gezan
icon 2013.4.19

4/10「HERE AND THERE」来場者ライブレポ◆ロックの住人編〜剛田武(仮名、レコードレーベル勤務)の場合〜

1990年代のオルタナロックシーンでは異種ジャンルのミクスチャーがトレンドだった。ファンクやラップなどブラックミュージックの要素を取り入れたロックバンドが優勢を誇った。レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、フィッシュボーン、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーン、ビースティ・ボーイズ、エイジアン・ダブ・ファウンデーションなどチャートを賑わすバンドも多かった。その影響はJ-ROCKにもおよびドラゴン・アッシュ、マッド・カプセル・マーケッツ、RIZE、スケボーキング、ORANGE RANGEなどのミクスチャーロックが人気を博した。21世紀の最初の10年が過ぎた現在はミクスチャーという名称は死語と化しジャンルの融合はJ-ROCKの当たり前の方法論になった。

 

それにも関わらずジャンルとしてのロックとヒップホップは別カルチャーとして隔てられているのが現状である。いくらラップを取り入れてもロックはROCKでありダンスカルチャー/B系ファッションと密接にリンクするHIPHOPとは別世界とされる。記憶にある限りでは昨年3月後楽園ホールで開催された企画イベントBOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012に坂本龍一・大友良英・やくしまるえつこなどに加えいとうせいこう&Shing02が出演したこと、先日の日比谷野音でのカオスフェス2013にgroup_inouが出演したことくらいでロックとヒップホップのガチンコ対決は多くない。そう考えると今回のイベントHERE AND THEREはジャンルの垣根を壊す最初の一歩と言えるだろう。

 

感覚の鋭いロックファンにとっては元ナンバーガールの向井秀徳率いるベテランZAZEN BOYSと新世代ロックの注目株、下山(GEZAN)の対バンというだけで”買い”の組み合わせ。ZAZEN BOYSは向井のユニットKIMONOSやベースの吉田一郎のセッションは観たがバンドとしては2009年新宿ロフトのDIRVE TO 2010以来3年半ぶり。2007年浅井健一やクロマニヨンズ出演のロッケンロール・イベントで初めて観た時予想外のアヴァンギャルドな演奏にレッド・クレイオラやペル・ウブを思い出したが、そんな変態ロックでありながらメジャーシーンで高い人気を誇ることは私にとってのJ-ROCK界七不思議のひとつである。入場の列に並んでいるとき演奏が漏れ聴こえてきて後ろのカップルが「始まっちゃったよ~早く列進まないかなぁ」とぼやいていたが満員の観客にはZAZEN目当が多かった模様。以前観た印象を裏付ける変拍子とストレンジサウンド満載のショックロックを展開。クラブ仕様PAから放射される爆音シャワーが心地よい。チョッパーベースの低音がHADOUKENのように空気を震動させる。捩じれたビートに悶えるようにオーディエンスの身体が揺れる。変態ビートながらポップで判りやすいメロディーが人気の秘密か。あぶらだこを観たくなった。

 

zazen

 

KILLER-BONGが主宰するBlack Smoker Recordsはコアなヒップホップだけではなく「エクスペリメンタル・ミュージック・シリーズ」としてヘア・スタイリスティックスやダモ鈴木、大谷能生、EP-4 unit3など先鋭的な作品をリリースしている。ヘアスタのアルバムをCDショップで探したところロックやアヴァンギャルド・コーナーではなくクラブミュージック・コーナーに置いてあって意外だったがBlack Smoker RecordsとKILLER-BONGは地下世界でのクラブとロックの融合をロック側に先んじて始めている訳だ。ヒップホップサイドの先見性と貪欲さの証明である。KILLER-BONGのライヴはヘアスタとの共演で観たがその時はフリースタイルのラップを繰り返すだけだった。初めてのソロステージはまさに電撃ショックだった。ステージ後方から放たれる無数のレーザー光線でKILLER-BONGの顔はおろか姿すら見えない。BORISやSUNN O)))がスーパーウーハーを並べて繰り広げるドゥームサウンドを凌駕するウルトラヘヴィな重低音をたったひとりでクリエイトする。歌詞は全く聴き取れないしベースサウンドの圧力で曲調も釈然としない。ヒップホップというより裸のラリーズやメルツバウに匹敵するノイズサウンドの嵐の中取り憑かれたように左右に蠢く聴衆はまるで地獄の業火に焼かれる亡者の群れのよう。ヒップホップを突き詰めた先に地下音楽の狂気の深淵が広がっているとは経験するまで想像もしなかった。

 

killer

 

KILLER-BONGが暗黒に染めた空気の中BGMは前衛ロックの雄フレッド・フリスのジャンル解体サウンド。異種格闘技が分類無用の解放地帯に姿を変える。下山(GEZAN)を知ってから2年余りになるが毎回凄みと切れ味を増すパフォーマンスには驚きを隠せない。最初はベースのカルロスの全裸に象徴されるスキャンダラスで過激にキレまくる演奏を関西テン世代の究極型だと思ったが、昨年初夏に東京へ拠点を移して以降様々な画期的もしくはバカげた企画や多様なバンドとの対バンを展開する彼らの「What’sやさしさ?」というキャッチフレーズの真意に気づきますます目が離せない存在になった。既にテンションのアガった会場は下山にとっては理想的な環境とも言えるがそれに甘えることなく情け容赦ないサウンドテロリズムを繰り広げる4人。忘我の熱狂ではなくストイックに醒めた狂気に貫かれた演奏は時に観客を置き去りにする程のスピードで暴走する。対峙する聴き手も覚悟を要する果たし合いの最中にスケールの大きなバラードで会場を包み込む慈愛。ロックの形をしているがジャンル云々を超えた表現者としての存在に未来を託してみたい。

 

5lackのバイオグラフィーは判らないがオールドスクール的なフリースタイル・ラップには同じヒップホップでもKILLER-BONGとは全く異なる世界観があることを実感する。最初の曲で「昔一緒にやっていたDJやMCは今はいなくなった」と歌っていたのでヒップホップシーンの変遷の荒波を生き抜くことの辛さや苦労に思いを馳せるが、ノスタルジーに浸ることなく次々吐き出される言葉に身を任せていると何も怖いものはないという勇気が沸いてくる。ライムの踏み方やリズムの乗せ方が進化したが基本的に80年代にラップ/ヒップホップが日本上陸した頃と手法的には変わっていない。にもかかわらず古さを感じさせないのは言葉を発することが人間の根源的表現だからだろう。無理に新奇なものを産み出すよりも技を磨いて伝統を継承することの重要性を宣言するステージだった。ビル・ヘイリー、チャック・ベリー、ビートルズ、ローリング・ストーンズ以来のロッケンロールが継承されるのと同質である。

 

5lack

All Photo by Yukitaka Amemiya

 

長丁場のイベントだったがジャンル超越への挑戦というよりもジャンル以前に同じ音楽であり音楽とは音を楽しむことであるという真理を浮き彫りにした再発見の場だったといえる。このような機会が増えることで音楽の楽しみ方が限りなく広がっていくことだろう。HERE AND THEREの今後に注目していきたい。