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A,B,CIVILMAGAZINE 第5回 サンドロビッチ・ヤバ子――クリエイティブ集団・CIVILTOKYOが注目アーティストにインタビュー

「A,B,CIVILAMAGZINE」は、私たちCIVILTOKYOのアートワーク連載と注目のアーティストへのインタビュー連載のふたつの連載企画です。今回は注目のアーティストへのインタビュー連載。ご登場いただきますのは、現在裏サンデーにて「ケンガンアシュラ」を連載中の漫画原作者サンドロビッチ・ヤバ子さんです。

 

オリジナルのストーリーとアートとも呼べるほどのクオリティの絵がドッキングされた作品が束になって300円そこらで毎週見れる国は、世界中探しても日本だけではないでしょうか。それが今やインターネット上で無料で毎週見れる時代になったのですから、この国は本当におそろしいですね。世間を席巻し出した漫画の新たな流れ「WEB漫画」の創世記・黎明期に登場したヤバ子さんには、旧態然とした業界の慣習では計れないエピソードがありました。師匠もいない、絵も描かない、純粋なストーリーライターとも違う全く新しい文脈が流れているように思います。漫画を描き始めた理由やこれからの展望など、新時代のトップランナーが胸の内に抱く心の内側を余すところなく話していただきました。漫画家というとストーリーは元より絵も上手くなくてはなれない職業という考え方を180度ひっくり返してきたヤバ子さんには、人間やろうとしてやれないことはないという短絡的なボジティブシンキングではなく、タイミングを逃さず手繰り寄せる強さを感じました。

 

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ケンガンアシュラ

原作:サンドロビッチ・ヤバ子 作画:だろめおん

(C)サンドロビッチ・ヤバ子/だろめおん/小学館

 

「格闘漫画を描いてくれと言われて制作している時点で、工業製品をつくっているのに近いと思うんですよね」

――僕たちの知り合いは、グラフィックやイラストなど、ひとつのビジュアルで完結する人が多かったので、今回はストーリーを考えたり、構想を練る時の頭の働かせ方や、原作者と作画者の共同作業やバランスの取り方などをお聞きできたらいいな、と考えています。

 

サンドロビッチ・ヤバ子(以下、ヤバ子):わかりました、よろしくお願いいたします。

 

――現在、裏サンデーで連載中の「ケンガンアシュラ」では、ヤバ子さんが原作、作画をだろめおんさんが担当されていますが、仕事でグラフィックを扱っている人間から見て、漫画の作画って本当に手がかかっているな、と思います。この「ビギャッ」とか「ゴッ」っていう効果音の部分とか、よく見るとかなり時間かかっている気がしますね。

 

ヤバ子:オノマトペの部分ですよね。おそらく、時間かかっているでしょうね…

 

――以前、NHK教育で浦沢直樹さんの「漫勉」という番組を見たんですが、そこに「うしおととら」の藤田和日郎さんが出ていたんです。そこで紹介されていた、藤田さんの作画の描き込み方が本当にすごくて。つくり込まれた物語があり、さらにそれだけ力の入った作画があり、それだけクオリティの高いものが10作品くらい集まって毎週数百円で売っているというのは改めて考えてみると本当に衝撃的だと思います。今回、インタビューを快諾していただきましたが、ヤバ子さん、忙しすぎてインタビュー受けてくれるのかなって3人で心配していました。

 

ヤバ子:いえいえ、僕は飲みに行ったりする時間はちゃんとつくっているので。逆に、僕はプライベートの時間がないとできないんですよ。だから、どんなに忙しくても酒だけは飲むようにしています。

 

――僕たちの世界がまだまだ狭いからだと思いますが、同世代で漫画で仕事が成り立っている人ってなかなか知り合えない、知り合う機会がないんですよね。漫画家さんや原作者さんって、作品が先行してしまうので、ご本人はなかなか表立って出てこないじゃないですか。作品は知っていても、作者の顔や性別、年齢がわからない場合も多いですよね。

 

ヤバ子:そうですね、出たがらない人もいますしね。出たがりも多いですが…まあ、それはどの業界でも同じですよね。

 

――出版社がやっているイベントやサイン会に行けば、会えるといえば会えるんですが…

 

ヤバ子:そこで仕事の話はなかなかできないですよね。

 

――今回は偶然、ヤバ子さんと都竹が同じバーで知り合ったことでインタビューをさせていただくことになったわけですが、普段どういう方と飲むことが多いですか。

 

ヤバ子:誘い合わせて行くというよりは、1人で行ってそこにいる人と話すということが多いので、いろんな方がいますよ。そういえば、伊藤さんが写真家だということで聞きたかったのですが、この間鈴木育郎さんという写真家の方と知り合う機会があったんです。今、毎月1冊写真集を出すというとんでもないことに挑戦されているんですが、ご存じですか。

 

――知っています。鳶職の方ですよね。情感のある写真を撮られる方だと思います。

 

ヤバ子:僕は写真の良し悪しはあまりわからないんですが、好きでしたね。年も確か同じくらいだったと思います。

 

――先程いただいた名刺に「漫画原作者」と書かれていますが、「漫画家」と呼ばれたり、単に「原作者」と呼ばれることもあるかと思います。肩書きに対するこだわりはありますか。

 

ヤバ子:特にないですね。好きに呼んでもらえれば、という感じです。ただ、一度だけ「アーティスト」と呼ばれた時はちょっと気持ち悪かったですね。僕はアーティストは名乗れないですよ。

 

――それは人から与えられる肩書きかもしれないですね。

 

ヤバ子:僕の場合、格闘漫画を描いてくれと言われて制作している時点で、工業製品をつくっているのに近いと思うんですよね。アートじゃなくて商品ですよね。でも、伊藤さんは実際に写真家として作家活動をされているわけですが、周りの評論とか気になりませんか。

 

――そうですね…見たまま感じてもらえればいいかな、と思っています。

 

ヤバ子:わかります。僕も客観的に紹介してくれるのはうれしいんですが、勝手にその人の主観でこの漫画はこういうものである、と言われると、ちょっと困惑することがあります。そんなこと考えてないぞっていう。

 

――でも、ヤバ子さんはWEB漫画を描いていることもあり、ネット上での評価などはかなり盛り上がっていますよね。ああいうのって気になるものですか。

 

ヤバ子:こう言ってしまうと語弊があるかもしれないですが、僕って人の評判がまったく気にならないんですよ。昔は気になってたんですが、どうでもよくなっちゃいました。得にも金にもならないことをしても仕方がないな、と思って。

 

――猛々しいですね!二次創作もPixivなどにたくさん上がっていますが、ああいう盛り上がりは漫画ならではだと思います。

 

ヤバ子:ああいう風につくっていただけるのは単純にうれしいですよね。

 

――毎週連載されているのは、大変ではないですか。

 

ヤバ子:楽しくやってますよ。追いつめられたりはしてないです。ストックもあるし。でも、今の感じだと、僕は同時に2本までが限界ですね。それ以上は質が下がっちゃうと思います。

 

――ストックはどれくらいあるんですか。

 

ヤバ子:あります。だいたい8~9話くらいは常にストックしてあるようにしていますね。

 

――コミックス1巻分くらいストックされているんですね。

 

ヤバ子:そうですね。期間で言うと2~3ヶ月分くらいになりますかね。

 

――週刊だとそれくらいの期間になっちゃうんですね…短い!

 

ヤバ子:そうなんですよ。だから、今、東京から離れるとすごく不安になります。自宅から遠くなれば遠くなるほど。仕事はどこでもできるんですけど、何か落ち着かないんですよね。ある種縛られているのかもしれないです。

 

――でも、「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリさんは確か海外でお仕事されているんですよね。

 

ヤバ子:イタリアですよね。どうやってるんでしょうね。打ち合わせも電話だけなのかな。あの方くらいになるとそういうのも許されるんでしょうけど…僕が今、例えば沖縄の島に引っ越します、とか言ったら、いや何してんの?ってなるでしょうからね。

 

――ヤバ子さんは今、出版社に所属されているということになるんですか。

 

ヤバ子:僕もいまいちよくわかっていないんですが、早い話が業務委託みたいな感じなんですよね。契約はしてるんですが、結構ふんわりしてて、出版社や担当編集によるみたいです。僕の場合は、他から引き合いが来たら絶対に断ってくれ、とは言われてますね。

 

――法律で禁じられてるわけではないですもんね。でも出版業界って、暗黙のルールとか多そうですよね。

 

ヤバ子:あります、あります。ちょうど今、話に出た「テルマエ・ロマエ」が映画化した時も、原作者が100万円くらいしかもらってないってニュースになってましたけど、結局契約を交わしてなかったってことらしいんですよね。本当は交わさなきゃいけないと思うんですけど。

 

――佐藤秀峰さんも、その辺の問題提起されてますよね。

 

ヤバ子:そうですね。でも基本、映画がどれだけ売れても、直接報酬をもらうということはないんじゃないかと思います。出版社側としては、映画で宣伝してコミックスの売上が伸びる、それでいいだろってことみたいですね。金が欲しかったら自分で何パーセントか出資しろ、ってことみたいです。

 

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――原作として話を提供している時点で相当な出資をしてる気もしますけどね。

 

ヤバ子:そういう話を聞くと、まだまだ世間ってものづくりに厳しいんだな、と思います。