故郷の詩_15日先行上映ゲストのくまモンと
icon 2014.10.24

今村左悶(映画音楽家)コラム「青春の亡霊」――峯田和伸(銀杏BOYZ)やくまモンも応援、嶺豪一監督・主演映画『故郷の詩』公開に寄せて

青春の亡霊

今村左悶

 

先日、部屋の掃除をしていたら大学の頃のサークルの写真が何枚か出てきた。そこに写る先輩や同級生たちの顔の子供っぽさに少し驚いた。よく考えれば、恐ろしかった先輩方も、自分より何事も優れていて密かに憧れていた同級生たちも、その中で田舎者特有の卑屈さの固まりみたいな顔をした自分も、全員が当時20歳そこそこの若者たちであった。

あの時はそこが世界の全てだった。

 

嶺豪一監督の初長編映画『故郷の詩』が10月18日(土)から東京のポレポレ東中野で公開された。

私は劇中の音楽を提供する形で制作に参加した。

2011年のぴあフィルムフェスティバル PFFアワードでの森岡龍監督『ニュータウンの青春』の上映前の会場で、嶺監督の卒業制作を作るという話を聞いて、音楽作らせてよと軽い気持ちで言ったのがこの作品との出会いだった。

 

故郷の詩_初日舞台挨拶 (4)

初日舞台挨拶で話す嶺豪一監督。トップ写真は先行上映会でゲストのくまモンとパチリ

 

本作は埼玉県志木市にある熊本県人寮「有斐学舎(ゆうひがくしゃ)」に暮らす若者たちの日常を舞台にしたお話。

主人公の大吉(嶺豪一)と天志(飯田芳)はアクションスターと映画監督を目指し上京してきたにも関わらず、怠惰に毎日を空費し気がつけば卒業目前を迎えていた。

ただただ体力だけがあり、金はなく、面白いことをしたいけど誰も正解を教えてはくれない。

寮の仲間と酒を呑み、麻雀をし、過ぎていく時間をぼんやりと眺めている。

もがけばもがくほど深みに嵌り全部が台無しになっていく。

そんな身に覚えのある出来事で映画は進んでいく。

 

故郷の詩_劇中のスチール2

劇中のワンシーン

 

私は春に31歳になった。相変わらずふらふらしている自分と違い、同期の友達にはそれぞれの生活があり、昔のように遊ぶことは難しくなった。

いや、こちらから連絡を取れば会うことは出来るのだろうけど、何の結果も出さずに20代を空費し、のらりくらりと生きてきた今の自分では格好がつかないから会いたくないというのが、本当のところだ。

そのせいかは分からないが、自主映画の現場や映画祭で知り合った自分よりもいくつも歳の離れた若い人たちと遊ぶようになった。

彼らが馬鹿をやっている姿を楽しく眺め、時には説教なんかを垂れながら、まるで留年した先輩のような顔をしてその輪に加わっている。

青春の亡霊だ。

最初に書いた集合写真の中に、大学はとうに卒業したのにイベントごとに遊びにくるだいぶ歳の離れた先輩がいた。

正直、私はその先輩が苦手だった。20歳にもなっていない世間知らずの子供にとって(その先輩にしても今の私よりは遥かに若いだろうが)大人というだけで恐ろしかった。

気がついたら、自分がその立場になっていた。ゾッとすると同時にその時の先輩の気持ちを少し考えた。

 

自分の話が長くなった。

この作品に話を戻す。

劇場公開に先立って行われた監督の母校である多摩美術大学上野毛キャンパスでの「くまモン」を迎えての『故郷の詩』先行上映会でのこと。

上映後に行われたこのイベントのために時間を割いてくださった大久保賢一先生と監督のトークショー。

私は、現役の学生さんたちの質問に答える嶺監督を見つめる大久保先生の横顔を見ながら、この映画のとある場面を思い出した。

大吉と天志は物語が進むにつれて、色んなものを失いながら自分たちの青春に蹴りを付けるために彼らなりの大勝負に出る。

その直前、この映画は思わぬ形で私のような青春を終わらせそびれた人間を救い上げてくれる。

代替わりしていく寮の若者たちを、自身はそこに有り続け見守り続けるある登場人物の言葉が、とても心に刺さる。

青春時代の格好付かなさ、情けなさを優しく包んでくれる。

 

故郷の詩_18日初日峯田和伸さんとのトーク

峯田和伸(銀杏BOYZ、写真右)を迎えての公開初日トークショー

 

銀杏BOYZの峯田和伸さんが『故郷の詩』の宣伝のために送ってくださった「永遠に語り継がれるべき、最高の青春映画」という言葉の通りこの映画は青春のもう戻らない時間を71分の物語に閉じ込めた作品だ。

それはあの格好の付かない情けない時間に捕らわれている私のような青春の亡霊にこそ届くものだと信じている。

オープニングからSPANGLEのエンディング曲が鳴り終わる最後の瞬間まで濃密な時間を楽しんで欲しい。

 

 

 

 

●Information

嶺豪一監督作品『故郷の詩』

2014年11月7日(金)まで、ポレポレ東中野にて上映中

 

◆上映場所

ポレポレ東中野(住所:東京都 中野区 東中野4-4-1/ポレポレ坐ビル地下)

http://www.mmjp.or.jp/pole2/

 

◆公式Facebookページ

https://www.facebook.com/kokyonouta

 

◆公式Twitter

https://mobile.twitter.com/kokyo_no_uta

 

◆上映イベント

10月18日(土)峯田和伸(銀杏BOYZ)× 嶺豪一監督
10月19日(日)森岡龍(映画監督・俳優)× 嶺豪一監督
10月22日(水)深川栄洋(映画監督)× 嶺豪一監督
10月23日(木)新井浩文(俳優)× 嶺豪一監督
10月24日(金)三宅唱(映画監督)× 松井宏(映画批評、翻訳)× 嶺豪一監督
10月25日(土)瀬々敬久(映画監督)× 嶺豪一監督
10月26日(日)前野朋哉(映画監督・俳優)× 嶺豪一監督

 

他、決まり次第、ポレポレ東中野HPで発表

 

 

 

●Story

故郷の熊本に可愛い彼女を残して上京した大吉は、熊本出身の学生のための男子寮「有斐学舎」で映画を撮りながら、心と体を鍛え、スタントマンへの道を歩み始める!はずだった…。だが、東京での学生生活は、酒やナンパに明け暮れ、同じ寮生で映画監督志望の天志にも見放され、気がつけば卒業目前。何ひとつ上手くいかない日々から大きな一歩を踏み出すために、ある日、大吉は一世一代のスタントに打って出る――。まだ何者でもない若者たちの、ほろ苦くて切ない、だけど爆笑してしまう、愛しき日々!

 

 

 

●Production Note

『故郷の詩』

監督/脚本/主演:嶺豪一

出演:飯田芳、林陽里、岡部桃佳、後藤ひかり、山本圭介、佐藤悠玄、中村裕太郎、広木健太、森岡龍、伊能賢一郎、斎藤芳廣、菱田明裕、酒川雄樹、前田祐樹

撮影:楠雄貴/録音:根本飛鳥、磯龍介、佐藤考太郎/照明:北原督乙/制作:甫木元空、廣田智大、西世哲平/美術:須藤彰/編集:小野寺拓也/CG:田村元幸/音楽:今村左悶/大道具:中村猛、上村昂平/車両:坂口天志/楽曲:SPANGLE/協力:映画蛮族/宣伝協力:ポレポレ東中野

(2012/16:9/カラー/HD/71分 (C)「故郷の詩」上映委員会)