映画『ひ・き・こ 降臨』に寄せて
サイボーグかおり
私は日本のホラー映画が基本的に苦手だ。
気が弱く流されがちなただ可愛らしいだけの主人公、効果的でもないのに異様に多い水をモチーフにしたありがちな恐怖の演出。猟奇犯罪や暴力的なシーンの多い海外の作品に比べ、自分達のまわりでもしかしたら同じようなことが起こるかもしれないと思わせてしまうような空間描写、観客を当事者とした呪い的な描写から生まれる独特の「気持ち悪さ」は面白いものの、その気持ち悪さが「気持ち良い」まで至らない。
私が今まで見てきたホラー作品は、無駄に間も多く、隠喩が伝わってき辛い。最後に頭に残るのは、深みの足りない暗さの押し売り、只々出演している女優さんが可愛いかったこと位というものが多かった。
そんな中、今回出演させて頂いた『ひ・き・こ 降臨』。あの有名な都市伝説「ひきこさん」をモチーフにした「ホラー映画」である。この映画は、題名からしてスプラッタ・ホラーという印象が強いかもしれないが、実際今までに製作されてきた「ひきこさんシリーズ」と内容が異なり、続編というよりもまるで指輪物語でいうホビットの冒険の様な、今までのひきこシリーズの前の物語を見ているようなそんな感覚を呼び起こす。
化け物というよりもすごくピュアで素直であるからこそ、時折その行動が歪んだ残酷さにシフトしてしまう妙を演じたニコ役の小宮一葉。無垢さと儚げな女の子の弱さを持ちつつも強くぶれない芯を演じるというよりも、自身の本来持つ本質とリンクさせて魅せきったゆかり役の秋月三佳。そんな強いうねりを生み出していく2人の間で揺れ動きながら、目の前に与えられた刺激にのめり込んで行きつつもずっと迷い続けている紀理子を演じさせて頂いた。この2人は非常に個性が強く、確かに2人とも透明感があって美しい女優さんなのだが、今まで見てきたホラー作品に出てくる女優さんの可愛らしさが良い意味でない。そしてこの作品自体も今までのホラー作品の域から良い意味で外れている。
SNSという誰もが身近で使っているコミュニケーションツールを中心に本編が展開されていくからこそ感じるリアリティ、そして誰もが日常で感じる社会の理不尽さとそれに対する不満がどのように拡散され、それが何を生み出すのかという、ホラー映画でありながらも社会に訴えかけるテーマ性の強い一面。
日本のホラー映画というよりもクール・ジャパンのように、今までにない新しいジャパニーズ・ホラーと表現したくなるようなそんな作品である。
朝ごはんにご飯の変わりにわかめをカレーに突っ込んで食べている私を見て、異様にドン引きする普通の女の子らしい面を持ちつつも、撮影中、新種の変な生物のようで面白いとしきりに私の真似をする（しかもちょっと上手い）三佳ちゃんと、それに悪乗りして私の物真似を撮影期間中にマスターしてしまう一葉さん。普段良く人に怖がられる私だが、ここまで物怖じせず、最終的に私をおもちゃにして遊びだしてしまう…ある意味息が合っている。そんな茶目っ気の強い共演者は初めてである。本編でもそんな2人の人としての魅力や生き方が根付いていて、また、だからこそ描かれる心理描写に現実感と迫力があって、非常に面白い。
化け物役ではなく、ニコとゆかりの中間役である紀理子役に、俗に個性の強いといわれる私をキャスティングし、個性の強い2人にぶつけつつ内容をまとめあげてしまった実力派監督の吉川久岳監督の新作『ひ・き・こ降臨』。
個人的な情や念を超えたところにある、自身の力ではコントロールしきれない事態が生む恐怖を描いた本作は、はっきり言って幽霊とかお化けが出てくるより怖い。笑
生きている人間の情念が一番怖い。
でも、この作品は怖いだけの作品ではない。これは口では説明しにくいのだが、とりあえず今までのホラー作品の展開を大きく覆す作品。ぜひ映画館に足を運んで本作をご覧頂きたい。
※映画『ひ・き・こ 降臨』オールスター座談会の模様はこちら。
●Profile
サイボーグかおり
1992年2月12日、岩手県出身。口だけで多彩な音を奏でるヒューマンビートボクサーで、現在は都内ライブハウスを中心に各種イベントやインターネット番組等で活動。そのユニークなキャラクターが園子温監督の目に止まり『TOKYO TRIBE』に出演、強烈な印象を残す。公開が控えるホラーオムニバス映画『ABC・オブ・デス2』の園子温監督パートの主演に大抜擢されるなど、ますますの活躍が期待される異色の新人。
●Information
『ひ・き・こ 降臨』
2014年11月29日（土）～12月4日（木）、シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー！
公式HP：http://www.amumo.jp/event/movie-hikiko-korin.html