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A,B,CIVILMAGAZINE 第5回 サンドロビッチ・ヤバ子――クリエイティブ集団・CIVILTOKYOが注目アーティストにインタビュー

「人生って、本当に何があるかわからないですよね。面白いですよ」

――漫画って、本当につくり方が独特だと思うんですが、ネームを編集者と詰めるっていう作業が正攻法として存在するんですよね。ネームはヤバ子さんが描かれているんですか?

 

ヤバ子:そうです。ネームの段階で編集者と個別で打ち合わせをするんですけど、そりゃエキサイトすることもありますよ。でも、人間関係は本当大事です。こういう業務形態なので、パワーバランスが対等じゃないとキツいと思います。スタンフォード監獄実験みたいに、どっちかが偉くなって増長しちゃうと一緒にやるのが難しくなる。月並みな言い方をすると「一緒にがんばってる仲間」みたいなノリじゃないと…僕はキツいですね。

 

――ヤバ子さんの今の担当編集の方は、担当されてから長いんですか。

 

ヤバ子:4年目ですね。年も1歳違いです。

 

――同世代だとやりやすいですよね。

 

ヤバ子:見てきたものも近いですしね。そういう意味では、さっきお話したような悪い構造には陥りにくいと思います。どちらかに実績があったりしちゃうとやり辛い、みたいなのもあるんじゃないですかね。

 

――まったくの新人漫画家だと、ベテラン編集者に引き上げてもらう、みたいなのもあるかもしれないですけどね。でも、今のお話をお聞きしていて、漫画家さんって芸能人に近いのかなって思いました。マネージャーさんとタレントさんが一緒にがんばって、小さい仕事からだんだんステップアップしていくような。

 

ヤバ子:そうですね。一蓮托生感はあると思います。今おっしゃったように、漫画家と編集者の関係って、漫画家の描いた作品を編集者が広めるっていうだけのものかというと、そうではないですよ。編集者が実質原作者っていうこともあるみたいですしね。一番有名な方だと、「金田一少年の事件簿」や「BLOODY MONDAY」の樹林伸さんですね。今は原作者として独立されてますけど、元々は編集者だったんですよ。

 

――そんな方もいらっしゃるんですね。

 

ヤバ子:作品ごとに名義も違っているんですけど、名前の漢字のどこかに「木」が入っていて、わかる人にはわかるようになっているんですよね。

 

――広告業界でもそうなんですが、樹林さんのようにあらゆるテイストの広告を変幻自在につくってしまう方もいますし、どんなものをつくってもその人だとわかる方もいます。ヤバ子さんは、樹林さんのようなやり方に憧れなどはありますか。

 

ヤバ子:器用だな、とは思いますが、できるかと言われると…できるって言わないといけないんでしょうかね。

 

――こういう漫画が読みたいからヤバ子さんの作品を追っている、というファンの方もたくさんいるのではないかと思いますよ。

 

ヤバ子:手を変え品を変えみたいなことだと、自分の武器は弱くなっちゃいますよね。

 

――漫画を描こうと思った時に、題材を格闘漫画にした理由はあるのですか。

 

ヤバ子:僕が格闘技をやっていたからです。空手をちょっとやっていまして。だから、実体験や当時妄想していたことを絵にしているっていう感じですかね。でも、漫画のキャラクターの意見イコール作者の意見だと思われることがあって、すごく困ることがあります。極端な例を出すと、超レイシストのキャラがいたとしても、作者が同じ考えなんて普通思わないじゃないですか。漫画はフィクションですから。

 

――確かに、漫画は出回りやすいし、いろいろな人が読みますからね。でも、ヤバ子さんは今、格闘漫画を描いていらっしゃいますが、この先趣味趣向が変わって、違うジャンルの漫画を描くことになる可能性もあるわけですよね。個人的にですが、樹林さんのように匿名性のある作家さんよりも、違うジャンルでもヤバ子さんの作品だというのがわかる方が魅力的な気がします。もちろんどちらもすばらしいと思うんですが。

 

ヤバ子:そうですね…でも、5年後10年後って、何してるんでしょうかね。

 

――5年後10年後はこうなっていたい、というような理想像などはありますか。

 

ヤバ子:ちょっと下世話な話になっちゃうんですが、安心がほしいという意味で、生涯賃金は稼いでおきたいですね。現実問題、生活できないと困っちゃいますからね。

 

――先がわからない職業ですしね。

 

ヤバ子:そうなんですよ。生活の心配をせずにすむようになってからがガチでスタートかなという気がしています。本当、何があるかわからないですから。格闘技の世界などは特にそうですが、満たされちゃうと何もできない、ハングリー精神が大事だ、なんてことを言う人もいますが、僕はそんなことはないと思っています。

 

――ガチのスタートというのは、どういった勝負に出られるか考えているのですか。

 

ヤバ子:僕、いずれは映画つくりたいんですよ。つくりたくてしょうがないです。以前計算したんですけど、映画って金かかるんですよね…さっきから銭の話ばかりで申し訳ないですが…

 

――いえいえ、お金は必要なものですから。

 

ヤバ子:こういう仕事をしていると、お金の話を嫌がる人もいるんですよね。

 

――ロマンだけじゃ飯は食えないですからね。でもそういう神話みたいなのってありますよね。

 

ヤバ子:清貧ですよね。宮沢賢治だって、生前にお金持っていたらある程度は遊んでたと思いますよ。結果的に貧乏なまま亡くなったので、美談みたいになってますが。

 

――そういう話で言うと、最近は幕の引き方も変わってきている気がしますね。スポーツ選手を見ていると特にそう思うのですが、独立リーグへ行ってでも自分の納得のいくまで現役を貫く選手も多いですが、昔は立つ鳥跡を濁さずじゃないですけど、あまり歓迎されなかったやり方だったような気がします。

 

ヤバ子:そうですね。そういう方は、本当に尊敬します。

 

――それと、野球の石井一久が吉本興業の契約社員になったり、スケートの織田信成が引退後にバラエティで活躍していたり、引退後の道も新しい動きがある気がします。

 

ヤバ子:いいことだと思いますよ。何が向いているかわからないですからね。僕も、一つの仕事に殉じるみたいな考え方があまり好きではないんですよ。向いてないと思ったらすぐにやめたらいいんですよ。

 

――最近だとユーチューバーやインスタグラマーなどがありますが、想像できなかったような職業が出てきていますしね。昔はタレントが大企業をバックにテレビでやっていたようなことが、今は携帯電話で動画が撮れて公開できる場所がある。写真もそうですし、まさに漫画もそうですよね。敷居が下がっているからこそ、いいものが目立ってきている気がします。

 

ヤバ子:ただ、新しいものって、最初はどうしても拒絶されてしまうことが多いですからね。ユーチューバーも、テレビ関係の人から見るとあまりいい気はしないらしいですから。WEB漫画もそうだったんですよ。直接言われたことはないんですが、紙じゃないとダメだ、という人もいたみたいです。

 

――向かい風は激しいと思いますが、後世に残る人というのは、その向かい風を受けた人なんじゃないかと思います。

 

ヤバ子:そうですね。僕の場合は、狙ったわけじゃないですけど、タイミングがよかったのかな、と思いますね。

 

――ちなみにですが、別の作画の方と組んでやってみたいとは思いますか。他の方の漫画を見て、この漫画家さんが自分のストーリーの作画をしたらどうなるのかな、と考えたりすることはあるんでしょうか。

 

ヤバ子:それはよく考えます。鳥山明さんがやってくれたら感無量ですね。妄想の域を出ないですけど。でも可能性はゼロじゃないですからね。

 

――あり得ない話じゃないですよね。映画も本当に楽しみですし、今日はお会いできてよかったです。

 

ヤバ子:ありがとうございます。映画は35歳までに形にしたいとは思っています。期限決めないとズルズルになっちゃうので。脚本の勉強もしていますし、実際に仕事で「ケンガンアシュラ」のドラマCDの脚本も書いたんですよ。映像がないので映画とは少し勝手が違いますが、基本的なお約束事はわかりました。人生って、本当に何があるかわからないですよね。面白いですよ。

 

※A,B,CIVILMAGAZINE 第4回 Far Farmインタビューはこちら

※A,B,CIVILMAGAZINE 第6回 橋本麦インタビューはこちら

 

 

 

●Profile

サンドロビッチ・ヤバ子

 

鳥取県出身。1984年11月1日生まれ。

サラリーマン等を経て、2012年漫画原作者デビュー。

原作者として活動する他、コラム等も手掛ける。

「ケンガンアシュラ」(小学館 裏サンデー、マンガワン)を連載中。

 

裏サンデー | ケンガンアシュラ:http://urasunday.com/kengan/

求道の拳:http://gudounokobushi.web.fc2.com/

 

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