2015.6.3

ぷりぷり伊能プロジェクト測量4回目ふっつ（FRENTE!!・松江）―― 県内外の繋がりを生み出していく山陰発パーティーの主催メンバー

山陰が大好きです。まず名前からしていい。「山が陰ってる」なんて。谷崎潤一郎よろしく声を大にして言いたい、陰翳礼讃。「日本一人口が少ない県、安定のワンツー」「島根と鳥取、どっちが右だったっけ？」「とにかく地味」というありふれたパブリックイメージをめっためたにしたいです。もともと宇宙で一番好きな果物・梨と砂丘があるというだけで、小学生の時分から鳥取に異様な憧れを抱いていた筆者。「将来は山陰に移住して梨農家になりたい」という夢を胸に、千葉県松戸市で行われた「梨祭り」で梨カレーを作ったり（二十世紀梨の発祥地である松戸市と鳥取県倉吉市が姉妹都市になっているため）、鳥取県東京事務所の方からレアなトリピー人形をいただいたり、秋葉原の街中を舞台にした鳥取にまつわる宝探しゲームに参加したり（ひとりで）、まんが王国とっとり応援団になってみたり、雪化粧した鳥取砂丘に寝転がってみたり。そうなるとお隣の島根も見過ごせなくなってくるわけですが、なかでも島根在住の歌手・浜田真理子さんの存在が大きく。鳥取県民謡の「貝殻節」や安来のおじ作の「水の都に雨が降る」を切々と歌うさまにノックアウトされ、HEATHAZEでインタビューさせていただいたこともありました。彼女を慕うロックバンド・GEZANのギター＆ボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポーも島根出身なんですよ。

そんなこんなで2015年もひっそりと山陰愛を募らせていた筆者、山陰観光連盟のサイトの流れゆく電車を眺めながら現実逃避しつつ、「神話ひとこまアレンジジェネレーター」で遊びつつ、知らず知らずのうちにTwitterで「山陰　バンド」かなにかで検索していました。ここまでくるともはや恋の病ですね。そこでクリティカルヒットしたのが、今回、全国各地のイカした人や場を発信する日本横断企画「ぷりぷり伊能プロジェクト」測量4回目にご登場いただくふっつさんでした。そのときは鳥取発ポップバンドのアザミと雨やオレンジフィンカイザープレコについて書いていたと思いますが、ひと目でインディーな音楽を愛しているとわかりました。ふっつさんはこの3月で3周年を迎えた島根は松江のパーティー「FRENTE!!」の主催メンバーのひとり。出雲など県内はもちろん、東京や関西から多彩なゲストを呼んでいる！いいヴァイブス！と、その勢いのままコンタクトを取りました。

メールのやり取りをするなかで、「山陰は僕のイメージでは『知られていない』がデフォルト」「山陰という全国的にも最も知名度の低いような地」という言葉を見るたび、「なに言っとんじゃい！個人的には山陰、ひいては中国地方は日本で、いや世界的に見てもめちゃくちゃ熱い土地だっちゅうねん！（似非関西人風）」と心のなかで叫んでおりました。人口371万人、日本最大級の政令指定都市・横浜出身の自分が言ってもなんの説得力もないですが、本当にもっと自信持ってください…とにかくふっつさんの静かに熱い文章、ぜひ読んでみてください。島根には彼のFRENTE!!はもちろん、新しい形の音楽フェスティバルやそれに感化されて始まったパーティーなど、魅力的なイベントがあることがわかると思います。ローカルでも小さくとも場を作り、人を繋げ、楽しさを共有する。そんなシンプルな姿勢と気概と実直さがひしひしと伝わってきて、ぽろりときてしまいました…そしてひとつのパーティーが、たくさんの連鎖反応を起こしているんだと。ひとひとりの想いはどんなに小さくとも必ず誰かに伝わって、どんどん周りを巻き込んでいくのではないでしょうか。

そうそう、中国地方といえば岡山のPerleさん（画家）、広島のCRZKNYさん（ジュークマエストロ）、鳥取のConstellation Botsuさん（ノイジシャン／イラストレーター）、山口のLIL_SEGAさん（ブロガー／サウンドコラージスト／レーベルオーナー）、同じく山口のtoiret statusさん（トラックメイカー）ら危ないにおいのする人がうようよいる印象です。でもそれはまた別のお話。それでは、八百万の神々の国・島根へひとっ飛びと参りましょう！（HEATHAZE主宰・福アニー）

「FRENTE!!」というパーティーはいまから3年前、2012年より島根県松江市で2ヶ月に1度開催している、小さなローカルパーティーである。当初と比べメンバーの入れ替わりがあり、いまのメンバーはDJに「TUNE」「yumy」「ふっつ」、バーテンダー兼おしゃべり担当に「きょうすけ」の4人で開催している。このメンバーに決まってから1年だ。僕たちFRENTE!!のホームはDJ BAR MIXというキャパが40人程度の小さなクラブハウスである。

この松江という小さな街の、MIXという小さなハコで、特別ではなくレギュラーとして、「僕たちだからできる楽しいこと」をやっていきたい。そう思っている。

パーティーの当初のコンセプトは「誰でも遊びに来られる場所を」。もともと松江で飲み遊びに出ていた3人で、そんな誰でも遊べるような遊び場がほしいなーという話をしていたところに、学生時代からの友達がタイミングよく大阪から松江に帰ってくるとの話を聞き、「それなら！」と勢い半ばで4人で始めたことがきっかけである。どこにでもありそうなきっかけをもとに、どこにでもありそうなコンセプトをひっさげて、会場はいまのMIXとは違う、大通りに面した少し開けたBARで1年に2回程度開催した。昼間から夜にかけて、DJをしたり友人にライブをしてもらったりフードを出したり、とちょっとしたお祭りのようなイベント感覚で開催していた。しかしイベントを重ねるうちに、「やはりクラブでもっとしっかりとやっていきたい」と思うようになった。これが2012年、いまのMIXで開催するきっかけとなったときだ。

それからMIXで2ヶ月に１度FRENTE!!を開催するようになった。メンバーがDJをするのはもちろんだが、毎回ゲストを招き、その回ごとに雰囲気を変えて開催しようと決め、ゲストには昔から交流のある松江のDJや山陰で活動している友人のDJを招いて開催を重ねていった。

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2013年11月に松江市の大根島HOMEでFRENTE!!のライブを企画したときの様子

出演はランランランズ、the milky tangerine、DJにtsutchieなど

そんななかでひとつのきっかけがひとつの転機を生んだ。

2012年秋、僕が世界で最も愛するバンド、HOTEL MEXICOを島根に呼べることになったのである。手前味噌ではあるが、松江の地に大きなものを残せたと勝手に思っている。HOTEL MEXICOを山陰に呼ぶ、それは僕たちFRENTE!!以外ではなし得なかったといまでも確信を持っている。そして、このとき偶然にも同じタイミングでHOTEL MEXICOを中国地方に呼ぼうとしていたパーティーが広島にあった。広島の「Atlas」というパーティーの主催者・ひろやんとコンタクトを取り、松江～広島で連日開催し、お互いのクルーもお互いの会場でDJし合うことになったのだ。そして、広島と松江でのHOTEL MEXICO連日ライブの開催、お互いのクルーが相互に出演、というそれまでのFRENTE!!にはなかった流れができた。以後も広島のAtlasとは、お互いのレギュラーパーティーのタイミングで広島～松江をお互いのクルーがゲストとして参加するDJパーティーを2日連続で開催するなど、距離を超えたローカルパーティー同士の付き合いを続けている。

HOTEL MEXICO「A.I. in Dreams」のMV

このときをきっかけに僕らが活動している山陰だけでなく、同じように地方で活動しているイベントやその地の人と、FRENTE!!なりに繋がっていきたいと思うようになった。そして、もうひとつFRENTE!!にとって、島根にとって大きな転機であったと感じている出来事がある。

2013年秋に、島根県松江市来待というところで開催された、新しい形の音楽フェス（祭り）である「たぬき音楽祭」の存在だ。この祭りは会場である来待町の方と、主催者（編注：後藤健太さん）と、ある程度の人数の実行委員、そしてそれを支える多くのボランティアの存在で成り立っていた。行政やイベントコーディーネーターを通さず、ボランティアさんを巻き込んで、準備から宣伝、ひいては当日の運営まで各自が想いの丈をぶつけられる「自分たちが作った祭り」となった。

たぬき音楽祭には個人的にも実行委員として参加していたのだが、このときに強く感じたことは、不安に思いながらも「やってみる」という想いの強さであった。青臭いことを言うようだけど、いつもはライブハウスにしか行かない人、クラブハウスにしか行かない人、カフェにしか行かない人、いろいろな人がそれぞれに普段出会うことのない人に出会い、繋がり、作り上げていくことがこんなにも楽しくて素晴らしいことだと、本当に言葉には表しきれないほどに感じた。

2014年秋に行われた「子だぬき音楽祭」のドキュメンタリー

その後、たぬき音楽祭に影響を受けるように僕たちの周りの環境も少しずつ変化してきた。いままで関わり合うことのなかった人たちが自然と繋がり合い、交流するようになったのだ。

ひとつの例として、出雲の「あだんちゃ」というイベントがある。このイベントの主催者は5人だが、この5人いずれもがたぬき音楽祭や子だぬき音楽祭に影響を受け、「自分たちもなにかやれるんじゃないか」と集まって始まったものである。イベントを始めたい初期衝動が目一杯に詰まった彼らのイベントは、過去のブッキングに柴田聡子やヤング、あだち麗三郎、Homecomings、平賀さち枝、やましゅた達郎などを招いて開催している。山陰でこんなにおもしろいブッキングをしているイベントがあるのは本当に嬉しい。そしてなにより、彼ら自身のイベントをより楽しくしよう、盛り上げよう、とできることすべてに力を注ぐひたむきさは確実に周囲を巻き込んでいる。

少し話が脱線したが、2015年3月、FRENTE!!とあだんちゃが同日の開催となった。あだんちゃがデイイベント、FRENTE!!が深夜イベント。「こりゃいい！」となり、ふたつのイベント合同で、両方遊びに来た人には特典を用意しての開催を企画した。それがお客さんの気持ちにどれだけ影響したかはわからない。特典目当てでハシゴした人がたくさんいたかもしれないし、ほんの微々たるものだったかもしれないし、もしくはゼロだったかもしれない。なんにしても、「地方の繋がり」が県外だけでなく、同じ「島根」で作れていること、それがとても大きいように感じている。

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2015年3月にDJ BAR MIXでFRENTE!!3周年パーティーを開催したときの様子

ゲストは笑ぅ環境音楽（京都）、blackglassG（神戸）、hinacc（出雲）、

Maho Littlebear（京都）、datch（松江）

なんだか書きたいことが多すぎて、支離滅裂になってきた気がする…と、まあ僕たちの周りを囲む状況が少しずつ変わっていくのにしたがって、僕たちも自然と少しずつ変わっていった。そんななかで僕たちFRENTE!!らしさってなんなのか、それが最近になってよりはっきりしてきたように感じている。

少し僕個人の話になるのだが、近年は音楽イベントに遊びに行くときに県外へ行く割合が増えた。多いときは月に1度は関西に行っていたし、合間に広島や岡山にも遊びに行っていた。県外者の僕からすれば、特に関西には羨ましいほどに遊びに行きたいパーティーがあふれていて、よく見る人や初めて見る人、たくさんの人がいるように思えた。そして、これだけ遊びに行けば自然と県外にも少なからず友人もできた。しかもSNSのおかげで、個々の関係性の距離感もいい意味で曖昧になっている。せっかく島根でパーティーをしているのだから、こうしてできた関係を活かしたいと思うようになった。特に関西にはおもしろいトラックメイカーやクリエイター、DJがたくさんいて、そんな人たちを島根に呼べたらどんなことになるのだろう、と考えるだけでワクワクするようになった。そして、東京や関西に対してどことなく持っている抽象的な憧れ、「日常的にあふれている羨ましいパーティー」を島根でやってやろうと。

この松江という小さな街の、MIXという小さなハコで、特別ではなくレギュラーとして、FRENTE!!にしかないものがここにはあると思う。

大きなブッキングのパーティーを単発で開催したり、毎回レギュラーをやるだけのパーティーをただただ開催したりするだけなら、ある程度時間やお金があればできると思う（きっちりパーティーメイクされている素晴らしいイベントはなかなかできないけど、そんなパーティーもちゃんとあるうえでの話）。そうではなく、僕たちでしか呼ばないような人をローカルの人と交えながら定期的に開催する。遠くから来てもらった出演者、ローカルで普段から知ってる出演者、それを見に来るお客さん、そこにいる僕たち。そこで新しい繋がりが生まれれば最高だし、そんなカタイことなんて言わなくて、ただ楽しかったらそれがなによりだし。そんな楽しい時間が2ヶ月に１度やってくるって、FRENTE!!を知ってる人みんなに思ってもらいたい。

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先述したように、SNSをはじめとしたインターネットが身近にあることで、多くの可能性が広がっていると思う。でも、そのもとやその先にはもちろんアナログな人と人との繋がりがあって成り立っている。僕はインターネットはきっかけや手段だと思っている。その手段を使って、きっかけがなければおよそ見向きもしないかもしれない島根という土地に、興味と想いを馳せてみてもらえたら幸いです。来てみたらなにかあるよ。

「FRENTE!!は2ヶ月に１度のお楽しみ」。そう言ってもらえるような、「僕たちだからできる楽しいこと」をこれからも続けていきたい。

FRENTE!!

ふっつ

※ぷりぷり伊能プロジェクト測量3回目 7Days Warrrrrrr（名古屋）はこちら。

※ぷりぷり伊能プロジェクト測量5回目 CIVILTOKYO（東京）はこちら。