icon 2013.6.26

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(最終回)

実況中継 文月悠光    まみれてしまうのなら、 やさしさを選びたい。 夏、いきぶかい路線図の交わりに指を置く。 折れ曲がるからだを 立て直して、背筋伸ばして電車 ひとりでに世界を見送っていた。   光に誘われ、忍びあし 歯車の組み体操から脱け出して ...

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icon 2013.6.24

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第11回)

ジャスティス 福間健二   言葉をさがす妹たちを びしょぬれにした雨があがって とりあえず、ここが法を破っていい門の前だ。 「力を使う者が感じない歯車になって 違法なことをしているときは」 行方不明の首たち、そのままそうして 見つけられるのを待っているだけではだめだよ...

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icon 2013.6.12

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第10回)

逃走記 文月悠光   身をひそめておかねば うっかりと読み上げられてしまうから ことばは或るとき街から逃げた。 影がわたしの唇を吸いながら 十番地のコインロッカーまで伸びていった。 ロッカーの鍵はことごとく持ち去られている。 無言で生きのびていけたら、と 願いを押し...

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icon 2013.6.6

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第9回)

息子たちの街 福間健二   ゆっくりと動く 小さな箱が ひとつの希望でありつづけるために。 まちがった想像から街に生まれる 何番目の息子が葬られて そのまま、その肩、沈ませない 変形性の「車道、歩道、さらに狭い通路」なのか。 押し倒され、起伏を影たちに支配されても ...

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icon 2013.6.1

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第8回)

夕日の果実 文月悠光   夕日が街を押し倒していき、 影だけがくっきりと前に立ちあらわれる。 左手にさげたレジ袋の中身が 何であったか 思い出せなくなっている。 袋のなかで新たに実りはじめている、 夏の光がふくらはぎに触れて熱かった。   休息ののちに ...

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icon 2013.5.23

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第7回)

バレリーナ 福間健二   消えようとして、ふとためらうように しずくを切った体の線に やわらかい光をひきよせた。 日曜日、休息の日の 「とにかく」は わけのわからないことをいろいろと言った末に、だ。 このまま老いて、じゃまになるのは 体温と精細度の高さだけじゃない。...

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icon 2013.5.16

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第6回)

五月の天使 文月悠光   ――天使だったのか 胸の傷口からまっしろな羽をあふれさせ、 あの人は言った。 伏せられた紙たちを一斉に表に返して わたしたちは そこにある色や線に見入ったものだ。 真夜中のくぼみに腰をおろして 一滴のしずくを装っていた。 ――天使なんてい...

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icon 2013.5.8

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第5回)

オブセッション 福間健二   愛じゃないとしても オブセッション、終わらない。 土のなかに埋められても 春の体温と揺れる脚線を感じてしまう。 痛いってこと 痛いけど、やめないでほしいってこと。 茶色から灰色へ、灰色から青へ どこからはじまったとしても、だれかが 天...

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icon 2013.5.1

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第4回)

変身 文月悠光   この指とまれ と さかんに名前呼び合って 頬杖のなかに溶けていく。 この箱、どうなるのかな。 ふたりで破きはじめた包み紙。 蝶のリボンは、風に手渡す。 空っぽだったら、どんな顔しよう。 名前を当てずっぽうにつむぎ出し、 わたしたち、指から指へと...

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icon 2013.4.24

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第3回)

ミディアム・テンポ 福間健二   会話でも文章でも 恋のために 遠まわりして さわりたい手をかくしている この箱、どうなるのかな。 容積、温度、速さ。 推測とたくらみが それぞれおなじ破滅の引き算を用意して 中くらいの板、その痛む色 ミディアム・テンポで あか...

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icon 2013.4.17

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第2回)

四月鬼 文月悠光   雨垂れ。叩くだろう、君は。彼女の青白い頬のうえを這いつくように。四月、過ぎゆく手のひらに応えられぬまま彼女は石壁のごとくざらついている。意志のない触手のささめきを聞く。頭上ではすこやかに手繋ぎオニが繁殖し、滴の束を振りおろす。まっすぐな雨粒は檻のように見える...

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icon 2013.4.10

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(第1回)

光のなかで 福間健二   寒さ。そのための、いくつもの、努力と 半透明の棒がたれさがる ふるさとの家。一晩で行って帰ってきたのに 四月、時間がなくなっている。 いない人の影を抱きしめて 待ったなし。暗くなるまでの、勝負だ。 ミステリーなんか読んでいられない。 忘れら...

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