「A,B,CIVILAMAGZINE」は、私たちCIVILTOKYOのアートワーク連載と注目のアーティストへのインタビュー連載のふたつの連載企画です。今回は注目のアーティストへのインタビュー連載。ご登場いただきますのは、9月4日にフル・アルバム『Golden Rain』をリリースされた新進気鋭のバンド「Far Farm」のみなさんです。
私たちが子供の頃、音楽が無料で聴けるようになる未来は想像もしていませんでした。さすがにラジオを前にカセットレコーダーを握りしめて、声を潜めて録音なんて昔ではありませんが。テレビやラジオ、友達や近所の年上の人から貸してもらったり聴かせてもらい、CDを買い、いつかライブに行きたいなと想像してみたり。そういう流れの中でしか音楽に触れることができなかったほんの15年くらい前。時代は大きく変化しました。無料で曲を配信したり、購入者がアルバムに値段をつけたり、検索一つでアルゼンチンでもスウェーデンでも触れるのに困難な音楽にアクセスできたり、SoundCloudを聴いた海外のプロモーターから突然オファーがきたり、ちょっと信じられないようなことが普通の出来事としてよく耳にするようになりました。
「身体性」をまとっていた音楽がその他写真や絵と同様に「データ」として、インターネット上を熱心に飛び交う中で、一体今CDを自分たちでリリースするというのはどういったことなんだろうと思うことがよくあります。それをまずはFar Farmのみなさんに聞いてみたいなと思いました。返ってきた答えは「出したいから」というすごくシンプルな答えで、でも「ああそれでいいんだな」と、自分たちもそうだなとなんかすごく納得してしまいました。
ico!さんの変幻自在のスーパーボイスに、山田さんのロジカルで叙情的なセンス、古口さんの調和的で全てをまとめあげるようなプレイ。この素晴らしい3人が作り出した音楽に出会えてよかったなと心のそこから思います。私はその昔ミュージシャンになりたかったので、こういう曲書きたかったなぁと、こういう仲間に出会いたかったなぁ、とお話を聞いていてとても羨ましくなりました。
著作権問題や、CDが売れないというニュースや、色々と今音楽業界はごたごたしているようですが、そんなことはとりあえず横に置いておいて、音楽を志し、音楽と戯れ、音楽に真摯に向き合うこの若者3人の「黄金の雨粒たち」を是非インタビューと合わせて浴びてみてください。きっと音楽が数分前よりも好きになるはずです。
Far Farm 2nd Album『Golden Rain』
Far Farm「radio」
「物理的に遠いけど憧れる情景、みたいな感じも込めてます」(ico!)
――はじめまして。本日はよろしくお願いします。自己紹介をお願いしてもよろしいですか。
山田:Far Farmのベースと作曲を担当しています、山田と申します。作曲は最終的にはみんなでやっているんですが、その中でも最初の原案をつくる役をやっています。
ico!:ボーカルを担当しています、ico!です。詞は私が全部書いています。よろしくお願いします。
古口:鍵盤、ピアノ類、シンセサイザーをやっています、古口です。お願いします。
――僕たちCIVILTOKYOは、伊藤が写真、根子がグラフィックとWEBのデザイン、都竹がWEBエンジニア、という感じでやってます。
古口:3人でなんでもできるじゃないですか。
――ひとりひとりだとなにもできないですけどね。
ico!:僕らと一緒だな。
古口:3人寄れば、ってやつですね。
――1本の矢は…ってのもありますね。スリーピースが団体としての最小の形態なので、3人でうまくいっていれば新しい人が入ってもうまくいくらしいですよ。
古口:確かに、そうかもしれないですね。
――9月4日にアルバム『Golden Rain』を発売されましたね。
古口:前回のEPは打ち込み感があって、エレクトロ要素がすごく多かったんですが、今回のアルバムはエレクトロな前半から、後半になるにつれてバンドサウンドになっていくつくりになっています。最近はライブでもサポートドラムに入ってもらっていて、とても助けてもらっています。
――タイトルを『Golden Rain』にした理由を教えていただけますか。
古口:高級感がある感じとか、言葉の響きで決めました。
山田:ico!ちゃんが持ってきたんですよ。
ico!:私は詞を描く時、見たことのない架空の情景を思い描いて書くことが多いんですが、今回のアルバムのレコーディングの終盤で、歌っている時に金色の雨の中で歌っている絵が一瞬見えたんです。「Gold」っていい響きだし、色もいいし、緑とか赤とか青みたいな偏ったイメージがなくて広い意味がある気がして、今回のアルバムにいいんじゃね?と思って2人に提案しました。
――金色の雨が見えたのは、なんのきっかけもなく、なんですか。
ico!:そうです。いつもそうなんですが、突然いろいろ浮かびます。
――考えてみれば、「Far Farm」っていうバンド名も不思議な感じですよね。単純に日本語訳すると、「遠い農場」となりますが…
古口:ブライアン・イーノが農場などの自然をテーマに作曲を始めたのがアンビエントになった、というのがあって、「Farm」みたいな言葉を入れたいね、という話をしていたんです。
ico!:「Landscape」とか、他にもいろんな案があったよね。
古口:それで、遠くに農場が見えている感じの情景がいいかな、と思って、「Far」をつけました。
山田:言葉の響きもよかったし。
ico!:私以外の2人は東京生まれ東京育ちなので、そういう情景を知らないんですよ。物理的に遠いけど憧れる情景、みたいな感じも込めてます。
――僕たちも、2人(根子・都竹)が地方出身で、伊藤だけ東京近郊なので、よくわかります。
ico!:最後のは後付けなんですけどね。
「Wave a flag, baby tonight」2015/9/4 新宿Marz
――音楽活動は、最初から3人で始めたんですか?
古口:最初は僕と山田の2人で、それぞれ別のバンドだったんですが…
山田:俺から声かけたんだっけ?古口は「Wanna-Gonna」っていうバンドを今でもやっていて、僕の方は今はもう活動していないんですが、「flight egg」っていうバンドをやっていました。古口のバンドとはよく対バンしていて、話していて面白いし、音楽の話も合うし、一緒に面白いことやろうぜ、ってなったんですが…
古口:一緒にデモテープとかをつくっているうちに、女性ボーカルに参加してほしいな、ってなったんですよ。メンバーじゃなくて、featuring的な感じでいいから誰かいないかな、と。そうしたら山田がico!ちゃんを連れて来てくれて。
ico!:私と山田は大学時代からの知り合いで、ライブハウスでよく会っていたんです。私はバンドをやっていなかったんですが、flight eggのライブをよく見ていたので。
――お客さんとして、ということですね。
ico!:Twitterでもつながってたんですけど、Twitter上では別の後輩の山田と勘違いしてたんですよ。そうしたら「女性ボーカル探してるんだけど、歌う?」みたいなタメ口のメッセージが来て、はあ?と思ったんですけど、後でこっちの山田だと気付いた(笑)
古口:ico!ちゃんと僕は面識なくて、山田の紹介で吉祥寺の伊勢屋で初めて会うことになりました。
――僕たちも昔よく行きました!やっぱり伊勢屋は出会いがありますね。
ico!:それで、じゃあ一回スタジオに入ろうってなって、3人ともまったくのノープランだったんですが…どうやらご好評いただいたみたいで。
古口:最初は素材ぐらいで考えてたんですが…
ico!:結構ガッツリ歌うっていう。歌詞もその場で考えちゃったりして。その時できたのが前のEPに入ってる「Keep In Mind」っていう曲です。
古口:そういう風に、ただただ欲望に身を任せてつくったのが最初のEPですね。
ico!:そして知らない間に私もメンバーになって、ユニットになってた、みたいな。
――結成はいつ頃だったんですか。
ico!:結成が2013年の11月で、初ライブが翌年4月ぐらいですね。
――結構準備したんですね。
ico!:EPができてからだったので。
山田:僕たち、結構じっくり時間かけてつくるんですよ。
――新しいアルバム、13曲入りでボリューム満点ですよね。2年前に結成でもう13曲入りが出るっていうのは逆に早い気がしますよ。
古口:今のインディーズのバンド形態として、EPで3~5曲入りをちょくちょく出すみたいなのがよくあるじゃないですか。でも僕たちは、フル・アルバムとして、流れとかをガッツリ考えたかったんですよね。ライブをたくさんやって評判広げて、みたいなのよりも、作品としてつくりあげていく形態の方が似合ってるんじゃないかな、と思うんですよね。
山田:曲を最初からつくる側としては、どんな形であれアルバムをつくりたいとバンドやってた頃から思ってたんですよ。今は周りの人にも恵まれているし、このタイミングで自分の満足のためにつくっちゃいたいな、というのもありましたね。
「Wave a flag, baby tonight」2015/9/4 新宿Marz
――つくりたい、っていうのは重要ですね。
古口:結果、めちゃくちゃ濃厚な13曲になりました。自分たち的には満足してますね。
山田:とりあえず1曲でも聴いてもらえればな、と思いますけどね。