勝手に春樹のサウンドトラック
村上春樹の新刊が発売された。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」。
こういったタイトルは個人的に好きで、
僕が以前「地平線を巡る、休日の日々」というちょっと長いタイトルのwebサイトを立ち上げようと思ったりしたこともありましたが、それはどうでもいいことで。
村上春樹の作品には音楽がしょっちゅう出てきます。
ベートヴェン『大公トリオ』、ロッシーニ『泥棒かささぎ』、ビートルズの『ノルウェイの森』、ビーチ・ボーイズ『サマー・デイズ』、ボブ・ディラン『風に吹かれて』、スライ&ザ・ファミリー・ストーン『スタンド!』…。
クラシック、ジャズ、ロック、ファンクなど、幅広く登場するその楽曲たちは、作品の魅力と世界観に一層深みを持たせ、春樹ワールドを作り上げる重要な要素となっています。
村上春樹を音楽の視点から捉える本も何冊か出ていて、そのぐらい村上春樹と音楽の関係性は深いものです。
僕も音楽の視点から捉えたいと思うのですが、僕の場合は村上春樹作品に勝手に音楽を当て込んでしまうという『勝手に春樹のサウンドトラック』という形で。。。本当にすみません。。。
春樹作品のなかに出てくる音楽でサウンドトラックを作るのも良いと思いますが、出てこない楽曲で村上春樹の世界を表現出来ればと思います。選曲はなかなか合ってるはず。いや、「そこそこ」合ってるはず。あ、タイトルは『そこそこ春樹のサウンドトラック』にしよう。
10曲選んでみました。
Design:Tadashi Ueda
1. Henry Purcell – Funeral March (Queen Mary funeral music)
映画「時計仕掛けのオレンジ」のOPの原曲にもなったこの曲。なぜかこの曲、村上春樹作品と合う気がするんです。具体的には、というか、この曲は村上春樹作品に合う場面が非常に多い曲かな、と。
「暗く」、「奇妙」で「壮大」な雰囲気が漂う一曲です。
2. Aphex Twin – 4
Aphex Twinの代表的な曲でもありますが、Aphex Twinらしい打ち込み、ビートは浮遊感と透明感を合わせ持ち、孤独な世界が多い春樹作品が描く一瞬の描写に当てはまるような気がします。
3. The La’s – There She Goes
伝説のUKバンド、ラーズの名曲も春樹作品にぴったりの予感。この曲は一転してさわやか系。でもどこか物哀しさや危うさもある。なぜならポップなメロディの裏を返すと、歌詞の方は薬物について歌っているから。美しさの中にトゲがある。
4. ゆらゆら帝国 – ソフトに死んでいる
サイケ / ノイズのゆらゆら帝国の名曲。
案外こういう曲が春樹作品に合うと思うんですが、どうでしょうか。
宇宙的でもあります。斜め上から音圧が降りかかる。「やめよう」「ねむろう」という歌詞が印象的。
5.James Blake – CMYK
James Blakeを一気に有名にした、ダブステップとR&Bが融合した曲。
次の瞬間、静かなはじまりの中で急変する日常の場面はこの曲で。
6. Spacemen 3 – Walkin’ With Jesus
「Here it comes」「The sound of love」という言葉が繰り返され、その音は宇宙を漂うサイケデリア。村上春樹作品から、僕はなぜか壮大な風景や宇宙を感じます。スプートニクという言葉にぴったり。
7. The Flaming Lips – Race For The Prize
壮大なサウンドは歌詞の内容と一緒。家庭を持つ二人の科学者が、未来を目指し、発明を競いあう。無謀な挑戦かもしれないけど、目標を達成することだけを考えた。
何かひとつの事にこだわり貫く姿勢は、村上春樹作品に出てくる、癖のあるキャラクターに似ている気がします。
8. Elliott Smith – Roman Candle
エリオット・スミスと村上春樹は似ている。というかそっくりな気がします。
悲しみのロックを鳴らすエリオット・スミス。アルバムが5枚ぐらいあるので是非聴いてみてください。
roman candleは彼のソロ1st。roman candleとはパラシュートが開かないまま墜落すること。
9. Antony and The Johnsons – Thank You For Your Love
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのこの曲はありがとうを繰り返す。
性同一性障害を持つアントニー・ヘガティ (Antony Hegarty) によるバンド「アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ」。純粋な狂気というか、その世界は洗練され、無駄がない。
村上春樹作品にも無駄がないように思えるけど、逆にそれは無駄ばかりのような気もします。
10. たま – さよなら人類
最近再発もされた「たま」からは超名曲を。ドラムの人ばかりに注目してしまいがちですが、楽曲の構成が本当に素晴らしい「たま」の曲たち。フォークで鳴らしたその音は、
遥か彼方を捉え、それは村上作品に出てくる、独創的な人物たちの考えに似ている部分がある気がします。
以上10曲が『そこそこ春樹のサウンドトラック』です。
ジャズやクラシックは村上春樹作品と相性バッチリですが、僕はアンビエントや現代音楽、ノイズがもっと相性が良いのではないかなぁ、と思っています。なかなか出てこないですよね、アンビエントや実験音楽は。
最後に。村上春樹にリスペクトを込めて、作品に出てきそうな一文で終わりにします。それではまた次回。
「彼はそのとき、こんな言葉を、誰にも聞き取れない小さな言葉で呟いた。
頭の中でソフトに死んでいるが流れているよ。ここまで混乱するのは、どうにも気分が悪いな。」
●Profile
石崎孝多
1983年生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。amazonにない本を紹介するnomazonなどに関わりながら、企画、執筆、選書、店舗のディレクションなど多岐に渡る活動を行っている。