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鈴木卓爾×小田篤×川口陽一よもやま鼎談――『ジョギング渡り鳥』の監督×キャスト×音響が語る、音と映画と自意識について

「なんて僕らは生きてる間にいろんな音を無視してるんだろうって思いましたね」(小田)

鈴木:陽一はどう?

 

川口:そうですね、結構嬉しいし、そういう意識でやったけど…もともとは僕、最初の半分は現場に行かずに、みんなが画面の中で撮ってる音しか素材がないというシーンとかあったんで、まずこれどないしようかっていう(笑)そこがスタートなんですよ。さっきの話とは逆かもしれないですけど、映画の音やってる中で、まずは台詞がちゃんと聞こえなきゃだめだっていう基本はあるので。

 

鈴木:うんうん。

 

川口:もらった素材には台詞が聞こえないのもたくさんあって、しかもこれはどう考えてもアフレコはできないだろうっていうものだったので、そこをどうしようかっていう格闘から始まった感じですね。

 

小田:実際に行われていた手順として、僕ら役者が第一期撮影(※音響注:この映画は断続的に撮影を続けた。大きく時期をわけて、第一期、第二期と呼ばれる。川口は第二期から召喚されて、『ジョギング渡り鳥』に参加しました)で、マイクを持ってむちゃくちゃな状態で録った素材を卓爾さんが川口さんに渡し、川口さんがまず聴いてみた。そこでお二人の話し合いは行われたんですか?

 

鈴木:一番話したのはね、第二期撮影も終えて、映画美学校の上映に間に合わすべく初めてここに二人で入った2013年11月後半から12月。でも二週間ばかりしかなくて、最終的に仕上げるにはProtoolsに移すんだけど、それは今回時間的に無理だってことでFinal Cut上で音の上げ下げだけで一回作ったの。それがプレ作業で、実際そのあとどんなサウンドデザインにしていくかってことはもっと後に発見していったよね。

 

川口:あの時点ではまだなにもしてないですからね。素材の上げ下げだけで。

 

鈴木:まだ水の音がどうとか、風の音がどうとか、やっぱ足音が足りないねとか。見上げることしかできない鳥についての、人の「見る」話だから、その人は足音しか立てられないというのはやっぱり重要なんじゃないかなあと思ったりして。それで羽の音をどういう風に作ろうかっていうことを、ほとんど川口さんが考えて。いわゆる古典的な意味での効果音みたいな、布やいろんなファブリックを使って、こうやってパタパタって試行錯誤してやってたじゃないですか。それから深谷にも音録りに行ったんですよ。

 

川口:冬に行きましたね。白鳥がロシアに帰る前に、白鳥の音を録らなきゃいけないって僕が要求して(笑)第二期撮影では白鳥飛来地は一回もなかったので、一人でここかあってちょっと感動して。

 

鈴木:あの時の雪(※音響注:2014年2月28日)、すぐ前に降った雪で深谷のマラソン大会が中止になったんじゃなかったっけ?雪降るとマラソン中止なんだという、それがジョギングともかぶったりして。『ジョギング渡り鳥』ってもともとマラソンをラストに持ってこようというのがあって。ポスターもそのための振りなんじゃないのって。要は、頭のおかしなどん兵衛が勝手にマラソン大会を企画して、ポスターを町中に貼ってて、生き方を模索している登場人物たちがその嘘に乗じてマラソンをし始めるっていう感覚があったので、最後に全員で走るというのはどこかで決めていてね。それでその時にそのポスターを観て走り始めるのかなあとか、そういう風にしか考えてないんですよね。脚本になる前の想像をいきなりみんなに振っちゃってて、どんなものが返ってくるかというのがあって。でもサントラの話に立ち返ると、主題歌のデモが4曲あって、結局メインは1曲しか使わなかったんですけど、「チャキチャキジョギング渡り鳥娘」とかね、使いたくなる。

 

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小田:もしあの4曲から選んでもらうときに「チャキチャキジョギング渡り鳥娘」が選ばれていたら、全く違う映画になってた。

 

鈴木:なってましたね。

 

川口:小田さんの中であれってもう、「三拍子」だろうという風に…?

 

小田:「三拍子」か今回サントラに持ってきた「ラララ」か、どちらかだろうとは思ってました。

 

鈴木:「悲しみ」と「チャキチャキ」しか使わない映画とかね。

 

川口:すごい昭和テイストな映画だ(笑)珍蔵、白いギターを背負って登場みたいな。彼が渡り鳥だったのかみたいな。

 

小田:曲に関して言うと、ブリッジパークにロケハンに行ったとき、卓爾さんから土手で言われた記憶があるんです。

 

鈴木:なんかかっこいいね。土手で。

 

川口:葉っぱくわえながら。「お前よう」って。

 

小田:昭和からちょっと離れましょう(笑)それから、撮影に入る前には曲があった状態だったので、その分、曲も撮影と並走させてもらったっていうことはでかいなと自分でも思いますね。

 

川口:撮影だけじゃなくいまに至るまで、あの曲は旗印であり続けてますよ。

 

鈴木:主題歌のある映画が好きで、いつも『私は猫ストーカー』も『ゲゲゲの女房』も主題歌をできれば作りたいと思っていて。映画が終わるまではその世界の、その町に住んでる、この映画には出てこなかったやつの声や歌、みたいなことでもいいんだけど。これは実際珍蔵さんが劇中で芝居しながら歌ってる、つまりダブル芝居(※音響注:映画のクレジットに「撮影芝居」「録音芝居」とあるように、そこから「観客芝居」など、いろいろとこの映画にコミットする行為を「○○芝居」と呼ぶようになっていった)じゃないですか、音楽芝居と俳優芝居と両方やってる。本物芝居をやってる。だから音楽やってるだけだと、音楽やったあと、スイッチは押すけどそのあともカメラは回り続けてて、「あぁ」とかやんないといけない。

 

小田川口:はい。

 

鈴木:あのカットを撮った、もうてっぺん超えした24時過ぎの時、何度か「もう一度、もう一度」ってやってて、自分もなんでNG出してるのか明確な理由はないし、そこまで撮っちゃってOKだったら途中から撮ればいいということでもなく撮ってたなあと思ってて。撮影監督の中瀬くんとか僕とか、助監督の佐野さんや石川さん側が強く芝居の止めるところをコントロールしていくと、カット割り決めないけどここまでよかったからじゃあもう一回ここから撮りたいから場所変えようっていうこともできたんだけど、そうやるとスタッフが強くなっちゃうんですよ。スタッフ側の意識が強くなっちゃうと、俳優側がどうかなあというのがあったし、じゃあ俳優も強くなればいいんだけど、「ただ観る」みたいな感じで撮りたかったし…いまからギター弾きますよって時、音楽やってる間、弾き終わった後の時間って、止められないセットの時間だっていうのがあって、あれは撮ったんだよね。いま使ってるOKテイクって一回失敗するんですけど、「すいません、間違えました」って言う時に、中瀬のカメラ、GH2(※音響注:Panasonicのカメラの機種名)のほうには舌打ちが入ってるんですよ。

 

小田川口:(笑)

 

鈴木:なんかダメかな感があったんだけど、そのあと歌い始めたときに中瀬のカメラがふっと上がってくるんですよ。小田さんが立つわけじゃないんだけど、ふうって動くんですよ。すごい微妙な動きですけど、それは素直で良いなあって思っていて。カメラも踊りたいんだなって。それから小説が音になってるようなものではなくて、音っていうのが存在してるんだってこと、世界にはこういう音があっていろんなものが音を立ててるっていうことを認識させられる音の作られ方、それをデザインして作ってるものっていうことを知ってしまうと、なにかひとつのために音楽を作ったり歌のために伴奏がついたりするっていうよりも、タイマン張ってるものがいい。それでやっぱりね、僕は抽象じゃないと思う、具体なんですよ。それと主題歌が合わさってるところが好きなんです。

 

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川口:劇中で芝居やってるし、劇伴じゃないんですよね。

 

小田:今回のサントラは川口さんが全体的にコントロールしてるんだけど、そのとき録れてしまった音というのを全部生かしながらやってくれてるんで、改めて音だけに集中して聴いたときに、なんて僕らは生きてる間にいろんな音を無視してるんだろうって思いましたね。

 

鈴木:撮影始めると急にヘリコプターの音や人の立てる生活の音が気になってきますよね。だから芝居をするって、こっち側から発するなにかじゃなくて、逆にインプットの部分が撮影現場だとグワッと上がってきちゃうよね。ダメな音が本番中入っちゃうとNGって意識があるからなんだけど、いまいい音したなあみたいなことを逆に考えることができてくる。あとはアクターズ1期が録ってる音だからめちゃくちゃなことをしていて、竿鳴りの音(※音響注:マイクブームを下手に持つと、その手のノイズがマイクに伝わってしまいます)がボコボコしていたりさ。

 

小田川口:(笑)

 

鈴木:だって、モコモコ星人のモコモコってなにかというと、マイクのアレだからね。

 

川口:ウィンドシールドのジャマーですね。別に邪魔するからジャマーじゃなくて、ジャミングのジャムです(笑)

 

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鈴木:いま、撮影って、日本も世界もカメラがどんどん小さくなってるから、「あ、撮影やってる」って街中歩いててわかるのって、マイクなんだよね。

 

川口:そうですね、ゲリラ撮影ではまずマイク隠せってなりますね。

 

鈴木:モコモコ星人っていうのは、まず、あれを持っててもおかしくないやつ。全身がジャマー。

 

小田:逆に目立つ(笑)

 

鈴木:っていうのが元の発想だったの。僕らは、そういう映り込むはずのないものが映り込む、当たり前じゃないですかそこにいるんだからっていうことを、「あり」っていう映画を作りたかったんで。そうするとさ、当たったりかすったり、消すべき音を…

 

小田:普通であれば消す。

 

鈴木:普通の映画であれば消すし、もちろんUFOのピアノ線も消すし、だけどそれを全部肯定するとどういう意識の変化がみんなに起きるのかな、芝居が変わってくるのかなっていう。それが失敗しないようにする、セーブしていく中で研ぎ澄ましていく感性ではなくて、それだけ解放させてしまったときに、その自由ってみんなの手に余るんじゃないかなって。逆に、「どこまででも走っていいよ」って言ってるようなもんじゃないですか。でも人って意外にそんなに走ったり無茶やったりしないわけで、そういうことをするうえでの俳優のあり方が変わってくるんじゃないかなって。でもみんなはそんなに多く映画撮影の経験があるわけでもないから、「これは異常だ」ってあんまり思ってないと思うんだよね。それにもちろん、実習っていう側面もずっとあるわけだから。でも俺は本気なのね。こういう場でないとこういう映画は作れない。それこそ商業で「これやれよ」ってなるかな。