろうとしていた「自分の復讐を世界に拡散する」さまを、どう表現するかがポイントでした。最後に彼女が仕掛けた罠というか、復讐に着火する装置がこんなところにも機能しているという、いつどこで誰が、どういうタイミングで復讐者になってしまうかわからない怖さを出すために、ああいう形になりました。撮影初日の午前中にいきなりラストカットの撮影で、演じる上でも難しかったと思うんですけど、すごく気に入っています。カメラの向こう側にいる「傍観者」に対しても睨みつけるって感じですね。

 

秋月:全世界に睨みつけてやるって感じだったんですけど、やっぱりゆかりだからかすごい弱さがある睨みになってると思います。気持ちは大きいけど小さな抵抗でしかないような。

 

吉川:絶妙な表情でした。そんな2人に挟まって、紀里子の役はさらに捉えにくくて、相当大変だったと思うんです。サイボーグさんも彼女なりに悩んでて、クランクイン前にいろいろ話をして、紀里子は2人の間でバランスを取りながら揺らぎ続けるようなキャラクターなんじゃないかって話しました。彼女は耳が良いので、そんな紀里子のキャラクターを演じることができたんだと思います。

 

――ちなみにひきこの生家にいたミイラは宮崎さんの監督作『夜が終わる場所』でも出てきたような…。

 

宮崎:はい、普段は実家の物置に置いてあるマイ・ミイラです。袋に入れて貸したんですけど、裸で返って来たんで家族からクレームが来ました(笑)