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icon 2013.6.24

5/24、25 壊れかけのテープレコーダーズ 結成6周年 2DAYS企画 at 東高円寺「Document & Monument」ライヴ・レポート

この2日間の壊れかけのテープレコーダーズのステージは、いまだかつてないほどの高みに達していた。特に2日目の本編ラストに演奏した「天気の話」は、まるで彼らに往年のロックスターが取り憑いているかのような迫力があった。彼らが放った轟音は、まるでこの世のすべてを更地にして、新しい世界を作りあげていこうとするかのような圧倒的なエネルギーを内包していた。komoriがインタビューで語っていた、個々の境界線が避けるような爆発、真っ白になる瞬間、音楽と同化しているような瞬間。それらとも、また別の次元に到達しているような気がしてならなかった。ステージと目の前にいる観客との関係性、そしてライヴ・ハウスという存在すらも飛び越えて、大きく広がっていくような可能性を感じた。演奏後に、ステージを去る前にkomoriが放った言葉、「We are 壊れかけのテープレコーダーズ、ロック・バンドです。ありがとう」。そう話すkomoriの表情は、とても大きな自信と誇りに満ちていた。

 

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5月24日、壊れかけのテープレコーダーズ自主企画の第一夜が、東高円寺・二万電圧で行われた。会場に入ると、オープニング・アクトのサカシマが演奏している。美しく繊細な歌声と、それを包み込むような暖かい轟音で、2日間のイベントはスタートした。

 

2番手のMaher Shalal Hash Bazのステージには、バイオリンやアコーディオンなど、様々な楽器が所狭しと並ぶ。総勢9人、年齢も性別もバラバラのメンバーが、バンマスの工藤冬里を囲んだ。これだけでもなんとも不思議な光景であるが、音が鳴った瞬間さらなる異世界へと飛ばされた。ときにリズムやメロディという概念そのものが無意味に感じてしまうような、自由な歌。その歌に寄り添うように、各々の楽器が奏でられる。一歩間違えばすべてが崩壊してしまうのではないかと思われる絶妙なバランスのもとに、彼らの音楽は成立していた。その中心にある工藤の歌は、まるで時代や空間を超越して存在しているかのよう。目の前で歌っているのに、どこか違う世界の光景を観ているかのようだった。不思議な懐かしさと暖かさが、心のなかに刻まれた。とんでもないものを目撃してしまった。

 

壊れかけのテープレコーダーズのステージがはじまる。最新音源である「羽があれば」から、ライヴはスタートした。自主企画ということで、新旧織り交ぜたセットリスト。途中、「来てくれてありがとう。壊れかけのテープレコーダーズというロックバンドです」とkomoriが挨拶する。自主企画にも関わらずしっかりと自己紹介をするこの真摯な姿勢。共演者や来場者への敬意を感じた。圧巻だったのは、ライヴが後半に差し掛かる頃に演奏された「次の夢へ」。この曲は2ndアルバム『箱舟』に収録されているが、結成当初に作られた曲であると紹介された。未来を切り開いていくかのような、確かな希望があった。

「音は出した瞬間に消えてしまうけれど、ここでなにか確かなものをつかみ取ろうと思っています」と、komoriがこの自主企画への意気込みを語る。「ドキュメントとモニュメント。モニュメントは記念碑です。それを打ち立てようと、6年前に作った曲です」という紹介で演奏されたのは、「記念日」。終盤に向けて徐々に曲のテンションが増幅し、それが頂点に達する。その先に聴こえたものは、ライヴのラストを飾るにふさわしい10分に及ぶ大作「broken world」のイントロだった。轟音が途切れた瞬間に聴こえてきたyusaの美しい鍵盤の音色は、やっと見つけたかすかな希望のように鳴り響いていた。完璧かつ感動的なラストだった。

 

アンコールの代わりに、壊れかけのテープレコーダーズとMaher Shalal Hash Bazのセッションが行われた。ステージ上はもちろんのこと、客席の最前列に子供が陣取っていたりと、観客もさまざまな年代が入り乱れている。そのなかで、心のままに叫びギターを弾く工藤の姿と、それを嬉しそうに見つめながら演奏するkomoriの姿が印象的だった。こうして第一夜は幕を閉じた。

 

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第二夜は、前日の二万電圧から5分ほど歩いた場所にあるU.F.O CLUBで行われた。この日のオープニング・アクトはアンダーボーイズ。無機質な打ち込みの音と、それに相反するかのようなギター・ヴォーカル関口萌の暖かなポップ・センスが混ざり合い、心地良い空間を作り出した。途中、壊れかけのテープレコーダーズの「貝殻は知ってる」をワン・フレーズ歌う演出もあり、彼らの6周年に華を添えた。

 

続いて登場したのは、原マスミ。アコースティック・ギター弾き語りで、静かに歌いはじめる。深く、優しく、息を吐くように、ときに語りかけるように自然に歌っている。歌声が聴くものの心に自然と浸透していく。前日の工藤冬里のような奔放さとはまた少し違う、多くの現実に直面した上でも無垢でいられるような力強さを感じた。昔話や童謡からそのまま出てきたかのような世界観。途中のMCで、最近はオワリカラとも共演するなど、若い世代のバンドと一緒に演奏することが多いと話す。しかしその一方で、「遠藤賢司さんとか、上の世代の人も元気だから、自分がそんなに年がいってる気がしない」と語っていたのが印象的だった。

 

最後のアクトは、壊れかけのテープレコーダーズ。「箱舟は来なかった」からライヴがはじまった。ロックが持つ希望、儚さ、力強さがすべて詰まっているかのような名曲。この日は、前日からセットリストがすべて一新されている。中盤には、未音源化の新曲「聖者の行進」を演奏。畳み掛けるように放たれるkomoriの言葉と、shinoと440のリズム隊が繰り出す強烈なリズムが怒濤のように押し寄せてくる。

ここでkomoriのMC。「今回は新進気鋭のバンドと、30年以上活躍されている方が出て、そういうものが2日間で融合される日になればいいなと思って。これからも、もっと若いバンドともやりたいし、上の人とも共演したいし、音楽のなかに飛び込んでいければと思っています」と話す。そして、440の渾身のカウントを合図にはじまった「踊り場から、ずっと」は、全身全霊を込めた鬼気迫る演奏だった。その後、冒頭で述べた「天気の話」へと続き、彼らのライヴは終了した。

 

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この日もアンコールはコラボレーション。壊れかけのテープレコーダーズと原マスミで、「人間の秘密」と「教室」を演奏する。komoriと原が交互に歌う。壊れかけの演奏に心地良さそうに体を揺らし歌う原は、まるで魂にまでロックが宿っているかのようだった。前日同様、時代を超え、音楽のもとに空間がひとつになっていた。komoriはきっと、この光景を見せたかったのだろう。鳴り止まないアンコールに応え、最後にもう一度、壊れかけのテープレコーダーズが登場。「生まれる」を演奏し、2日間のイベントは幕を下ろした。

 

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終演後、440が「(共演した上の世代の人たちを見ていたら)自分たちも50歳超えてもやんなきゃいけないって思っちゃったじゃん」と嬉しそうに語っていた。時代が結びつくこととは、意志が受け継がれていくこと。音楽の奥にある思いが融合し、世代を超えて結びつくことで、新たな意志が生まれ、音楽が生まれる。その瞬間を目撃したような2日間であった。こんな瞬間がある限り、きっと音楽は鳴り続けるだろうし、生き続け、生まれ続ける。ロックは、音楽は、これからも未来へ向かって鳴り続けると確信させてくれるイベントだった。壊れかけのテープレコーダーズには、その意志を紡ぎ続けてほしいと切に願う。そして願わくば、その意志がさらに大きな渦へと変わり、その音楽とともに広い世界へと届いてほしい。彼らは、それだけの可能性を持った音楽を奏でている。(前田将博)