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EBM(T)ロングインタビュー――平成生まれのバーチャル聴覚室主宰ユニット、ナイル・ケティングと松本望睦に聞く「アート、TOKYO、同時代」

「思うのは、常になにかが終わってしまった後のような感覚。ファックされちゃった後って感じ」(ナイル)

――それから今回、MOTでの展覧会に合わせて、自分たちが主宰するバーチャル聴覚室「EBM(T)」でオフサイトプロジェクト「Tokyo Editions」も同時開催していますね。リアルとバーチャルの相互作用感が最高だなと。もともとあった構想だったんですか?

 

望睦:美術館は想定してなかったけど、オフラインのなにかと並行してやろうって構想はあったよね。

 

ナイル:オフラインって言葉を使ってるけど、ようは「場所」で。それがスクリーンのなかにある場所か、美術館のなかにある場所かってだけですね。

 

――ああ。正直「オンライン/オフライン」「インターネット/現場」「バーチャル/リアル」って二元論がしっくりこなくて。でも「場」って言われるとすっきりしますね。出品作家のFrancesco Cavaliere、Augustin Maurus、Markus Ernst Stein / D.I.Y Church、Julieta Arandaの4人とも、ナイルさんと同じベルリン在住ですよね。これは偶然?

 

ナイル:偶然です。みんな実際に会って話すことができたので、今回はより密な感じがあって。Francesco Cavaliereは80年代くらいからゲーム音楽を凄いコレクションしてて、それをリエディットして、ケルト神話やギリシャ神話からまったく新しい神話を作り出すようなアーティスト。東京ってファクターはゲームと関わってくるんだけど、やっぱり80年代あたりの日本も扱ってて。Augustin Maurusは作曲家で、西洋と東洋の時間概念が違うから、凄い日本をおもしろがっていて。ヨーロッパでは時間は流れる、反復可能なものって考えがあるけど、日本はもっとアブストラクトな感覚ですよね?彼のアイデアは技術的にできるかわからないけど、3週間ある展覧会で、流すのに3週間かかるオーディオトラックを用意して、「時間は流れていない」ってテキストを置く。もしできなかったらライブストリームにしようと思っています。

 

望睦:そうじゃないと無理かもね。ちなみにFrancesco CavaliereはLil $egaくんみたいな感じなんだけど、ローテクでかわいい。まあ、これは単にLil $egaくんの名前を出したかっただけでもあるんだけど(笑)

 

ナイル:ベルリンに住んでると東京と全然違う時間の流れ方があるから、「時間」ってアプローチで日本と関わって作っていけたらと思います。ラジオプログラムを運営してる団体のD.I.Y Churchは、イギリスでやったことのあるパフォーマンス作品を東京用に作り直したいみたいで。私たちが指示書を読んで、音を聴いて、なにかアクションすることによって作品が完成するっていう。現代美術の作家であるJulieta Arandaも最近決まったばかりだからわからないけど、e-fluxに寄稿してるくらいだから、かなりアカデミックなものが出てくるかなって。

 

――いまベルリンの時間の流れ方が違うって話が出ましたが、どんな空気感なんですか?

 

ナイル:ゆるいですよ(笑)でもものを作ってる人がいっぱいいて楽しいです。もともとは大学在学中に一年間ヘルシンキに留学した時に、サウンドアートとかを勉強していて。そのときに、いま一緒にクリエイションしてるConstanza Macrasの大学でのワークショップを取って。その後「うちのカンパニーで一緒にやらない?」と言われ、ちょうどヨーロッパで活動をと思ってたので、それがきっかけで引っ越しました。もう3年くらい経ったかな?ベルリンは街が凄いクリアだし、異種であることが当然みたいな空気があります。たまに東京が恋しくなるけど、私も気にしいで考えすぎるところがあるから、ベルリンのほうがものを作ったり生活したりする場所としてはストレスも溜まらないし、精神的に健康で。東京は、基盤にハマってない人の扱いがわからないから(笑)でもわからないから、さらにクレイジーなものが出てきやすい環境でもあると思います。

 

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――もともとナイルさんは鎌倉に近い逗子出身、望睦さんは横浜出身ですよね。同じ横浜出身かつ神奈川県民として嬉しいです(笑)どんな幼少期だったんですか?

 

ナイル:父親が変な音楽が好きで、John CageやSteve Reichが普通にかかってる家だったので、早い段階であんまりまわりと合わないことがわかっていて(笑)だからオンラインでそういう音楽が好きな人を見つけて、わ~って盛り上がる感じでした。インターネットには小学校4年生くらいのときに初めて触れたかな。Macのおにぎり型のですね。

 

望睦:ニュースで言ったら阪神淡路大震災やオウム真理教の事件は、小学校上がる前だったけど覚えてるなあ。小学生のときはみんなケミストリーや宇多田ヒカル、ジュディマリ、ラルクあたりを聴いてたかも。でもロマンポルシェ聴いてるやつもいたり。テレビだと笑う犬の冒険とかネプチューンとか。ミル姐さんのモノマネや「ジュンジュワー」なんて流行ってたなあ。テープがまだ普通に使われていて、ある曲の好きな部分だけをループにして聴いてたかな、当時は。いまもか。学校では男女間の確執が凄い嫌で泣きながら先生に相談して元に戻したり、いじめも凄い嫌で泣きながらいじめっ子にやめなよって言ったりしてた(笑)争い事が苦手なんだよね。ちなみにインターネットを初めて使ったのは小学校3年生くらいだったな。

 

――小学生の頃から柔和な性格を発揮してたんですね(笑)ところで横浜って、東京と神奈川に自我が引き裂かれません?私は青葉出身で、いわゆるみんなが横浜と聞いて思い描くみなとみらい地区よりも、渋谷に出るほうが早かったから…

 

望睦:なんとなくわかるかも。引き裂かれるというより空っぽな感じかな。生まれは川崎ほどじゃないけど、まあまあ治安の悪い鶴見で。高校2年生のときに高校1年生の死体が川から出てきちゃったり、隣の家も解体したら白骨死体出てきちゃったり、そういう街。東横線沿いに引っ越すまではJRで品川に行ってて、品川と横浜だったら横浜のほうが近いんだけど、中高もそっち方面だったから品川のほうが近く感じるみたいな。金持ち気分に浸りつつ、地元はすっげえきたねえっていう。

 

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――ナイルさんは1989年生まれですよね(望睦さんは早生まれで1990年生まれ)。個人的に80年代の最後と平成の最初という二つを体感できてうらやましいなと思ってるんですが、上の世代、下の世代、同世代に対してどういう感覚を持ってますか?

 

ナイル:難しいですね。あんまり世代っていう言葉を使いたくないから。思うのは、常になにかが終わってしまった後のような感覚。ファックされちゃった後って感じ。バブルが弾けた後でもうなにもないみたいな。

 

望睦:しかも世紀末だしね。ノストラダムスの大予言はおもしろかった。一応起きてみちゃったり。ふふふっ。

 

ナイル:そう。世紀末にインターネットが出てきて違う世界が開けてくるんじゃないかってことを感じてきた世代だと思うんですけど、上の世代を見ると、時代が終わる前の価値観を基準に動いてる感じがします。別にいいとか悪いとか正しいとか間違ってるとかじゃなくて、単純に違うんだなっていう。失敗しても変わっていけばいいし、常に成功し続けなきゃいけないわけでもない。でも自分たちと同じように考えてる人ってそんなにいなくて、まわりにいる多数の価値観に影響されてる人が多いんじゃないかな。私は父親が変わり者のアナーキストだったから、間違ってることに対してそんなに怖れなくていいし、間違ったら間違ったでごめんって言えばすむことじゃんってところに影響を受けています。それよりも自分の立ってる場所を知ってたり、違う人の立ってる場所をちゃんと理解してあげたり、多様性を感じられるような表現をしたりすることのほうが美しいんだってことを小さい頃から思っていますね。

 

――ふたりは縛られない、収まりきらないタイプですね。

 

望睦:単純に群れるのが苦手。

 

ナイル:でも望睦は付き合い方をちゃんと知ってるじゃん。私はそれができなくて目立っちゃって、出る杭は打たれる感じで凄い叩かれちゃうのね。そういう意味で大学は大変でした(笑)

 

――世知辛いですよね…世の中的には「失われた10年」なんて言われてきましたけれども。

 

ナイル:失われた10年って凄い良い。ほんとに失われた10年だったとしたら、ある意味それを逆手に取って時間をブラックホールのなかに置いて、いまここの時代にもいないし、でもどこの時代にもいるみたいな感じにしていけるんじゃないかなあ。

 

望睦:「失われた」って最初から言われちゃってるからね。

 

ナイル:そう。失われてるんだったら、その失われてることに対してどこにでもアダプトできるっていう。

 

――あと「ゆとり」というレッテルを貼られて生きてきた世代でもありますよね?

 

望睦:アニーちゃんもゆとりでしょ?

 

――いやいや、私は凶悪犯罪者が多いと言われる「キレる」世代。昭和から平成へ、バブル崩壊、大事件と大災害、世紀末、コンピューター・ゲーム・モバイルフォンの発展、学校教育の見直しなど、すべてが「過渡期」な感じでしたね。私の青春は1990年代だけど、ふたりの青春は2000年代ですもんね?

 

望睦:でも個人的にはそっちの年代のほうがちょっと共感持てるかなあ。スペシャやMTVを見てたから、スーパーカーもフィッシュマンズもミッシェルもブランキーもナンバガも普通に聴いてたよ。でも青春って、特にないかも(笑)