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icon 2015.3.20

「混沌」から「交歓」へ~2015年最新音楽展望~――非常階段×ゆるめるモ!、KISS+ももクロ、しょこたん❤でんぱ組ら空前の「交歓戦国時代」を謎の覆面ライター・剛田武が斬る

「混沌」から「交歓」へ~2015年最新音楽展望~

剛田武

 

2014年の音楽シーンを振り返って:BiS階段とJAZZBiS階段

一昨年筆者は某音楽サイトにて、2013年最も印象に残ったコンサートとして、アイドル/ロック/ラップ/地下音楽が一堂に会して混沌を賛美した「カオスフェス2013」(2013年4月7日、日比谷野外音楽堂、出演者:BiS/cinema staff/でんぱ組.inc/不失者/旺福ほか)を取り上げ、混沌(カオス)を楽しむことから新たな時代が始まると論じたが、2014年を振り返ると、まさに混沌から創造へと創世記さながらの進化を遂げ、新たな展開を実感した一年だった。

 

2013年の『あまちゃん』ブームを追い風にした「ノイズ」のお茶の間進出、2月のMultiple Tapロンドン公演等による海外への波及、白石民夫、グンジョーガクレヨン、陰猟腐厭ら80年代地下音楽のオリジネーターへの再評価などトピックには事欠かないが、ハイライトは「ノイズ×ジャズ×アイドル」共演による「JAZZBiS階段」であろう。ノイズバンドの非常階段が30年以上に亘って実践してきた異種混合プロジェクトの究極型ともいえる「BiS階段」をさらに発展させたこのコラボレーションは、パフォーミング・アート実践の場に於いてはジャンルや表現方法による差異は存在しないことや、表現の「現場」を形成するのはパフォーマーだけでなく、オーディエンス(観客)の存在が欠かせないことを証明するとともに、解散により終止符を打つ「有終の美」という日本的美徳が今もって有効なことを鮮烈に印象付けた。

 

 

2015年へ向けて:非常階段 featuring ゆるめるモ!

その非常階段コラボ・プロジェクトの最新型が、2014年末にCDとして投下された。「BiS階段」が2014年5月6日に渋谷WWWで解散した1ヶ月半後の6月21日にイベント「自家発電」で初合体したのが、次世代アイドル・ユニットの「ゆるめるモ!(You’ll Melt More!)」だった。2年前にBiS階段誕生のきっかけとなったイベントの続編とはいえ、これは「推し変」(贔屓のアイドルを乗り換えることを示すヲタク語)か?などと下衆の勘繰りはしないが徳。

 

世界初のノイズアイドルバンド「BiS階段」は、本来水と油の「NOISE」と「IDOL」が衝突・融合することで、カオス的な狂乱状態を産み出した。それに対し、この二代目ノイズ&アイドルコラボ「非常階段 featuring ゆるめるモ!」は、がらっと異なり初共演の時点で驚く程の親和性を見せた。ゆるめるモ!の楽曲がクラウトロックやニューウェイヴの影響の濃いミニマルなエレクトロポップであり、サブカル系に特化した志向性がノイズや地下音楽に通じること、演奏者だけでなく企画者やオーディエンス側にもノイズ×アイドルコラボの経験があり、ある程度のノウハウが確立されていたこと、などが理由と言える。

 

ゆるめるモ!との2度目の共演となった9月26日のオールナイトイベント「真夜中のヘヴィ・ロック・パーティー」に於けるライブ録音盤を『解体的交歓』と名付けた制作者(JOJO広重)の意図は、地下音楽愛好家には自明の通り70年代日本の即興ジャズの極北と呼ばれた高柳昌行・阿部薫『解体的交感』へのオマージュであるが、ミニマルノイズビートに乗せたアニメ声、アイドルらしい天真爛漫なMC、アイドルヲタの掛け声、そして演奏の節々に漲る陽性のパワーには、この日のステージを演奏者、観客、企画者全員が最大限に楽しんだ様子がヴィヴィッドに刻まれている。つまり「ばらばらだった(=解体的)」人々が「ともに打ち解けて楽しんだ(=交歓した)」記録に間違いないのである。

 

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非常階段 featuring ゆるめるモ!『解体的交歓~真夜中のヘヴィ・ロック・パーティ~』

 

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参考ジャケット:高柳昌行・阿部薫『解体的交感』

 

70年代の「表現の極北」はストイックかつシリアスであることを美徳としたが、21世紀の「表現行為」はやせ我慢&真面目一辺倒では通用せず、楽しむことではじめて有効性を獲得出来ると言えるのかもしれない。その意味でこのアルバムは、理想的な表現行為の最新型を世に問う「革命宣言」と言えるであろう。ジャケットを見比べて苦笑しながら、溢れる楽しさに身を任せるだけで、21世紀の「表現の極北」に辿り着くことができることを示したのである。

 

 

2015年、交歓ブームの到来:KISS+ももクロ、しょこたん❤でんぱ組、筋肉少女帯人間椅子

しかしながら2015年の初交歓は、言い出しっぺの地下音楽家を差し置いて、デビュー40周年を迎え全世界にKISSアーミーを持つハードロックの大御所KISSと、全国のモノノフの熱い支持を集める「週末ヒロイン」ももいろクローバーZのコラボという国際的プロジェクトとして実現した。来日公演では、東京ドーム3階スタンドのJOJO広重の「お前ら、俺らのパクリやないかー!!」という野次もどこ吹く風で大いに盛り上がり、国境を越えた交歓が日本中のお茶の間の話題になった。

 

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ももいろクローバーZ vs KISS「夢の浮世に咲いてみな」

 

続いてアイドル界では、ぼっちアイドルの中川翔子とアキバ発6人組のでんぱ組.incが合体して、「しょこたん❤でんぱ組(しょこたんだいすきでんぱぐみ)」としてTVアニメ主題歌でお色気「パンチラ」交歓を果たした。逆交歓(交歓返し)として「でんぱ組❤しょこたん(でんぱぐみだいすきしょこたん)」も予定され、本年度ヲタク女子会No.1は間違いない。

 

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しょこたん❤でんぱ組「PUNCH LINE!!」(4月29日発売予定)

 

さらにバンド・シーンからは、筋肉少女帯と人間椅子というベテラン二組のコラボが発表された。ユニット名は「筋肉少女帯人間椅子」と芸がないが、パフォーマンスでは「百芸の王座」を競い合う二者の交歓に、感涙に咽ぶアラフォー女子&男子も多いに違いない。

 

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筋肉少女帯人間椅子「タイトル未定」(5月13日発売予定)

 

上記のように2015年、世はまさに「交歓ブーム」、いや早くも「交歓戦国時代」の様相を呈しつつある。

 

 

交歓時代の真打登場:非常階段×ゆるめるモ!

そういった盛り上がりの中、いよいよ異種交歓のオリジネーターが動き出した。『解体的交歓』のパートナーのゆるめるモ!を三度目のコラボに誘(いざな)い、作り上げたアルバムが『私をノイズに連れてって』。同じコラボレーションでもここに記録されたのは、ステージでの一期一会の生演奏を収めた前作とは全く異なり、じっくり熟成した濃厚な交歓模様である。

 

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非常階段×ゆるめるモ!『私をノイズに連れてって』

 

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参考ジャケット:The Beach Boys『Surfer Girl』

 

これまでの階段コラボは、JAZZ非常階段を除いて、基本的にコラボ相手のレパートリー(もしくはカバー曲)に非常階段がノイズを被せるというスタイルだった。しかし今回は初めて相手を自らの土俵である「ノイズ」に「連れて」来た。全員による「解体的交歓II」に加え、ゆるめるモ!の6人のメンバーそれぞれが、楽器もしくは声で非常階段メンバーと個別交歓。俗世から隔離されたレコーディング・スタジオという閉鎖空間で密かに産み出されたサウンドは、アイドルソングとは似ても似つかぬ激烈なノイズそのものだった。

 

「ノイズは誰でもできる」とは、JOJO広重やT.美川がしばしば口にする言葉だが、広重とあののギター・バトル、JUNKOとちーぼうの絶叫デュオ、美川とようなぴのエレクトロ二クス対決などを聴くと、活動歴30余年のベテランとノイズ初心者の差異はほとんどないように思える。しかし心得るべきは、触れるものすべてをノイズに巻き込むベテランたちの強力な求心力と包容力であろう。共演者を魔法のようにノイズ世界の住人に変えてしまうパワーは、非常階段が単なる「バンド」ではなくひとつの「場」、30年以上前に乱暴狼藉の限りを尽くしたライブハウスの名を借りれば「創造道場」と呼ぶべき存在であることの証しに違いない。一度共演した者は全員「一生非常階段メンバー」となるという噂は、決して根拠のない都市伝説ではないのである。

 

一方、「アイドル」の定義が「歌と踊りで世界を元気にする」ことだとしたら、歌も踊りもなくひたすらノイズに徹するこのアルバムでのゆるめるモ!は「アイドル」とは呼べないのだろうか?答えはノー。逆に、得意の「歌と踊り」を封印された状態で慣れない楽器演奏や絶叫に果敢に挑戦し、歴戦のノイジシャンと対等に渡り合った事実こそ、何事もポジティブに楽しみ、世界を元気にするアイドル本来の姿勢であることは自明の理であろう。

 

CDに刻まれたノイズ×アイドル交歓会の第二幕は、場所をジャズの聖地に移して、リアルな観客の前で実演される。ベテランサックス奏者の坂田明と元BiS階段のテンテンコも加わり展開される交歓ライブには、予定調和は一切ありえない。「交歓時代」に生きる我々にとって「黙示録」と呼べる啓示的なイベントとなることは間違いない。

 

※BiS階段結成コラムはこちら

※BiS階段インタビューはこちら

※BiS階段ライブレポートはこちら

 

 

 

●Event Infromation

JAZZ非常階段+JAZZめるモ!階段

 

2015年3月28日(土)@新宿PIT INN

開場19:30/開演20:00

チケット:3500円(税別、1ドリンク付)

出演:非常階段、坂田明、テンテンコ、ゆるめるモ!

詳細:http://www.pit-inn.com/sche_j.html

 

 

 

●Album Information

非常階段×ゆるめるモ!『私をノイズに連れてって』

定価:2381円(税別)

リリース元:テイチクエンタテインメント

 

 

 

●Artist Information

非常階段

HP:http://www.teichiku.co.jp/artist/hijokaidan/

JOJO広重 Twitter:https://twitter.com/jojo_hiroshige

 

ゆるめるモ!

HP:http://ylmlm.net/

Twitter:https://twitter.com/ylmlm_staff

Facebook:https://www.facebook.com/ylmlm.net