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EBM(T)ロングインタビュー――平成生まれのバーチャル聴覚室主宰ユニット、ナイル・ケティングと松本望睦に聞く「アート、TOKYO、同時代」

「多種多様なものがうごめく都市に私たちが囲まれてるんだって感覚をもう一回認識してほしい」(ナイル)

――ふたりは音や音楽が出発点というよりも、音や音楽以外からのアプローチが際立ってますよね。ナイルさんの個展を見たときは、それがどういう音なのかよりもどういうところから音が出てるのか、どういう風にして音を出してるのか、物質そのものに興味があるんだろうなと思いましたし、望睦さんもFlorian Heckerのアルバムの「位相」について話してましたし。

 

望睦:うん、音は道具というか。俺個人で言うと、「リリースする」のが最初のモチベーションじゃないから。いまふと思い出したけど、大学1年のときに洞窟をイメージした音を作って、洞窟で流したことがあるよ。自分でオーケストラを作りたいと思ったけど作れないから、一番近いのなんだろうと思ってシューゲイザーっぽく。ギターをCDの横のギザギザしたところで弾くと凄い高音が鳴るんだけど、それをレコーダーで録音して遅くしてめちゃくちゃリバーヴかけると、洞窟みたいな音が鳴るの。音質が悪いほうがいい。そこから音の位置が気になるようになって、どこから音が流れているか、ステレオでもモノラルでもいいからなんでこの音がここから鳴ってるんだろうってことに興味が沸いた。結晶から出る音も、なんで近づいたときより離れたときのほうが大きく聴こえるのか不思議だよね。

 

――物質ってほんと未知だと思います。ところで2015年、とくに感銘を受けた作品やいま気になる同世代のアーティストはいますか?

 

望睦:die Reiheの「From Minna」!これ歴史に残っていい音楽だと本気で思ってる。こんな無音録る?みたいな。聴いたあとに無音があるやつばっかり探しちゃった。それこそMorton Feldmanみたいだけど明らかに違って、ハウスミュージックが流れて急に切れて。好きすぎてDiscogsのページ作っちゃったし、やべーってなって速攻EBM(T)に招聘した(笑)Dirty Dirtさんもこの前の『Ascetic House』ってテープ作品について書いてたな。昔はジャケでお前プログレだろ、お前ヒップホップだろってわかるけど、いまはこういう反骨精神があるのか無邪気にやってるのかわかりにくいのがいいんじゃない?みんな中庸でいたいのかもしれないね。

 

 

――die Reihe、確かに凄い音世界でした…

 

望睦:ね。それから土井下太意って同い年のアーティストがいて、いまちょうど東京電機大で展示してるんだけど(10/17現在)、好き。凄い分裂したテキストをもとにインスタレーションを作って、そのなかでパフォーマンスするの。意味不明なんだけどそんなにダーティに感じない。自分は、いまは熱音響に興味があって、東海大学に問い合わせて研究に使わせてもらおうかなと思ってて。ようは音を使って排熱を冷却してエネルギーに変えることができるんだけど、音を熱に変える逆の発想で、その熱をまた拾って音に変えたらどうなるんだろうっていう。冷やしてる部分とまさに熱が起こってる部分は音の発音って違うと思うし、それをプログラムしてメイクアップしてあげたい。ナイルは液晶になる前の液状のリキッドクリスタルに興味あるみたい。結晶から音鳴らしたり電子レンジのモーター取ってそれで電圧上げたりするような人間だから、好奇心は尽きないんじゃない?(笑)

 

――(笑)ナイルさんは2016年春に、森美術館の「六本木アートクロッシング」への出品も決まっているそうで。新作も身体がモチーフになるのでしょうか?

 

ナイル:はい。タイトルが「僕の身体、あなたの声」だったかな。新しい身体論への探求がテーマなのかなという印象を受けました。山本現代でやった私の「Hard In Organics」展をたまたま見てくれて展覧会への参加に興味を持ってくれました。ダンスやパフォーマンスを並行でやっているんだけど、いままでの考え方の身体というよりは、もっとオープンソース的な身体というか。たとえば舞台に上がってる身体って表現的に見えたとしても、実際それはディレクターがいて、コリオグラファーがいて、そのうえで成り立ってる肉体性であって。そのアーティフィシャリティやポリティカリティを逆に全面に出していってあげる。つまり身体がなにかを表現するんじゃなくて、身体って場があって、そのなかに表現されてるものが落っこってくるイメージ。それってコンピューターのプログラムの概念に近くて、セカンド・ネイチャーみたいに私たちがプログラミングするカルチャーと、私たちが人工的に作ってる自然や肉体美の境界線がわからなくなってくるようなことをやってたんですね。

 

――ほうほう。

 

ナイル:それで、次の新作はそこから環境論に繋げてみたくて。たとえば「環境」って言葉は蔓延してるけど、 身体のエコロジーみたいなものってまだ察知されてない領域だと思っていて。いま作ってるものはいままでやってきたマテリアリティの問題と、新しく入ってくる環境性と、歴史性をぶつけて、垂直じゃなく水平/並列関係にある「環境たち」を見ていきたいなと。私がよく提唱してるのはクラウド化された身体って意味で使ってるんだけど、「クラウドファイボディ」。モノの物質性や実在性が、ここにないけど、どこにでもあるっていうような概念。Googleで起こってることが身体のなかでも実際に起きてて、雲としての身体というか。「雲」がキーワードです。水分は凄い大事、電気を伝達しますしね。

 

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――最後に、今回の展覧会に込めた想いを教えてください。

 

ナイル:今回の展覧会を通して、私たちが生きてきたバックグラウンドや「失われた10年」や「ゆとり」を超えて、多種多様なものがうごめく都市に私たちが囲まれてるんだって感覚をもう一回認識してほしいです。自分の生きてる環境・社会・政治・科学そのものが常に新陳代謝を行っていて、自分もその新陳代謝のなかのひとつの細胞なんだってことを考えられるようなものになると思うので。東京は、いろんな要素が渦巻いてるから、ある意味見えないことによってより有機的な新しいなにかが出てきやすいフィールドですよね。自分のつま先が見えてなくて自分はこの頭の後ろにいて、つま先も両手もがどんどん違う場所に伸びていって、でもそのつま先でなにかを感じ取ってる。それがひとつの都市っていう。それをちゃんとフレッシュに感じ取れるセンサーが作れることを、理解したり共有したりこんな感覚もあるんだってことを、全然違う場所にいる自分がちゃんと察知できるような、柔軟で、しなやかで、まったく違う領域のものが目の前に飛び込んでくるみたいなものが出てくれば凄くいいなと思っています。凄い共感するかもしれないし、逆に疑問を持つかもしれないし、ただスルーするような展示にはならないと思いますよ。

 

――ありがとうございました。これからの活動も楽しみにしてます!

 

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●Profile

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ナイル・ケティング(Nile Koetting)

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松本望睦(Nozomu Matsumoto)

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●Event Information

東京アートミーティングⅥ “TOKYO”−見えない都市を見せる

 

日時&場所:2015年11月7日(土)~2016年2月14日(日)@東京都現代美術館

休館日:月曜日(11月23日、2016年1月11日は開館)、11月24日(火)、12月28日(月)~2016年1月1日(金)、1月12日(火)

開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)

入場料:一般1200円/大学・専門学校生・65歳以上900円/中高生700円/小学生以下無料

お問い合わせ:電話03-5245-4111(東京都現代美術館代表)

 

詳細:http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/TAM6-tokyo.html