taipei7-1
icon 2015.1.25

台北ストーリー 第7回 11月23日号――あの大物俳優主演の新作短編を携え、「中華圏のアカデミー賞」に参加した宮崎大祐監督による台北紀行!

台北ストーリー 第7回 11月23日号

宮崎大祐

 

11月23日

 

本日もデモの叫声で目が覚めた。幻影のような電影のような昨夜の証拠がデジカメに入っていることを確認。西門站周辺を台湾ニューウェイヴ映画の思い出に浸りながら散歩することにした。『ふたつの時、ふたりの時間』はじめ様々なツァイ・ミンリャン映画の舞台だった駅東側の歩道橋は既に取り壊されていた。昨夜見かけたチェン・シャンチーが立派なおばちゃんになっていたことと合わせて考えると、時の流ればかりはどうしようもない。

 

taipei7-2

牯嶺街(クーリンチェ)の劇場

 

日本政府によって建造された総統府をチラッと見てマルトに乗って中正紀年堂へ。駅前で胡椒餅を食べて腹ごしらえ。胡椒餅とはネギがたっぷり入った台湾版ハンバーガーのこと。蒋介石を祀る中正紀年堂では週末の台北市長選に向けて反中派による大規模な選挙運動が行われていた。紫色の旗を振り翳し聴衆をアジる老人、「台湾は強い」と書いた大きな幟を振り回す青年、コスプレしてきゃっきゃとはしゃぐ若者たち。笑顔で差し出された旗を私は受け取ることが出来なかった。台湾はいまだ独立、九二共識の解釈を巡って大きく揺らいでいる。根本的な問題系は現代日本の対米アジア問題となんら違いはない。いや、むしろ台湾のこういった問題の背景には日本による大きな影があると、日本軍が忘れ置いた小銃をミンが構えるシーンを思い出しながらクーリンチェを歩いた。あの中学(編注:エドワード・ヤン監督『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の舞台)を見つけた。

 

taipei7-3

あの中学1

 

taipei7-4

あの中学2

 

taipei7-5

あの中学3

 

マルタで基隆河付近まで北上し、大阪の万博記念公園周辺にそっくりな圓山で降り、臺北市立美術館を訪問する。日本の美大系サブカルのよろしくない影響が随所に垣間見えてなんとも……。

 

taipei7-6

臺北市立美術館

 

西門に戻り名物楊桃冰を食べた。茶褐色のみぞれにシロップ漬けのスターフルーツが入ったこのデザート、現地の皆さんはスターフルーツの具よりも茶褐色のみぞれを主に牛飲していて私もこれに倣ったが、飲むやいなやそれが黒酢の氷割りであることに気づき咳込んだ。どうも私は台湾「名物」と一般的に銘打たれる食品とはあまり相性が良くないらしい。週末の竹下通りのごとくごった返す西門を歩きながら、もう何も要りません、購買できません、申し訳ありませんと詫びながらホテルに帰って休憩。

 

香港からたまたま仕事で来ていたWプロデューサーと食事をすることになり「台電大楼」駅で待ち合わせしたが間違って「台大醫院」駅に行ってしまった。だいぶ遅れてすまんすまんと合流し、公館夜市で食べ歩き。おでんみたいな趣の屋台で具材を選ぶとその全てを鍋でごった混ぜにして差し出すという料理が主流。前の人のごった混ぜと私のごった混ぜと後の人のごった混ぜが全く同じ鉄鍋で繰り返しシャカシャカシャカシャカされる。そういうのってなんかイヤな気持ち、分かるでしょ。日本のシャカシャカポテトはここが発想源なんだろうけど。

 

taipei7-7

シャカシャカ鍋

 

Wと別れ真夜中にダン・ギルロイの『ナイトクローラー』を見に行った。誰が英語を話せるかの譲り合いできゃあきゃあ言ってる券売少年たちの相手をしていたら少し上映開始に遅れてしまった。こっちの開始時間は本編開始時間なのね。ジェイク・ギレンホールのなかなかよい芝居が見られる古典的ワンキャッチ妄執ノワールというか、それ以上でも以下でもない。

 

ダン・ギルロイ監督『ナイトクルーラー』のトレイラー映像

 

※トップ写真は選挙運動

台北ストーリー 第6 11月22日号はこちら

※台北ストーリー 最終回 11月24日、25日号はこちら

 

 

 

●Profile

宮崎大祐

 

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2004年製作の『10th Room』が、マーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュを輩出したニューヨーク大学映画学部主催の「KUT映画祭」でグランプリを受賞。翌年、『Love Will Tear Us Apart』が日本最大級の実験映画祭「イメージフォーラム・フィルムフェスティバル」で特別招待上映される。

2010年にはベテランカメラマン・芦澤明子を迎え、長編処女作にしてフィルム・ノワールに果敢に挑んだ『夜が終わる場所』を監督。トロント新世代映画祭で特別賞を受賞したほか、南米随一のサンパウロ国際映画祭のニュー・ディレクターズ・コンペティション部門やモントリオール・ヌーボーシネマ国際映画祭のインターナショナル・パースペクティブ部門に正式招待され話題を呼んだ。2012年の国内初公開では、上映後のイベントにイルリメやGEZANらを招き、「MIYAZAKI MUSIC FESTIVAL」の様相を呈した。翌年には、イギリスのレインダンス国際映画祭が「今注目すべき7人の日本人インディペンデント映画監督」のうちの1人として選出。

そして2014年、ベルリン国際映画祭のタレント部門に招待されたのをきっかけに、アジア4ヶ国の新鋭監督が集うオムニバス映画『Five to Nine』に参加。ハードボイルドと言えばのあの大物俳優を迎えた『BADS』パートを担当している。なお、筒井武文監督の『孤独な惑星』や吉川岳久監督の『ひきこさんの惨劇』『ひ・き・こ 降臨』の脚本も執筆しており、これからの活躍が本当に楽しみな才人である。

 

http://www.daisukemiyazaki.com/