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グルメ石原のグルメ漫遊記 黎明編 第6回「蟹」――修羅の漢・石原正晴(SuiseiNoboAz)による哀愁グルメ連載!

グルメ石原のグルメ漫遊記 黎明編 第6回

「蟹」

石原正晴

 

蟹がわからない。海にいるあの蟹。他にないけど。そりゃあ確かに美味いとは思う。脚を焼いたのを酢につけて食うととても美味い。パーティー感も認めざるを得ない。しかし、蟹がその他のご馳走(焼肉、すき焼き、寿司、ハンバーグ等々)と並び称されているのを耳にするにつけ、「そうかなあ」という思いを禁じ得ない。自分には、蟹が日本人の食卓においてそこまでの地位を欲しいままにしている事が、どうしても解せない。

 

もちろん蟹は美味い。しかし、たまに食うには良いがわざわざ機会を作って食おうとは思わない。ひとつには、身をほじくり返して食べるあの面倒さがある。山のように殻を積み上げて食べる様もなんだかエレガントさに欠けるような気がする。殻をほじくり返しているうちになんだか口の周りが痒くなってきてすごくウザい。蟹だけで腹いっぱいにはなかなかならない、等々欠点をあげつらえばキリがない。蟹を食うくらいなら海老を食う。いや、いっそ蟹かまを食う(最近の蟹かまは非常に美味しい)。と、自分はアンチ蟹派の急先鋒として常日頃からきりきりになっていた。「いやそんなことないよ、蟹はいいもんだよ」と周囲の人間は口々に言ったが自分は聞く耳を持たなかった。なかには「そりゃあ良い蟹を食ってないからだよ」と失敬な事をほざく輩もいたが、そういう手合いは有無を言わさず暴力で捩じ伏せた。相手が泣いて詫びても容赦しなかった。深夜のトラ箱で、自分はひとり蟹を呪った。夜の校舎窓ガラス壊して回った。それでも蟹の真実は自分と共にあるとして疑わなかった。

 

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そうこうしているうちに、自分は孤独になった。ある日、失意の淵にあった自分は自暴自棄になって寝ぐらで浴びるようにケーサーをみーのーしいしいティービィーをみーるーするともなくつけっぱなしでぼんやりと天井の木目を数えていると、いつのまにか『ドラゴンボール』の再放送が始まっていることに気がついた。なんともなしに見てみると、それはナメック星のワンシーンで、これまで散々舐め腐った態度をとり続けていたベジータが、ついに怒った宇宙の帝王、暴力の化身たるフリーザ様に、めっちゃめちゃにシメられているシーンだった。

 

不老不死への野望を邪魔されたフリーザ様、完全におかんむりで、出で立ちも本気の最終形態。恐れ入谷の鬼子母神。こうなると止められないフリーザ様、空中で、海中で、不遜な態度をとりまくってきたベジータを殴る、蹴る、尻尾で巻きつけるの暴行。ベジータはベジータで完全に戦意喪失しちゃって涙目。首根っこフリーザ様の尻尾で吊り上げられて腎臓のあたりを殴る、殴る、殴るされるも「ウッ、うーん」みたいな情けないほたえを連発。ナメック星のグリーンがかった空にぽーんと投げ上げられ両手で握手するみたいなやつで(指が痛そう!)海中に叩き落とされる始末。週刊連載との時間調整の都合かこのあたりの暴力描写は延々と続き、もし仮にザーボンさん、ないしドドリアさんが生きていたならば「フリーザさん、これ以上はダメです!」「もう終わってます、終わってますから!」と止めに入りもしたものの、皮肉な事にザーボンもドドリアも他ならぬベジータに既にぶっ殺されているのだった。

 

そういった事情も相俟って海中に叩き落とされたベジータ。とどめを刺すべくゆっくりと降下するフリーザ様。このままじゃ水ん中のベジータの場所わかんないのでなんか念力?超能力?はたまたフリーザ様があんまり規格外に強いもんだからなんかそういう超自然の力が働いたのか?このへんはよくわからないがとにかくフリーザ様が降下するにつれ海水がゴォーみたいな感じで押しのけられて海底に無様に横たわるベジータめの姿があらわになった。

 

その時、ベジータの肩のあたりに動く物体があった。画面はフリーザ様の降下に合わせてズームする。それはなんと蟹!地球を遥か離れた天体、生態系も気候も地球とはまるで懸け離れたナメック星に、地球の蟹そっくりの蟹(たぶんワタリガニの一種と思われる)!そしてベジータめの首を自慢の尻尾でぐるぐる巻きにして吊り上げるフリーザ様!肩に蠢いている問題の蟹に手を延ばし、おもむろに口に運び、さも美味そうに「あむ、ン…(CV:中尾隆聖)」と咀嚼あそばされたのだ!

 

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「あむ…ン…」

 

自分はなおも続くベジータめへの暴行に気もそぞろで、ただただ蟹のことで頭が一杯だった。というのも、フリーザ様(CV:中尾隆聖)があっんまりにも美味そうに蟹を食ったからで、これまで蟹にNOを掲げてきた自分だが、どうしても蟹を食いたくなった。それもフリーザ様(CV:中尾隆聖)と同じように殻ごと…

 

そうなるともうベジータめがどうなろうと知ったこっちゃないと自分は夜の街へ駆け出していった。永き放浪の果てに一軒のタイ料理屋で念願の蟹料理にありついた。脱皮したての蟹をなんかカレー粉と卵みたいのでギャギャッと炒めたようなもので殻ごと食えて自分は満足した。ああー美味い、蟹って美味いなあ。いままで僕、蟹を誤解していた、と蟹に向けてひとりごちたが、蟹、既にぶっ殺されてて応答なし。

 

追記:そんなフリーザ様の活躍が見られる『劇場版ドラゴンボール 復活のF』は全国の映画館で大好評上映中です。

 

※第5回「伊勢うどん」はこちら

 

 

 

●Profile

石原正晴

1983年3月3日に三重県四日市市に生まれ、13歳から神奈川県横浜市で青春時代を過ごす。ロックバンド・SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)のギタリスト兼ボーカリスト。現在は東京都新宿区近辺で生活している。