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icon 2015.1.18

台北ストーリー 第6回 11月22日号――あの大物俳優主演の新作短編を携え、「中華圏のアカデミー賞」に参加した宮崎大祐監督による台北紀行!

台北ストーリー 第6回 11月22日号

宮崎大祐

 

11月22日

 

昨夜は未明に帰ってそのまま先日本誌に掲載していただいた『ひ・き・こ 降臨』インタビューの原稿チェックをしていたのでようやく朝ベッドに入るも学生デモがうるさすぎてすぐに目が覚めた。今日はとりあえず夜中の二次会までオフ。小さくYEAH。午後まで寝ていようかと迷ったが折角台湾に来ているのでと出発。近所で名物鰹ソバみたいなものを食うが、その昔父がよく週末に作っていた、のびのびの素麺みたいな味だなという以上の印象はなく。町に出たはいいがガイドブックも何も読んでいないのでまずどこに向かったらいいか分からず、どうすっかなと思っていたら偶然にもヴィンセントに遭遇したので彼にくっついてまずは名高い「台北之家」に向かう。

 

ここは候考賢が館長をつとめる、言わば台北の映画博物館。館内には台湾出身の名監督たちに由来するものが飾ってあったりして単館系映画館も併設されており、映画好きの若者たちで溢れ返っていた。ヴィンセントは本土では手に入らないという是枝裕和さんの本を購入していた。マルトに乗り公館へ。公館は台湾大学の最寄り駅で、いわゆる学生街。「この一帯では本土で手に入らない書籍やレコードが格安で手に入るんだ」というヴィンセントの弁。でもさ日本では数クリックで手に入るものばかりなんだよね。手に入るものばかりだと不満で、手に入らないものばかりでも不満で、なんなんだよキャピタリズム、なんてことを考えながらヴィンセントと別れ辛亥路沿いに歩いていると見覚えのある高層マンションと小学校が現れた(編注:エドワード・ヤン監督『ヤンヤン 夏の想い出』のロケ地)。傍らの高架の下で手紙の交換が行われているのではと胸高鳴ったが残念ながらその瞬間には遭遇できず。

 

taipei6-2ヤンヤンの家

 

taipei6-3ヤンヤンの小学校

 

101地区で日本から来たMプロデューサー夫妻と合流しお茶。名物であるパフェに巨大な青い綿菓子が乗っかっているヤツを食べて、夫妻にくっつき、名物「翠玉白菜」と「肉形石」を見に故宮博物院に向かう。実物は想像していたものと全く違い、「わざわざ来たのに、なんやこの親指サイズの白菜と角煮」と若干機嫌を損ねたが中国人観光客の熱狂とはしゃぎようを見ると、彼らにとってはたいそう有り難いものであることは間違いないようだ。他の展示品も小さなものばかりで、台湾の方々の慎ましさをよく現しているというかなんというか。

 

taipei6-4「椰子の実に注意!」

 

夕飯を食べに台湾ニューウェイヴ映画ではお馴染みの遼寧街夜市へ向かった。数十メートル程度のかなりこぢんまりとした夜市ながら味はこれまで訪れたいずれの飲食店よりも上であった。何軒かハシゴしたが全く味は落ちず。あまりの美味しさに仲間との籤に外れ一次会に入れなかった悔しさも忘れる。あっと言う間に二次会の時間になったので会場に向かう。先日に引き続きの豪華面子でさっと膀胱が引き締まりおたおたする。そんな中、受賞を逃したにも関わらず「うちらのテーブルに座りなよ。お前は既にうちのファミリーの一員だ」と快く声をかけてくれたMIDI Z君の『Ice Poison』組への恩は近い将来絶対に返す。もちろん見えているが見えていないフリをしなければならない諸々の兼ね合いで二次会はサッと切り上げ、どこかの駐車場で秘密裏に行われているという三次会に向かう。だが、その前に会場の場所を調べなければならない。なにせ秘密裏だから。場所はあっさりとわかった。ヴィンセントが最優秀ドキュメンタリー賞候補に選出されていた役所広司そっくりのドキュメンタリー監督グー・タオと親友だったので、彼が場所を教えてくれた。そのグーと中国で非合法映画ばかりを撮っているというカメラマンと女性Pとヴィンセントの五人で押し合いへし合い一台のタクシーに同乗し秘密の会場に向かう。愉快なグーは何度か訪日しており、ある時お土産に中国のお菓子やひまわりの種を買って行ったら前者は食品安全上の問題で捨てられ、後者はこんなもの日本人は食べないと鳩の餌にされたとのこと。

 

taipei6-5侯孝賢先生と

 

辿り着いた打ち上げ会場は本当にただのバス駐車場だった。駐車場にテントを張り出店を出し、中華圏のセレブが勢揃いし打ち上げをやっている。そして差し出される烏龍茶にも麦茶にも砂糖が入っている。ともあれ、そこで誰に出会ってどんなことがあったかは「秘密なのさ~♪(こじらせ系三十路女の☆オザケンより引用)」だが、生涯忘れ得ぬ夜になったことは間違いない。明け方、天本英世似の運転手がF1ばりの速度で飛ばすタクシーの後部座席でつい先程までの夢のような時間のことを思い出して涙腺を緩める私であった。

 

taipei6-6秘密の打ち上げ会場

 

※トップ写真は「台北之家」

台北ストーリー 第5 11月21日号はこちら

台北ストーリー 第7 11月23日号はこちら

 

 

 

●Profile

宮崎大祐

 

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2004年製作の『10th Room』が、マーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュを輩出したニューヨーク大学映画学部主催の「KUT映画祭」でグランプリを受賞。翌年、『Love Will Tear Us Apart』が日本最大級の実験映画祭「イメージフォーラム・フィルムフェスティバル」で特別招待上映される。

2010年にはベテランカメラマン・芦澤明子を迎え、長編処女作にしてフィルム・ノワールに果敢に挑んだ『夜が終わる場所』を監督。トロント新世代映画祭で特別賞を受賞したほか、南米随一のサンパウロ国際映画祭のニュー・ディレクターズ・コンペティション部門やモントリオール・ヌーボーシネマ国際映画祭のインターナショナル・パースペクティブ部門に正式招待され話題を呼んだ。2012年の国内初公開では、上映後のイベントにイルリメやGEZANらを招き、「MIYAZAKI MUSIC FESTIVAL」の様相を呈した。翌年には、イギリスのレインダンス国際映画祭が「今注目すべき7人の日本人インディペンデント映画監督」のうちの1人として選出。

そして2014年、ベルリン国際映画祭のタレント部門に招待されたのをきっかけに、アジア4ヶ国の新鋭監督が集うオムニバス映画『Five to Nine』に参加。ハードボイルドと言えばのあの大物俳優を迎えた『BADS』パートを担当している。なお、筒井武文監督の『孤独な惑星』や吉川岳久監督の『ひきこさんの惨劇』『ひ・き・こ 降臨』の脚本も執筆しており、これからの活躍が本当に楽しみな才人である。

 

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