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icon 2015.6.11

ぷりぷり伊能プロジェクト 測量5回目 CIVILTOKYO(東京)――写真家、グラフィックデザイナー、ウェブエンジニアからなるクリエイティブ集団

東急田園都市線という、世界で最も混むと言われる路線があります。神奈川県の中央林間駅から東京都の渋谷駅までを行ったり来たり。筆者はその路線沿いで生まれ育ちました。ラッシュ時は異常・壮絶・殺人的という言葉がぴったりなくらいの地獄絵図。どれくらい凄いかというと、人が詰め込まれすぎてMajiで内臓破裂5秒前、Majiで背骨骨折5秒前の勢いです。変なコンテンポラリーアートのような態勢になるわ、知らぬ間にかすり傷&青たんができてるわ、お弁当はぐちゃぐちゃになるわ、殺気に満ち満ちた乗客の顔を超至近距離で見ることになるわ。悪夢。荒みに荒み、こんなことを願ってしまったときもありました。「本当に辛い…アウシュビッツ強制収容所に向かう列車のなかのようだ…この乗客の大半は地方出身者ではないのか?彼らが全員故郷に帰ればこのラッシュも緩和するのではないのか?頼む…田舎に帰ってくれ…」。

 

そんな積もりに積もった不満に共感してもらおうと、富山出身の母に想いの丈をぶちまけたところ、「そんなこと絶対に人に言うもんじゃないよ。大都会は地方出身者が支えてるの。田舎の人のほうがどんなに忍耐強くて堅実か。馬鹿にしなさんな」と一刀両断。確かに春休み、GW、お盆、年末年始の電車内は物足りなくなるほどすっかすか。道行く人もちらほらり。休みを終えて彼らが戻ってくると心なしかほっとするし、ゾンビシティがまた生きた街になるんだもんなあ…と猛省し、心を入れ替えたのでした。大都会は彼らの複合体、巨大なモザイクなんですもんね。

 

そんなことを、全国各地のイカした人や場を発信する日本横断企画「ぷりぷり伊能プロジェクト」測量5回目でピックアップしたCIVILTOKYOの文章を読んで、思い出しました。CIVILTOKYOは写真家、デザイナー、エンジニアの3人からなるクリエイティブ集団で、「TOKYO」と冠しつつも全員東京以外のご出身。CIVILMAGAZINEというアートブックを刊行したり、ファッションブランドやセレクトショップ、バンドや劇団などのアートワークを手がけたりしています。ちょうど1年前の2014年5月、HEATHAZE宛てにCIVILMAGAZINE第3号のプレスリリースを送ってきてくださったのがきっかけで、その存在を知りました。自らの雑誌を「誌面ギャラリー」と呼んでいるのに興味を持ち、かつ初対面のアーティスト同士を出会わせて一冊の本を作るという、手間ひまかけているところに魅かれました。なによりアートワークがかっこいい!CIVILMAGAZINE第3号の刊行時やCIVILTOKYO主催のコラボ公演時、彼らがアートワークで関わる劇団の公演時にたびたび取り上げさせてもらいました。

 

もともと「CIVIL」という名前で活動していた彼ら。のちに「TOKYO」を付け足した意図とは?そしてこの連続特集をガン読みしている方ならすでにお気づきかもしれませんが、インターネットで日本一周しているだけあって、毎回の寄稿者に「インターネットについて考えていること」も織り込んでもらうようにしています。ここまでは「手段・きっかけ」という意見のみだったので、別意見も引き出したい、それが制作の基盤になっている人たちにとってはまた違った見方のはず、とCIVILTOKYOにも同じことを聞いてみました。インターネットとアートの旬な話題に触れてくれていますよ。ということで、よくも悪くもわれわれを捉えて離さないハイパーメガシティ、TOKYOへGO!(HEATHAZE主宰・福アニー)

 

 


 

CIVILTOKYOは、私たちの活動の総称です。写真家の伊藤佑一郎、グラフィックデザイナー/ウェブデザイナーの根子敬生、ウェブエンジニアの都竹泰三の3人で活動しています。

 

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左から根子敬生、伊藤佑一郎、都竹泰三(写真:渡邊有紀)

 

アーティスト同士のコラボレーションマガジン

出版レーベルとしてスタートした私たちは、CIVILMAGAZINEを2011年より毎年1回のペースで刊行しています。毎号さまざまな分野より寄稿者を選出し、組み合わせ、お題を投げかけ、アーティスト同士のコラボレーション制作を誌面ギャラリーとして提案しています。掲載作品はすべて本誌のためだけに作られたオリジナル作品であり、読者には興味外領域への誘発、ひいてはクリエイション全体への熱を高める目標があります。たくさんのジャンルの人々が交錯する副産物として、本誌が起点となりアーティストが互いに影響し合う、新たなプラットフォームとしての役割も果たし始めています。

 

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CIVILMAGAZINEフロー図

 

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CIVILMAGAZINE third issue「girls / backbone issue」

 

寄稿者でお呼びした方の共通点としては、自らの分野において常に新しいアプローチを試みている方々であるということがあります。実際はお会いしたこともない方々にお声がけをすることがほとんどなので、直感的にいいなと思った方々にご連絡させていただいているのですが、そのような共通点が不思議と生まれています。

 

お呼びする方々は、以前から作品を見ていいと思っていた方や、自分たちの知り合いから推薦されて魅力的だった方はもちろんですが、それだけだとどうしてもジャンルに偏りが出てしまいます。ですから、ある程度寄稿者の数を決めて、7~8割決まった段階で、あとどんな人がいたらいいのかもう一度考えることをいつもしています。例えばフラワーアーティストや版画家、墨象作家など、いままで自分たちがあまり触れてこなかったジャンルの方々を必ずお呼びするようにしています。当然、触れてこなかった世界ですのでなんの知識もなく、知り合いも1人もいません。地道にインターネットや本などでそのジャンルの動向を調べたり、その中で気になった方がいれば直接展示に足を運んでみたりと、自分たちの体を毎号必ず動かして最後のピースになり得る方々を探すようにしています。そのように毎回新しい血をCIVILMAGAZINEに入れていくことで、私たちのアンテナを磨くように心がけています。

 

現在4号の寄稿者たちに作品づくりをしていただいていて、2015年内の刊行を目指しています。いままで各号には副題があり、first issueは「departure issue」、second issueは「lifestyle issue」、third issueは「girls / backbone issue」、次回のfourth issueは、「boys / revolutionary issue」としています。3号は女性のみ、4号は男性のみの寄稿者で構成されています。

 

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CIVILMAGAZINE歴代寄稿者リスト

 

CIVILMAGAZINEを出版したことでできるようになったこと

私たちそれぞれの得意分野が違うので、連携して仕事をすることも多くなってきました。クライアントは個人や企業、またそのジャンルもさまざまですが、ご依頼いただく内容はこちらにお任せいただくことがほとんどです。案件が私たち3人の得意分野外の場合は、CIVILMAGAZINEで出会った寄稿者をパートナーに進めていくこともあります。クライアントがなにを求めているのか、どのような表現が適切かなど検証しながら、CIVILTOKYOであるからこそなにができるかを考えて制作しています。

 

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LIMI feu 2014SS / Design,Photography

 

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LIMI feu 2014SS / Design,Photography

 

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H.P.FRANCE Usagi pour toi 2014 SPRING COLLECTION / Photography

 

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give me wallets 1st EP「In My Dreams」 /

Art Direction,Design,Photography,Film Direction

 

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give me wallets 1st EP「In My Dreams」 /

Art Direction,Design,Photography,Film Direction

 

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水素74%「コンタクト」「誰」「わたし~抱きしめてあげたい~」 / Design,Photography

 

私たちはアートワークチームとしての活動も今年より開始しました。手始めのプロジェクトとして、3人それぞれの根幹である写真・グラフィック・ウェブインタラクティブを毎月のテーマに沿って制作し、「CIVILJOURNAL」と題してCIVILTOKYOウェブサイトにて公開していきます。プロジェクト終了後にはアーカイブブックを刊行予定です。また私たちのアートワークを直接ご覧いただく機会にも積極的に取り組んでいきます。

 

自分たちにとって「CIVILTOKYO」とは

私たちが3人そろってお会いした方には「本当に仲がいいんですね」とよく言われますが、古くからの友人ということではなく、社会人になってから知り合いました。いろいろな縁が重なっていま3人でCIVILTOKYOとして活動していますが、当初は「CIVIL」という名前で活動していました。second issueを刊行するタイミングで「CIVILTOKYO」に変名しましたが、実は3人とも東京出身ではありません。なぜ「TOKYO」を付け足したのかと質問されることも稀にありますが、その理由としては「TOKYO」という言葉が持つ「地域ではなく集合体」としての響きに惹かれたことがあります。

 

私たちの個人的な感覚ですが、東京にいるほとんどの人は東京出身ではない人たちで構成されていて、結局東京はそういう人たちの集合体でしかないと思うのです。だから変に土着性や生活感がなく、アイコンっぽいもののように感じます。例えば、初めて会った人のTシャツに「EHIME」と書いてあったら、特別な意味を受け取ってしまうと思います。地方の学生がお揃いのジャージを着ていて、例えば背中に「MATSUYAMA HIGASHI」と書いてあったら、当然、愛媛県出身なんだろうと思うし、髪型や服装などをつい観察してしまうようなことがありませんか。甲子園をテレビで見ていても、胸に自分の学校の名前をつけた地方の学生の眉毛の細さなどに地域性を感じたりします。しかし、「TOKYO」にはその違和感がない気がします。「TOKYO」と書いてあるTシャツであれば日本中どこで着ていてもファッションとして成立すると思います。同じ話でいうと「NEW YORK」や「PARIS」ならおそらくアメリカやフランスでも成立するでしょう。そんな先進都市が持つ一種の地域性を剥ぎとった場所のようなものが、集合体としての自分たちにいまとても合っていると思っています。

 

集合体としての私たちの活動の一つであるCIVILMAGAZINEの刊行は、買って見てくれる人や寄稿者として参加してくれる人たちにとって一種の「待ち合わせ場所」になればいいと考えています。待ち合わせ場所ですから、たった一度きりの出会いかもしれませんし、そこで気が合って一緒に旅に出るかもしれません。もしかしたら、もう嫌だと二度と訪れることがないかもしれません。しかしどんな形にせよ、私たちと関わってくれた人たちにいい出会いがあるような場所にできればいいなと考えています。そんな、出版レーベルであり、仕事をする仲間であり、また時にはアートワークチームであるような、さまざまな形態に変形していきながら私たちの活動の幅が広がっていけばいいなと考えています。

 

pip_civil_11写真:渡邊有紀

 

3号寄稿者・松下沙花のアートブックを出版します

CIVILMAGAZINE third issueからの新たな試みとして、寄稿者の中から1人を選出し、キュレーションブックを出版するプロジェクト「CIVILMAGAZINE curation book」を始めました。その第1号は、third issue寄稿者よりアーティストの松下沙花を選出し、1冊の本に仕上げます。寄稿者同士の作品制作に特化したCIVILMAGAZINEとは毛色が違うものとして、毎号出版していく予定です。ご期待ください。

 

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CIVILMAGAZINE curation book vol.1「SAKA MATSUSHITA」

 

 CIVILMAGAZINE curation book vol.1「SAKA MATSUSHITA」trailer

 

HEATHAZEにて7月より連載「A,B,CIVILMAGAZINE」を始めます

この度、カルチャードキュメントサイト「HEATHAZE」にて連載を始めさせていただくことになりました。CIVILMAGAZINEだけでは紹介しきれなかった私たちが注目するアーティスト/クリエイターの方々へのインタビューを中心に行う予定です。こちらもぜひご期待ください。

 

インターネットについて考えていること

最後にこの連続特集「ぷりぷり伊能プロジェクト」における共通の問いとして、「インターネットについて考えていること」があるとお聞きしたので、それに関連した話をさせていただこうと思います。

 

2015年3月よりAmazonにてファインアートの取り扱いが始まったというニュースがありました。近年は比較的アートを開かれたものにしようという動きが活発ではありましたが、本や家電と一緒にウェブサイトに並び、値段が晒されて、物流の流れに乗るというのはとても衝撃的でした。いままではギャラリーというある種特殊な空間に守られていた価値が明朗会計になるというのは、強引な印象以上に好感を持ちました。誰もが見ることのできるプラットフォームにようやく上がったということ自体が、むしろアートが遅れていると言われる現状のなによりの証拠ですが、これはとても価値のある動きだと思うのです。いまはまだ販売チャネルが一つ増えたにすぎないかもしれませんが、よりオンラインとオフラインが相互補完関係として機能するようになれば、また違ったサイクルが生まれてくると考えています。私たちの新たに始める「CIVILJOURNAL」もこういった世の中の流れの中での試みの一つであり、私たちの持つコンテンツをシームレスに繋ぐような働きをインターネットに期待した動きだと考えています。

 

CIVILTOKYO

伊藤佑一郎 根子敬生 都竹泰三

 

※ぷりぷり伊能プロジェクト 測量4回目 ふっつ(FRENTE!!・松江)はこちら

※ぷりぷり伊能プロジェクト 測量6回目 よしの(よしフェス・宮崎)はこちら

 

 

 

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