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icon 2015.1.7

台北ストーリー 第5回 11月21日号――あの大物俳優主演の新作短編を携え、「中華圏のアカデミー賞」に参加した宮崎大祐監督による台北紀行!

台北ストーリー 第5回 11月21日号

宮崎大祐

 

11月21日

 

朝まで歩いていたのに(勝手に)翌朝打ち合わせなんて……もう眠くて眠くて。ホーミーたちにくっついてオシャレ地区・東門の鼎泰豐(ディン・タイ・フォン)本店にランチを食べに行く。一時間待ちだと言われ、リーオススメのカフェ・カフカで時間を潰す。趣味の良いUKロックが流れ趣味の良いフランス映画のポスターが貼られている。店内では奇しくも学生が自主映画を撮影していた。ようやく通されたディン・タイ・フォンは日本人観光客用のフロアであった。残念ながらこの集団にリーベンレン(編注:日本人の意味)は私しかいないんですけどね。周囲のおじ様方のゴルフトークで久々の生日本語に触れながら、飲茶をいただく。

 

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「鼎泰豐」厨房

 

結論:小籠包はさすがに美味であったがメニューが少なく、総合力ではバンコク店に軍配が上がる。店から出た瞬間に気づいた、ここが『カップルズ』でマルトとルンルンが接吻する場所だったということに。厳かな音響の下で。

 

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エドワード・ヤン『カップルズ』のラスト・シーンの場所

 

再びグランド・ハイアットに戻り打ち合わせ。今後の方針について。あまり興奮する者もおらず終了(いつも興奮するのはごく一名なんだけど)。中国パートの監督ヴィンセント・杜海が金馬影展閉会式前夜祭用(ややこしい)のジャケットを買わねばならないというので、だったら私が滞在しているオシャレ街・西門で買えばいいじゃないかと一緒に移動。結局今回のアジア・オムニバス企画を通じ最も親密になったのは日中チームであった。企画発足当初は当たり前ながらそんなこと夢にも思わなかった。理由は言うまでもない。私個人の主義主張はさておいてね。そんな隣人ヴィンセントに海外では少しハイ・ブランド気味のユニクロのジャケットをあてがってやり、ややこしい名前の式典に出るために国際会議センターに向かう。中に入り席に着くと各テーブルに憧れの監督、俳優たちが鎮座しており、鈍く病的な興奮に襲われるがまたも延々と続く北京語による司会進行を聞いているうちに眠たくなってしまった。眠気のピークに会場を抜け出し、グランド・ハイアットのロビーで待ち合わせしていたSちゃんと合流。私「ごめん、待った?」S「ううん、少しだけ」。

 

バスに乗って大安にあるこれぞホントの台湾料理だという小鍋料理屋に連れて行ってもらう。様々な料理がバイキング状に配されており、その中から好きなモノを選ぶとおばちゃんが小鍋に分けてくれて、それを各テーブルで温め直してから食べる。一口食べて、こら美味いと食べ始めたのはいいが連日の睡眠不足で胃が縮んでいて残念無念、あまり入らない。Sちゃんが常連だという近所の日式(日本風。といっても昭和初期風)居酒屋にハシゴして本題である企画会議。なかなかディフィカルトなミッションを命じられたんだけど、実現すると良いな。いや、するよ。祈りを込めて、このお店オリジナルの林檎酒と林檎地ビールぐびぐび。うまいうまい。しかし睡眠不足と蓄積疲労も重なり即気持ちが良くなってしまう。遠ざかる記憶の中、妙に印象深い色取り取りのフライドポテト。台湾の方は料理の飾り付けや色味に非常に凝る。このこだわりは今まで訪れた国で一番かも。名物の自家製アイスを食べ損ねた。

 

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数々の小鍋料理

 

夜も深くなったので大安の交差点でタクシーを待っていると、どこかで見たことがある道だったのでひょっとしたらと思ってSちゃんに聞いてみたら案の定、『カップルズ』のオープニング・シーンのロケーションであった。ルンルンとレッド・フィッシュが軽トラで走ってくるあの道だ。さっきまで千鳥足で欠伸ばかりしていたのに、突然満面の笑みを浮かべ走り回る私にSちゃんは少しあきれた様子だった。ということにしておこう。

 

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『カップルズ』のオープニング・シーンの場所

 

※トップ写真は東門の公園

台北ストーリー 第4 11月20日号はこちら

台北ストーリー 第6 11月22日号はこちら

 

 

 

●Profile

宮崎大祐

 

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2004年製作の『10th Room』が、マーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュを輩出したニューヨーク大学映画学部主催の「KUT映画祭」でグランプリを受賞。翌年、『Love Will Tear Us Apart』が日本最大級の実験映画祭「イメージフォーラム・フィルムフェスティバル」で特別招待上映される。

2010年にはベテランカメラマン・芦澤明子を迎え、長編処女作にしてフィルム・ノワールに果敢に挑んだ『夜が終わる場所』を監督。トロント新世代映画祭で特別賞を受賞したほか、南米随一のサンパウロ国際映画祭のニュー・ディレクターズ・コンペティション部門やモントリオール・ヌーボーシネマ国際映画祭のインターナショナル・パースペクティブ部門に正式招待され話題を呼んだ。2012年の国内初公開では、上映後のイベントにイルリメやGEZANらを招き、「MIYAZAKI MUSIC FESTIVAL」の様相を呈した。翌年には、イギリスのレインダンス国際映画祭が「今注目すべき7人の日本人インディペンデント映画監督」のうちの1人として選出。

そして2014年、ベルリン国際映画祭のタレント部門に招待されたのをきっかけに、アジア4ヶ国の新鋭監督が集うオムニバス映画『Five to Nine』に参加。ハードボイルドと言えばのあの大物俳優を迎えた『BADS』パートを担当している。なお、筒井武文監督の『孤独な惑星』や吉川岳久監督の『ひきこさんの惨劇』『ひ・き・こ 降臨』の脚本も執筆しており、これからの活躍が本当に楽しみな才人である。

 

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