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icon 2014.12.9

台北ストーリー 第2回 11月18日号――あの大物俳優主演の新作短編を携え、「中華圏のアカデミー賞」に参加した宮崎大祐監督による台北紀行!

台北ストーリー 第2回 11月18日号

宮崎大祐

 

11月18日

 

若干楽しみにしていた台湾ブレック・ファストはなんでもかんでもニンニク山盛りで若干たじろぐが、郷に入りては郷に従えと言う日式諺もあるので思い切って焼き餃子を食べてみたらこれが美味い。これから終日密室での面接・会議だというのにバクバク。ところで、中国では水餃子こそが本当の餃子で焼き餃子は余り物なのだという日本の都市伝説は本当かと中国人監督に確認したところ、本当であるとのことであった。

 

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「FPP」の会場フロア

 

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各企画の会議スケジュール

 

マルトに乗ってグランド・ハイアットに向かう。台北グランド・ハイアットは前述したようにいろいろと曰く付きの場所で、世界の幽霊ホテルTOP10にもランクインしているワールドクラスの霊場だ。そこの一番「出る」と言われている10階をまるまる貸し切って、FPP(編注:フィルム・プロモーション・プロジェクト。まだ映画化されていない企画の出資者や配給者を募る会合)は行われる。各企画が一室ずつを割り当てられ、そこに30分ごとにクライアント(投資家や配給・宣伝会社)がやってくる。最初のクライアントが来るまでのあいだ他の組を視察してきたが、みなさん家具の配置を変えたり部屋を飾り込んだりして、整然としている以外は特徴のないこの高級ホテルの一室を自分たちの事務所のように改装していた。25作品中最も申請予算が低い(ビリ2のドキュメンタリーの実に半額)我々は当然ながらそんな予算も余裕もなく、足して行っては当然負けるので引いて行くというジル・サンダー的ミニマリズムで勝負に出た。つまりポスターを一枚貼るだけで済ませた。

 

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我々のミニマルな部屋

 

朝一でいらしたのが上海国際映画祭の方で、前のめりなプロデューサーやディストリビューターではなかったので、いい感じに緊張が解れた。幾つか会合を済まし、昼休みを迎える。私は北京語が全く分からないので、基本的には折を見て適当に頷いたり合いの手を打っているだけだ。昼食に日本から逆輸入されたというレストランで台湾名物牛肉麺を食べたが、全く味がしなかった。お湯に伸びた麺が入っているこの辛さ。帰りにこちらのオシャレブックストア、「清品書店」(日本で言う紀伊国屋と無印良品が合体したようなもの)でエドワード・ヤンの『恐怖分子』デジタルリマスター2K版を買った。

 

エドワード・ヤン『恐怖分子』のテーマ曲、ツァイ・チンによる「Pretend You Can’t Leave Me 」

 

午後もつつがなく商談は進み、夜は先程の清品書店内のビール・バーにてドイツの映画用カメラ・メーカー「ARRI」がパーティーを行うということで顔を出す。御存知の通り国際映画祭では開催されるパーティー全てが非常に重要な営業活動の場となる。どこで誰に会ってどういう縁が出来るかわからないのだ。何を隠そう私が今回のオムニバス企画に参加することになったのも、ベルリン国際映画祭のパーティーでの出会いがきっかけである。しかしながらこのパーティー会場は天井が異様に低く、出される黒ビールはぬるく、ドイツの民族衣装ディアンドルは台湾女性にあまりに不似合いで、何よりも会場の中心でシンセを操作しながらフランク・シナトラを熱唱するウォン・カーウァイ似の歌手に私はそう長く耐えることが出来なかった。苦い顔をしていると私のプロデューサーであるタイの重鎮、リー・チャタメーティクーンが「これからもっともっといいパーチーがあるでー」と囁いてきたので、彼についていくことにした。

 

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Flash Forwardのパーティー会場

 

西門のほど近く、地元民しか知り得ないかなり入り組んだ一角のオシャレレストランで、台湾のアート・ハウス・シネマ(アート系映画)界では随一の力を持つというFlash Forward Entertainmentのパーティーが行われていた。こちらのパーティーは人の行き来も多く、人に会うには絶好のパーティーだった。あろうことかツァイ・ミンリャン映画ではお馴染みの李康生さんともお会いでき、すっかりほっこりしてしまったが、チーズだと思って食べた白い物体が台湾名物臭豆腐で、東京フィルムセンターの匂いを圧縮したような匂いがきつすぎて具合が悪くなったので、その夜は早々にタクシーで帰った。ということにしておこう。

 

※トップ写真はリー・カンションさんと

※台北ストーリー 第1回 11月17日号はこちら

※台北ストーリー 第3回 11月19日号はこちら

 

 

●Profile

宮崎大祐

 

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2004年製作の『10th Room』が、マーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュを輩出したニューヨーク大学映画学部主催の「KUT映画祭」でグランプリを受賞。翌年、『Love Will Tear Us Apart』が日本最大級の実験映画祭「イメージフォーラム・フィルムフェスティバル」で特別招待上映される。

2010年にはベテランカメラマン・芦澤明子を迎え、長編処女作にしてフィルム・ノワールに果敢に挑んだ『夜が終わる場所』を監督。トロント新世代映画祭で特別賞を受賞したほか、南米随一のサンパウロ国際映画祭のニュー・ディレクターズ・コンペティション部門やモントリオール・ヌーボーシネマ国際映画祭のインターナショナル・パースペクティブ部門に正式招待され話題を呼んだ。2012年の国内初公開では、上映後のイベントにイルリメやGEZANらを招き、「MIYAZAKI MUSIC FESTIVAL」の様相を呈した。翌年には、イギリスのレインダンス国際映画祭が「今注目すべき7人の日本人インディペンデント映画監督」のうちの1人として選出。

そして2014年、ベルリン国際映画祭のタレント部門に招待されたのをきっかけに、アジア4ヶ国の新鋭監督が集うオムニバス映画『Five to Nine』に参加。ハードボイルドと言えばのあの大物俳優を迎えた『BADS』パートを担当している。なお、筒井武文監督の『孤独な惑星』や吉川岳久監督の『ひきこさんの惨劇』『ひ・き・こ 降臨』の脚本も執筆しており、これからの活躍が本当に楽しみな才人である。

 

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