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icon 2015.1.24

ペンネンネンネンネン・ネネムズのメンバーが語る「俺と映画」――サイケデリック&ドリーミーな5人組バンドのEPから浮き彫りになった映画愛

東京を拠点に活動する5人組インディー・ロック・バンド、ペンネンネンネンネン・ネネムズ(以下、ネネムズ)。宮沢賢治のようなドリーミーな詩世界と、ゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLE、フィッシュマンズ、bonobosを彷彿とさせるサイケデリックな音像が魅力だ。2014年3月にファースト・フル・アルバム『東京の夜はネオンサインがいっぱいだから独りで歩いていてもなんか楽しい』をリリース、同年11月には早くもライブ会場限定のセカンドEP『ストラトキャスター/浮き雲』をドロップ。「ストラトキャスター」はウォーム&キュート、「浮き雲」はクール&スタイリッシュで、そのコントラストも素敵!

 

ここで映画好きの読者なら、「浮き雲」というタイトルで「アキ・カウリスマキ(フィンランドの映画監督)が好きなのかな」とピンとくるはず。そう、同曲は彼らの友人のミュージシャンが開催したイベント「オレとカウリスマキ」に出演した際に書き下ろしたものを、バンド・アレンジで再構築したものなんだそうだ。しかも「ストラトキャスター」のPVもカウリスマキへのオマージュと、ネネムズは大のカウリスマキ好きのよう!

 

ペンネンネンネンネン・ネネムズ「ストラトキャスター」

 

そこでHEATHAZEでは、ギター&ボーカルの神ノ口智和さんと藤井毅さんに、自身の映画体験についてご寄稿いただいた。「映画音楽」という視点からクールに切り込んでくれた神ノ口さんと、幼少期からの映画愛をたっぷり語ってくれた藤井さん。「普段音楽は聴くけど映画はそんなに…」「バンドマンが選ぶ映画ってどんなのだろう」「あの映画、また観返してみようかな」など、この特集が映画に触れるきっかけになってくれればこれ幸い。そして、ネネムズの音楽も聴いてみてくださいね!(前文/福アニー、コラム/神ノ口智和、藤井毅(ペンネンネンネンネン・ネネムズ))

 

※ペンネンネンネンネン・ネネムズのファースト・フル・アルバム『東京の夜はネオンサインがいっぱいだから独りで歩いていてもなんか楽しい』のメンバーによる全曲解説とアートワーク公開はこちら

 

 

神ノ口智和

「音楽がクソな映画はクソな映画だ」、と言ったのがジム・ジャームッシュだったかどうか確かな記憶にはないけれど、ずいぶんな言い方だなあというのと同時に妙に腑に落ちる部分もあった。これは「映画の内容は良かったけれど、音楽は良くなかった」という批評の観点からはちょっと離れている。映画におけるサウンド・トラックとは単に映画を「補完」する役割を担っているのではなく、映画の「価値そのもの」だよ、と言っているのだ。良い服とは「良い生地」であり、良いカメラとは「良いレンズ」であり、おいしい料理とは「こだわった食材」だと言うのに近い。こんな風な割り切り方はもしかしたらちょっと危険なのかもしれない。なにしろ必ずしもそう簡単には割り切れない良いものもきっとあるからだ。でもまあ、何かを判断したり、批評したりするときの一応の基準は作れることにはなるんじゃないだろうか。

 

ジム・ジャームッシュ監督『ダウン・バイ・ロー』のトレイラー映像

 

この文章をご覧になっている賢明なHEATHAZE読者の方々は、もちろん優れた音楽を聞きわけるセンスをすでに身につけているのに違いないのだから、良い映画とそうじゃない映画を見極めることは実に簡単だ。「音楽がクソな映画はクソな映画だ」をひっくりかえして「音楽が良い映画は良い映画だ」という視点で自分が観たい映画をチョイスしさえすれば、自然と自分にとってリラックスできる映画を選ぶことができる。
僕も少なからず映画を愛するバンドマンである。映画ファンからしてみれば、お世辞にも多くの映画を観ているとは言えないが、今回は「良い(映画)音楽」の話をすることで「良い映画」を紹介していくことができたらと思っている。

 

 

『トリコロール(青の愛/白の愛/赤の愛)』 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ 音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

 

1993年、1994年に公開されたキェシロフスキ監督の3部作映画で、それぞれの作品が「自由(青)・平等(白)・博愛(赤)」を象徴している。この3部作の中でも音楽が特に際立っているのが「青の愛」。高名な作曲家の夫と幼い娘を共に交通事故で亡くした主人公(ジュリエット・ビノシュ)が過去の愛からいかにして自由になるかを描いている作品である。物語の設定が設定だけに音楽の質の高さがかなり要求されているけれど、音楽も見事に荘厳で悲しい作品になっている。僕が普段聴いているサウンド・トラックはトリコロール3部作に他の映画音楽も追加されたプレイスネルおいしいところ編集版。美しいけれど、とにかく重すぎるのがやや難点かな(笑)。

 

クシシュトフ・キェシロフスキ監督『トリコロール/青の愛』のトレイラー映像

 

 

『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』 監督:ジャン=ジャック・ベネックス 音楽:ガブリエル・ヤレド

ガブリエル・ヤレドの音楽は、ロック好きやポップス好きの人にも受けがいい気がする。洒落気があって、コンパクトで、軽やかというのが僕の印象だ。この映画は去年久しぶりに観たくなってレンタルして観たのだけれど、やはりとてもイカしている映画だった。フランス人がリアルにこの映画のような破天荒すぎる考え方や行動をとる人種だとしたら、僕はフランス人とは本当に付き合ってられへんでえ!と思った(笑)。物語の中で主人公とヒロインが、メインテーマの一部をピアノで弾くシーンがあるけれど、まさに音楽と映画(物語)がコラボレートしている気がして秀逸である。個人的にはとても好きな映画だけれどエンディングに関しては議論の余地あり、というわけでこの映画を観たことがある人と色々と話してみたい。抜群に雰囲気と個性のある映画でおすすめできる。

 

ジャン=ジャック・ベネックス監督『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のトレイラー映像

 

 

『ブルーベルベット』 監督:デヴィッド・リンチ 音楽:アンジェロ・バダラメンティ

音楽はアンジェロ・バダラメンティ。その妖艶な名前の通り、かどうかわからないけれど、リンチの奇妙なサスペンス・ミステリー映画を確実により謎めいたものにしている。バダラメンティオリジナル曲の美しさもさることながら、50年代頃のオールディーズナンバーを謎めいたシーンの裏に流すというセンスは、おそらく映画史上この人が初めてだと思う。この映画を観た後は、全てのオールディーズが気味悪く聴こえてしまうので注意が必要。『ロスト・ハイウェイ』、『マルホランド・ドライブ』などの他作品も連続して観ることをお勧めする。

 

デヴィッド・リンチ監督『ブルーベルベット』のトレイラー映像

 


『ブルースブラザーズ』 監督:ジョン・ランディス 音楽:V.A.

言わずと知れたというやつ。紹介するまでもないと思うが、ここは若い読者のため一応挙げておく。ブルースやソウルのかっこよさを知りたければ、これを観れば一目瞭然だし、あり得ないくらいのお金をつぎ込んでこれだけ馬鹿馬鹿しくも愛すべき映画が作ってしまえるのか!ということを感じたければぜひ観ていただきたい。アメリカ人特有の悪のりセンスがわかって、少しアメリカのことが好きになること請け合い。ジェームス・ブラウンやレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンなどの大御所ミュージシャンに混じってスティーブン・スピルバーグがちょい役で出演しているところも気が利いている。純粋なミュージカル映画とは一線を画していて、ストーリーも実はハートフルで優しい気持ちになれる、最高の映画のひとつだと思う。

 

ジョン・ランディス監督『ブルースブラザーズ』のトレイラー映像

 

 

『惑星ソラリス』 監督:アンドレイ・タルコフスキー 音楽:エドゥアルド・アルテミエフ

どういういきさつだったかスタニスワフ・レムの原作小説を先に読んで、読み終わった次の日かなんかにDVDを借りてきて映画を観た記憶がある。内容は惑星自体が意識を持ち主人公の精神に訴えかけてくる、というかなり静かなトーンのSF哲学小説で、なんとかかんとか読み終えた。映画の方はというとオープニングからバッハの「コラール前奏曲(BWV639)」を延々と聴かせられ、あまりの暗い雰囲気に、オープニングとエンディングを間違えたんじゃないかと目と耳を疑った。アルテミエフはソビエト電子音楽の祖とされているらしく(ソビエトといえば電子音楽!)、この映画の音楽以外にもタルコフスキー映画の音楽を担当している。正直タルコフスキーの映画はなかなか観るのがしんどいとは思われるが、こういうしんどい芸術映画(その美しさは半端ではない)を観ることもまた映画の楽しみ方のひとつだと思いたい。

 

アンドレイ・タルコフスキー監督『惑星ソラリス』のトレイラー映像

 

まだまだ紹介し足りないところではあるが、今回はこれにて終了。今回紹介した映画のサントラはどこかしらで購入できるはず。映画を観た後に、その世界観を追体験していただければと思う。音楽が好きになるほどに、ますます映画が好きになってくれれば、映画・音楽好きが増えたということで僕も嬉しい。