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グルメ石原のグルメ漫遊記 黎明編 第4回「終末 財津一郎」――修羅の漢・石原正晴(SuiseiNoboAz)による哀愁グルメ連載!

グルメ石原のグルメ漫遊記 黎明編 第4回

「終末 財津一郎」

石原正晴

 

年の瀬は街全体になんだかヤバい感じのショーソー感が満ちていて自分はとても苦手で、去年は特にそのヤバい感じが例年に増してヤバく、新宿あたりで直にその良くないバイブスを受けちゃって自分はわりとけっこうヤバい状態になっていた。みんなでなんとなく騒いだりしてダチ公呼んでイーワイーワといったオプティミスティックな空気感で巧妙にオブラートしているのは実はわりとシリアスな破滅志向であったり終末願望であったりするような気がして、全員で手を繋いで終わりの瞬間に向けて息を弾ませているようなその師走のムードがわりとけっこうマジでヤバいような?キツいような?とにかく例年通りなるべく家から出ないようにして春が来るのを待ちながら刃物を研ぐようにしてギターを撫で回したり一万円札を透かして見たりしてただじっとしていた。

 

しかしずっと家にばかりいるわけにもいかなくて、それは新宿のコマ劇のところのミラノ座が年内一杯で閉まるという情報が入ったからで、そのスケジュールをチェキってみると薬師丸ひろ子の『探偵物語』がかかるという。これは観たい。是非とも観たい。若い頃の薬師丸ひろ子に元気をもらいたい。若い頃の財津一郎も見たい。それはタケモトピアノのCMで見れるじゃん。うん、そうだね。ということで観に行くことにした。

 

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部屋のドアを開けて外に出るととっても冷たい風がわたくしの心をへし折りにかかってきて、実際にへし折れた。何故我が日本国の冬はこれほどまでに厳しいのでしょうか。はっきり言って人間が元気に活動できる範疇を超えてしまっているように思います。日本列島はおそらくもう人が住めるような場所ではなくなってしまっているのではないでしょうか。なんかよくわからない地軸の傾きとか、大気中の二酸化炭素のなんか微妙なバランスとかそういうので自分が子供の頃より平均して10度くらい気温が下がっているような気がします。その証拠に平安時代とかの人は断熱材もエアコンも無い障子とふすまだけの家でも元気に和歌を詠んだり夜這いしたりして「あはれ」とか「おかし」とか言ってイーワイーワやってたわけじゃないすか。それって絶対今ほど寒くなかったからで、確かに十二単とか着てるわけですけど、化繊とか入ってないわけだし、気温自体が全然余裕な感じだったんじゃないすか。確かにそれでも「昔は昔、今は今」っていうあなたの言い分もわかりますよ。でもそこでなんか変なストイシズム振りかざすのおかしいと思うんすよね。だってみんな寒いの嫌なわけじゃないですか。そういうのはおかしい、と思ったら誰かがちゃんと声をあげていかないといけないと思うんすよね。そうすることによって、ああ、寒い、働きたくない、と思ったときに、ぼくたち、わたしたち、働きません、ってみんなが胸を張っていえるような社会になるっていうか、みんなでそういうふうに変わっていけたら、って思うんですよね。

 

そういった思いをどうにか振り払い、電車に乗って新宿に向かった。新宿はパーティーを「パーリー」と発音するようなガーリーな連中がとぐろを巻いておりまたしても心がへし折れかけたが、スクリーンの中の財津一郎は自分に優しく微笑みかけながら、そっとエンコをつめてくれた。

 

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※第3回「ゴーヤしかない沖縄料理屋」はこちら

※第5回「伊勢うどん」はこちら

 

 

 

●Profile

石原正晴

1983年3月3日に三重県四日市市に生まれ、13歳から神奈川県横浜市で青春時代を過ごす。ロックバンド・SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)のギタリスト兼ボーカリスト。現在は東京都新宿区近辺で生活している。