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icon 2015.12.21

趣向を凝らした重ね着で「和×モダン」を表現、FACTOTUMの2016年春夏コレクションをレポート

勝手に生きろ。ラテン語でそんな意味を持つ言葉を自身のブランド名に冠したFACTOTUM。「デニムに対する深い思いと、モードとリアルクローズを融合すること」をコンセプトに、デザイナーの有働幸司が2004年に立ち上げ、2011年にはレディースライン「FACTOTUM FEMME」をスタート、「TOKYO FASHION AWARD 2015」受賞などその名を広めてきた。ここHEATHAZEでも、FACTOTUM Galleryで行われたさまざまな展示会――写真家の高倉大輔、コラージュ作家のM!DOR!、イラストレーターの寺坂耕一、セレクトショップのRUMHOLE/beruf、ガラス作家の谷口嘉――を積極的に紹介してきた(現在、展示会シリーズはお休み中)。

 

そんななか、さる10月13日(火)、有働の母校・東京モード学園のコクーンタワー50階(!)で、2016年春夏コレクションが披露された。国内最大級のファッションの祭典「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO(以下、MBFWT)」期間中のことだ。人生初のファッションショー参加ということでどきどきしながら会場の扉を開けると、ガラス張りの眼下に大都会・東京の摩天楼が一気に広がる。その手前にランウェイと客席があり、凄い迫力だ。

 

Haruhiko Kuboのアグレッシヴな重低音ビートに乗って、ショーがスタート。今回のテーマは「LAYERED(重ね着)」。ゆったりとした着丈はもちろん、ベルトではなくリボンを巻くことでやわらかさを醸し出していて印象的。色は緑、青、淡い橙、灰、白と全体的に渋い。天然素材の綿・絹・麻を用いたり、天然染料で染めていたり、たんぽぽの綿や胞子を彷彿とさせる柄が刺繍されていたりと、「和×モダン」なデザインとカッティングで表現されていて新鮮だ。袖の長さや襟元の開き具合を違わせることで絶妙な重ね着感を出しつつ、同色でまとめているので重ね着してないような感覚に。自然界でいう「擬態」に近いかもしれない。なるほどアニミズム(万物にはすべからく霊魂が宿っているという考え)を唱える詩人・山尾三省にインスピレーションを得たというのも納得だ。とはいえ靴はラフなスニーカーやサンダル、エナメルシューズなどで、スポーティーでもある。モードらしさもカジュアルさもありながら、ストリートなヴァイブスを感じさせるところがニクい。

 

近未来SF感漂う超高層ビルで太古の自然を感じるという、不思議で刺激的で非日常な体験だった。そういえば新国立競技場コンペティションで注目を集めた建築家・田根剛のプランも「古墳スタジアム」だったし、デザイナー・廣川玉枝が手がける「SOMARTA」の2016年春夏コレクションのテーマも「デジタル民族」だったし、LORD Ø主宰の音楽レーベル「Eco Futurism Corp.」も「Nature sounds with futuristic soundscapes.」というナイスなコンセプトを掲げているし、映画界もさまざまな角度/切り口からのSF作品が増えている。「フューチャー・トライバル」はいまにはじまったものではないけれど、2016年は全所的に「太古SF」なんてはやらないかなあと思ったり。

 

2015年は新ブランドの立ち上げも続いたFACTOTUM。4月には、上質で普遍的なワードローブを提案する「VALLIS by FACTOTUM」を開始(ちなみにVALLISはラテン語で「谷」という意味で、現在拠点にしている東京・鶯谷に由来)。また10月には、デニムとミリタリーを組み合わせ、日常的に着回せるアイテムを展開する「FACTOTUM JEANS」をスタートさせた。今回のショーでMBFWTへの参加をいったん終了し、フランスでのショーに軸足を置くそうだ。「ミリタリー」「ワークウェア」「テーラード」の基本は崩さずに、リアルな日常とローカルな価値観を大切にしたシンプルな服づくりを続けていく。今後の世界展開が楽しみである。(福アニー)

 


 

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