icon 2013.6.26

文月悠光×福間健二◆POETRY FOR LIFE(最終回)

実況中継

文月悠光 

 

まみれてしまうのなら、

やさしさを選びたい。

夏、いきぶかい路線図の交わりに指を置く。

折れ曲がるからだを

立て直して、背筋伸ばして電車

ひとりでに世界を見送っていた。

 

光に誘われ、忍びあし

歯車の組み体操から脱け出して

街をみんなに見せたくなった。

雨をくぐった屋根たちの

鱗いちめんに生え変わるとき、

(さようなら)

声高らかに

行方不明の実況中継。

雨にほんとうの終わりなどなく、

またどこかに落ちる ひとしずく。

わたしの手のひらが絞っている。

新たな季節、チューニングせよ。

 

 

 

●Profile

近影正面(小)文月悠光

1991年北海道生まれ。 2008年、第46回現代詩手帖賞受賞。2010年、第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で第15回中原中也賞、第19回丸山豊記念現代詩賞を受賞。エッセイ・書評などを執筆。ナナロク社のホームページにて詩を連載中。タイツブランドtokoneに参加し、タイツに詩の言葉を載せる。2013年6月、第2詩集『屋根よりも深々と』を刊行予定。早稲田大学教育学部に在学中。

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