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A,B,CIVILMAGAZINE 第3回 中山晃子――クリエイティブ集団・CIVILTOKYOが注目アーティストにインタビュー

「いきものっていうのはもともと、美しい側面と、気味が悪くて怖い側面と両方あるもの」

中山:実は私、中学校の頃は木の医者になりたかったんです。

 

――木を診るお医者さんですか。

 

中山:そうです、樹木医って言います。でも、中学校くらいの時になると、培ってきたなにかというのができ始めていますよね。私は勉強はそんなに好きじゃなくて、絵が得意だった。私が持っている技術を使ってなにができるか考えた時に、じゃあ芸術に特化した体を持っているから美大に行って、樹木医になってやりたかったことをやろう、と思ったんです。樹木医の医療行為って、自分じゃなくて他者に広がっている視点なので、そこが始まりかもしれないですね。話してて、本当かな、って思いますけど…

 

――樹木医になりたいと思ったのはなぜですか。

 

中山:小学校の時に公園で木に聴診器当ててる人がいて。

 

――え、実際に見たんですか。

 

中山:はい、埼玉で。いま考えると怪しい人物だったかもしれないですが…その人を見て、木の医者って仕事があるんだと思って、インタープリターとかいろんな木にまつわる仕事があるっていうのを自分で調べて勉強して、っていう流れだった気がします。植物にすごく興味があったんですね。

 

――いきもの全般というよりは植物ですか。

 

中山:植物ですね。すごく知りたいんです、植物のことを。でも植物がすごく多い地域で育っていたら芸術家になっていないと思います。

 

――どうしてですか?

 

中山:私は埼玉の越谷で育ったんですが、あの辺は木を切って街や道を作って、わざわざ街路樹を植えてるんですよね。私の小学校も、もともといきものの宝庫だった雑木林を切り開いて、ビオトープにしていて。「え?」っていうようなことをしていたんですよね。

 

――とても違和感がありますね。

 

中山:植物を通して、そういう憤りの経験をたくさんしたんですよね。光化学スモッグも頻繁にある地域だったので、道路沿いの木とか、すごく弱るんですよね。排気ガスで葉が黒くなって、日照ができないから、害虫が来て、奇形になって…

 

――そういうものが身近にあったから。

 

中山:そうですね。私にとって、他の動物とかよりも、身近な憤りをキャッチしやすかったんだと思います。でも健康な植物も、それはそれで怖いじゃないですか。葉っぱを裏返すとつぶつぶがあったりとか。

 

――健康に育ちすぎて迫力があったりとか。

 

中山:ICCの展示の「卵」を見て怖いと思った子と同じ経験を私は小さい頃に植物でしていて、生きているんだけど襲いかかってきそうっていう苦手意識や恐怖から来ているところもあります。同時に美しいとも思うし、神秘的だと思うし、愛憎混じってるんです。

 

――じゃあ作品が怖いと思われても、それはそれで。

 

中山:うれしいですよ。

 

――純な反応ですもんね。

 

中山:いきものっていうのはもともと、美しい側面と、気味が悪くて怖い側面と両方あるものだから、ひとつ作品の中でその両方の反応をちびっ子から受け取れたというのは、理想の植物が描けたような気がしてうれしいです。

 

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「卵」3280×3690cm, 映像, 2015

 

――ICCの展示は子供向けのものですが、以前も子供向けのワークショップをされていましたよね。もちろん、大人からも感じられるものはあると思いますが、子供からしか感じられないものがあって、そういった展示やワークショップに積極的に参加されているのですか。

 

中山:それはたまたま呼んでいただく機会が増えたというだけなのですが…実は、大学に入った後、小さい頃に自分も通っていた造形教室で先生のバイトをしていたことがあります。螺鈿細工やテンペラ画、木彫、銅版画、油絵などいろんなことを教えてくれる造形教室だったんですが、自分の思っていることを表現するのにこの技法ならハマった、っていうのがわかりやすいんですよね。自分がそこで先生をやっていると、子供が発見した瞬間に出会えることが多くて、それが面白くて。

 

――そういった企画に呼ばれるということは、キュレーターが中山さんの子供との親和性を感じているということだと思うんですが、子供って、出会うものすべてが新しいものですよね。なにがいいのか悪いのか、なにがきれいなのかそうでないのか知らない状態で新しいものと出会うことって、名もなきものに出会うということじゃないですか。中山さんの作品を見て、また今日お話を伺って、中山さんがそういった出会いにいまも変わらず好奇心を持っていらっしゃるところがとても魅力的だと思いました。

 

中山:うん、うん。「名もなきものに出会っていく」って、いい言葉だと思います!メモしておかなきゃ。

 

――ぜひ使ってください(笑)今後、やりたいことや挑戦したいことなどはありますか。

 

中山:もう一回、デッサンから始めようと思っています。もう一度、モチーフを見てしっかり描くということを、技法から考えたいと思っています。紙に鉛筆くらいの、シンプルというか制限のかかった状態で、でも紙に鉛筆じゃない方法でものを見ながら描く、っていうデッサンをしたいと思っています。

 

※A,B,CIVILMAGAZINE 第2回 清水えり子(zazi)×ホンダチヒロのデザイナー対談はこちら

※A,B,CIVILMAGAZINE 第4回 Far Farmインタビューはこちら

 

 

 

●Event Information

MultipleTap

 

2015年10月13日:ベルギー/Recyclart

2015年10月14日~15日:デンマーク/JazzHouse

2015年10月17日:パリ/Le Gaîté lyrique

 

詳細:http://multipletap.com/

 

 

 

●Profile

中山晃子 Akiko Nakayama

 

東京造形大学 造形学部美術研究領域 修士課程修了。

色彩と流動性によって、うつろいゆく現象を絵画として描くアーティスト。

主な活動である「Alive Painting」ではさまざまな性質を持つ液体を扱い、要素の流れがもたらす美的な快楽と、見る者にさまざまな景色や生命を想起させる。

近年では、色の差異を即時的に画像解析、デジタル処理することによって音を発生させるカラーオルガンシステム「Fluid2wave」をエンジニアと共に開発し、音も絵も同時に奏でるパフォーマンスを行う。

パフォーマンス、写真、映像、と扱うメディアは多岐に渡るが、一貫して多種多様な原因と結果を描き、混ざり合う境界の生き生きとした姿を描く。

TEDxHaneda、Audiovisual Media festival 2015 (台湾)等、国内外問わず描いている。

 

HP:http://akiko.co.jp

 

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