グルメ石原のグルメ漫遊記 黎明編 第5回

「伊勢うどん」

石原正晴

 

このページの下のほうに書いてある通り自分は三重県四日市市出身だが、生粋の四日市っ子なのかというとそういうわけでもなく、確かに自分は四日市生まれではあるが父親は東京の人、母親は茨城県水戸市の出身、育ちは『特攻の拓』のふるさと港町YOKOHAMA、なぜか本籍は京都吉祥院、そして現在の寝ぐらはバビロンTOKYO、眠らない都市SHINJUKUと相思相愛、悪そうな奴はだいたい友達な感じのアレ、毎晩最高の女とドン・ペリニヨン、と自分の出自はなんだかとてもややこしい。そういうわけもあって自分は小学校なんかではバリバリの四日市弁で絶叫しつつ、時には年頃の少年らしく下半身丸出しになって海綿体をギュンギュンにしながらそこらじゅうを風の妖精のように走り回って「そんなんやったらあかんのやに！」と先生に厳しく警告されていたが、自宅に帰ると標準語で「お母さん、今日のおやつはカントリイマアムですか」とおべっかカマしていた。完全な二枚舌。なので小学校の友人がお誕生日会などで自宅に遊びに来ると内宇宙で自我が乖離して人知れず大変な状態になっていた。嘘だけど。

 

そういうわけもあって（？）、YOKOHAMAへ越してからの標準語（ハマっ子スラング）への移行は大変スムーズであった。ひとつには当時KinKi Kidsが転校先の女子の間でとても人気で、ニア関西弁である四日市弁を話すことによって「石原クン素敵」となることを事前に回避するというオットコマエな気遣いが自分にあったということは否定できないが、メインはやっぱり自分が生粋のレペゼン四日市ではないという、後ろめたさに似た自意識が邪魔していた、ということがどこかにあったように思う。

 

そういった事情ではあるが、僕ァ四日市グルメに関しては今でもちょっぴりうるさ型かもな…とブラインド越しにTOKYOを透かして見つつ独りごちる場面が日々の暮らしの中で全くないとは言えないところがあるような、ないような感じだ。第一うちにはブラインドがないのだから…

 

 

三重県のグルメに「伊勢うどん」というものがある。かい摘んで言うと、ぐずぐずになるまで茹でたうどんに変に甘い醤油だけを垂らして食べるうどん、ということになり、かい摘んで言ったことを誰もが後悔するような感じの食べ物だが、これがとっても美味しい。好みによってメカブや卵黄を落とすともっと美味しい。なんだかおやつのような感じで楽しくもある、と一億総神経症のこの時代の特効薬のような食べ物だが、実は、自分は四日市時代に伊勢うどんを食べに行った記憶が無い。じゃあどこで食っていたかというと、自分にとって伊勢うどんとは、家で母親が調理して出してくるもので、当時伊勢うどんに狂っていた自分の母親は、思い思いに納豆などでアッレンジした伊勢うどんを自分に食わせていたのであった。

 

なんで急にこんな話をしようと思ったかというと、先日本当に久しぶりに京都にライブをしに行ったからで、その途中に新名神の「御在所SA（※四日市の近く）」で伊勢うどんを食べたからであった。自分はそこで母親に送る為に伊勢うどんを買い込んだが、正直に言うと、それは自分の記憶の中の伊勢うどんとは少し違っていて、自分にとっては母親がアッドリブで機転を利かせまくったうどんが伊勢うどんなのだけれども、母親にとってはこのうどんが伊勢うどんなのだなあと色恋沙汰のすれ違いのような変に甘酸っぱい気分を味わったのだった。

 

先日うちの近所に伊勢うどんを出す飲み屋があるらしいとの噂を聞きつけ、意気揚々と向かったのだが、結局その店は見つからなかった。自分がまごまごしているうちにブッ潰れていたのかもしれない。

 

追記1：ちなみに、九州地方の醤油は「うま口醤油」といって本州地方の醤油より随分甘い。コンビニなどのうどんをぐずぐずになるまで茹でてこれをかけて食すと、伊勢うどんのような感じになるような、決してそうはならないような微妙な気分が味わえる。

 

追記2：御在所SAで食した第2の三重グルメ、とんてきのサンド。とても親身になってタレがこぼれることに警鐘を鳴らして下さっているが、彼はこれからブッ殺されて食われる運命にある。

 

 「できたては熱くてタレがこぼれることがあるので注意してブゥー」

 

※第4回「終末　財津一郎」はこちら。

※第6回｢蟹｣はこちら。

 

 

 

●Profile

石原正晴

1983年3月3日に三重県四日市市に生まれ、13歳から神奈川県横浜市で青春時代を過ごす。ロックバンド・SuiseiNoboAz（スイセイノボアズ）のギタリスト兼ボーカリスト。現在は東京都新宿区近辺で生活している。