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icon 2015.8.23

Koichi(Grimm Grimm)×Kohhei(Bo Ningen)のKK晩酌対談――ロンドン在住の日本人ミュージシャン、その盟友同士に音楽についてあれこれ聞く

「失望すること自体も結構ポジティブだったりするしね」(Koichi)

――話題のApple MusicからSoundCloud、Bandcamp、CD、カセット、LPまで、音楽の聴き方は多様化を極めています。おふたりはどういう聴き方がしっくりきますか?

 

Kohhei:Koichiくんも日本でもレコードが出て。

 

Koichi:やっぱりレコード出すのっていいよね。凄い微妙なラインだけど、レコードを出すか出さないかって、「なんでいま出すのか?」ってなるわけじゃん。例えばこの間メキシコからメールが来て、「レコード聴きました」って。そういうのっていいよね。リアクションで音楽やってるわけではないけど、貢献してる感じ。

 

Kohhei:THA BLUE HERBの昔の曲で、凄い好きなラインに「皿は旅をする」っていうのがあって。自分の手元を離れて音楽も旅をするじゃん。本当にそれ自体が意志を持っているみたいな話で、一回レコードを作ってしまえば関係ないというか、親離れ。自分の子どもが勝手にいろんなところに行って、いろんな経験をするのはいいことだと思う。レコードもインターネットも両方あるべきだよね。

 

Koichi:レコード流行ってるじゃん?あれってダウンロードファナティックの反動だと思うんだけど、若い子とか、みんなフィジカルにさわれるものに安心やリアルを感じるんじゃないかな?

 

Kohhei:SoundCloudやBandcampもYouTubeも音が聴けるしいいんだけど、なんかリアルじゃないんだよね。

 

Koichi:確かに、なんか価値が下がる感はあるね。それを結構ずっと思ってて、この間SeefeelのMarkとコーヒー飲みながら話して「言ってることはわかるよ!けどいい部分と悪い部分はあるから」ってグァッて目を見開いて言ってた(笑)

 

Kohhei:もちろんいいところはあるよ。

 

Koichi:その後、自分なりにいいところについて考えて…一番MP3がいいと思ったのは、HDに入ってる謎のファイルが3、4個くらいあって、もう誰が書いたものなのかもわからなくて、1つはCMで流れてる子どもが出てる曲みたいなもので、いろんな人に聴かせたけどもう誰もわからないっていう。そういうカセットテープやCD-Rでも起こりえることが起きてしまうっていう身元不明感。

 

Kohhei:身元不明感は確かにある。匿名性が高いよね。

 

Koichi:そうだね。

 

Grimm Grimm & Bo Ningen「Knowing」のライブ映像

 

Kohhei:SoundCloudカルチャーみたいなものもあるじゃん?でもなんか作り手の顔が見えないんだよね…もちろんいい曲もあるんだろうけど、凄いコンビニ感がしちゃって。

 

Koichi:あるね、インスタント感とかプラスチック感とか。

 

Kohhei:それが現代の感じなのかもしれないけど…コンビニのおにぎりみたいでおいしいけど…あれ、おいしいじゃん?(笑)

 

Koichi:簡単に手に入って、でもそこで明らかに価値は下がってるような…その反動でLPやカセットが流行ってるのって…

 

Kohhei:懐古主義だけではないよね。それが僕らよりずっと若い世代にとっては、逆に新しい聴き方なのかもしれない。インターネットで育った20代前半の若い子にとっては新鮮でしょ。僕らはその狭間じゃん?インターネットが途中で出始めたっていう。だってレコードなんて、片面に針落としたらいちいち上げるの嫌だから流したままだし。面倒くさいから(笑)

 

Koichi:例えばテープも聴いてて、飛ばせないよね。

 

Kohhei:飛ばせない…っていうか飛ばさないんだよ。めんどいから。

 

Koichi:そうなんだよ。全然好きじゃない曲とか聴くよね?友達が作ってくれたコンピとか、これ好きじゃないけどって思いながら聴いてると、後になってその時のことを思い出したり、好きになってきたり。

 

Kohhei:そうそう、ジワジワきたりするんだよ。だけどインターネットだと好きじゃなかったらパッと変えられるし。

 

Koichi:そこなんだよね。

 

Kohhei:例えばレコードでもCDでもアクチュアルなものをある程度のお金を出して買うってなったら、買った以上は聴くやん?どんだけ失望しても(笑)

 

Koichi:失望すること自体も結構ポジティブだったりするしね(笑)

 

Kohhei:おいしいものしか食べたことない人はおいしいものしか知らないし、なにがいいか悪いかっていう自分の中での価値判断が作れないと思うのと同じで。

 

Koichi:2011年くらいに俺は家が4ヶ月くらいなくなった時に、4ヶ月目にしてホームレスからいまの家を見つけた時に、壁と天井のありがたさを感じたな(笑)

 

Kohhei:それは…エグい話やな…(笑)

 

Koichi:当たり前のことなんだけど「うわ!!天井と壁!!」って素晴らしなって。いまKohheiが言った「おいしいものしか~」じゃないけど。またそういう状況に陥らないためにもいい音楽を作ろう。