まずはこの曲を聴いて欲しい。今回紹介するKoedawgというラッパーの「ミルフィーユフィクション」という曲だ。
自己主張が強いわけではないのに、それでいて耳に残る声。異様なほどに甘い歌詞とメロディーに、不思議とフィットしてしまっている下ネタのワード・チョイス。そして彼の最大の魅力が、ヒップホップに詳しい人が聴けば一発でわかる、Migosっぽいフロウだ。
Migosとは、その個性的なフロウで人気を博しているアトランタの若いラップ・トリオである。どう個性的なのかというと、彼らのヒット・ソング「Versace」なんて、フックで18回も「ベサチ」と言っているだけだ。もはや歌とかラップとかの次元を超えて打楽器のような彼らのフロウだが、だからこそリズムを理屈抜きで楽しめる音楽になっている。
そのMigosの代表曲「Hannah Montana」のリリックだけでなく、コンセプトを日本語ラップに置き換えた「KEN THE 390」は、見事としか言いようがない。KEN THE 390を使うというセンスだけでなく、細かいところまで意味が詰め込まれていて考え込まれたリリックの作りにも驚きだ(詳しくは文中リンクのKoedawg自身による解説を参照)。
これだけ才能豊かであれば、それだけで会ってインタビューしたくなるが、今回さらに明らかにしたいことがあった。それが、アニメとヒップホップの共通点である。
Koedawgのツイッターでの発言を見れば、彼はいわゆるアニオタに間違いない。その一方で、ブログやSoundCloudからは、シカゴやサウスのヒップホップにも相当詳しいことがわかる。昔から気になっていたのだが、ツイッターにはなぜアニメに詳しいヘッズがこんなにも多くいるのだろうか。ミステリアスなラッパー・Koedawg自身だけでなく、アニメ好きヘッズが多い謎を明らかにした…のかはインタビューを読み進めてほしい。一路、彼がいる茨城県つくば市に向かった。(取材・文/斎井直史、写真/福アニー、斎井直史、撮影協力/SCENE)
「大学入ってDJ始めて、大学院入ってラップ始めた」
――2015年2月にリリースされたFREE MIXTAPE『根腐れローズ』ですが、KoedawgさんのラップからはMigosの影響を強く感じます。そもそもヒップホップとの出会いはどんなものだったんですか?
Koedawg(以下、K):昔から好きで、中1ぐらい。RIP SLYMEやキングギドラらへんかな。その頃に日本語ラップをいろいろ聴くようになって。NITRO(MICROPHONE UNDERGROUND)とか妄走族とかですね。そのあと韻踏(合組合)、MSC…
――もしかして、いまのスタイルにMINTさんは…
K:大ファンですけど、そんなに直接的な影響はないつもりです。
――どっちかってうとやはりMigos?
K:そうそう、そうっすね。日本語ラップがめっちゃ好きだったのは中学だけですね。降神が好きだったんですが、降神があんまやんなくなって、日本語ラップ自体がつまんなくなったように感じて。それで中学の頃、家でMTVが観れたんですが、ラッパーばっかり映るじゃないですか。
――その頃は…Ja Ruleとかですか。
K:そう、Ludacrisとか。あっ、中3の時に家出してクラブ行って、50 Centかかってたの、なんかすげえ憶えてます。
――ちなみに実家はつくばじゃないんですよね?
K:そうですね、栃木です。
――いつからラップをやるようになったんですか?
K:3年前くらいっす。
――マジっすか!?
K:それまでは全然やってないっす。大学入ってDJ始めて、大学院入ってラップ始めた。クラブでふざけてフリースタイルやったりはしてましたけど。
――ちなみにKoedawgって、本名から来た名前なんですか?
K:違います。DJ始めた時につけてもらいました。
――その由来は?
K:DJの師匠から「お前ちんこ小さそうだな」って Mitsu The Beatsに対抗して、ポークビーツにしようかって言われましたけど、流石にそれは…って感じで、こえだになりました。そのあとツイッター初めてアカウント名決める時にこえだって人たくさんいたので、ギャングっぽくdawgをつけた感じです。
――(笑)。DJを始めたきっかけは?
K:つくばにSCENEっていうお店があって、そこの店員さんがDJで、「教えて下さい!」みたいな。なんかまあ、大学に入って変なことしたかったんでしょうね。
――つくばのヒップホップシーンって、どんな感じなんですか?
K:最近はあんま知らないっすね。
――ラップしている人は?
K:結構いると思います。昔僕もライブやらせてもらってました。なんだかやんなくなっちゃいましたけど。
――それでも一緒にラップする人は?
K:まあ、いなくはないっていうか。
――『根腐れローズ』だと、MC SHINさん?
K:そうです。SHINさんは優しくしてくれます(笑)。
――YOSHIYAっていう人は…
K:YOSHIYAはネットで知り合った。あいつがきっかけで、ラップ始めたみたいなもんなんですよ。僕がツイッター始めた頃に、「ラップやってます」って感じで曲を上げてる人結構いるんだなーって思って。それを見て、「これ自分でもできんなー」って思って(笑)。最初は全然できなかったですけど。
――ちなみに現在の制作環境は?
K:Ableton Liveです。あとは、コンデンサーマイク。
――じゃあ全部自宅で?
K:そうですね。
――マスタリングも?
K:マスタリング、よくわかんないんでしてない(笑)。