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EBM(T)ロングインタビュー――平成生まれのバーチャル聴覚室主宰ユニット、ナイル・ケティングと松本望睦に聞く「アート、TOKYO、同時代」

「やっぱり『ミュージシャン以外の人の音を聴いてみたい』っていうのが一番の動機かな」(望睦)

――そうなんですね!10歳差くらいまでだったらそんなにジェネレーションギャップはないのかもしれませんね。それで多摩美術大学時代にふたりは出会うわけですが、そのときのことは覚えていますか?

 

望睦:大学1年の自由制作でナイルが「SMOKE」ってタイトルのインスタレーション作ってて、そこになぜかMumのCDが落ちてて「あ、Mumだ」って言ったら、後ろからナイルが「Mum知ってる~?好き~?」って来たのが最初だった。それでプチプチのロールが廊下に置いてあったから、そこに座って音楽の話したの覚えてるよ。ナイルの「SMOKE」を体験して、凄いおもしろく感じた。部屋の端っこの壁、床、天上にろうそくが大量に張り巡らされていて、氷がひもで縛られたまま天上にある。そのひもが床まで伸びてて、床に置いてある水槽のなかにメトロノームが入ってるんだけど、そのひもと繋がってて、氷もだんだん溶けていくっていう。そして「これは音楽です」って言ってろうそくに火をつけ始める。その間だけ音楽としてインスタレーションがある感じで、強烈だったな。ちなみにふたりとも油画専攻だったのに、1枚も油絵描いてないという(笑)

 

ナイル:ろうそくで学校の壁燃やしたやつね(笑)大学時代は望睦とそんなに話さなかったから、あんまり覚えてないんです。卒業後に密に連絡取ったりいろいろ話したりするようになって。でも音や音楽が好きな子って意外に美大では希少で、ありがたい存在でした。

 

――まさに美大ならでは、自由ですね。音楽制作も大学に入ってから?

 

望睦:音はフリーソフトのAudacityを使って、入学当初からひたすら作ってて。プログラミングもやってたから、プログラムしたもの、録音したもの、ボイスサンプリング関係なく、いろんな素材を使ってコラージュを。音楽と音の違いってなんだろうってひとりで考えてた時期もあって、音楽が人だとしたら音が幽霊みたいなもので、肉体があるかないかの違いに似てるのかなと。人間が幽霊を見える場合もあれば、幽霊が人間を見られない場合もあるし、凄い小さな幽霊がいたらめっちゃ大きい人間は把握しきれないだろうし。発音される声が母体をなにとしてるかが重要なんだなっていうのは見つけた。

 

――どんな音楽をよく聴いてました?

 

ナイル:本当になんでも聴きました。一つあげるのであれば、竹村延和さんの音楽。アーティストとしての姿勢は本当に感銘し、よく音楽も聴いていました。音や音楽、それらと思想への関わりが実在するということを教えてくれたと思います。

 

望睦:同じくなんでも聴いたけど、2009年に出たFlorian Heckerのアルバム『Acid In the Style of David Tudor』はいまだに聴いてる。気持ち悪くてとにかく好き。音の位置がめちゃくちゃ動きまくるから頭やられちゃうんだけど、これを聴いて以降、位相に興味がいってだいぶ音楽の幅が広がったかな。あといまは聴かなくなっちゃったけど、Jim O’Rourkeが再発したNuno Canavarroの『Plux Quba』。ハゲでメガネが好きなのかな…それからthe primeTime sublime Community Orchestraの『Songs That Will Never Win a Grammy』。むかし見た彫刻だと、RAT HOLE GALLERYでやってたGerhard Richterの元奥さんのIsa Genzkenは凄いかっこよかったよ。

 

 

――さっきから「彫刻」という言葉がちらほら出てきますね。映画監督の長谷川億名さんに取材したときに、「マテリアル」と「オーセンティック」が際立つ流れがいまは新しいんじゃないかって話をして(http://heathaze.tokyo.jp/2015/10/yoknahasegawa/)。ハイテクが加速しすぎたなかで少しバックする、その感覚が新鮮だなと。

 

望睦:ほんとだ。やっぱりモノが好きなのかなあ。自分たちが言ってる「ダウングレードしてアップデート」もそういうところから来てるのかも。個人的にはプロデュースのされ方がカチッと綺麗なものにまとめられていっちゃう感じに単純に飽きちゃって、そういうフォトジェニックさを解体したい気持ちがあるのかも。

 

――傾向的にとぅるとぅる、ぬめぬめ、てかてかしてますよね。

 

望睦:もちろんPC Musicのようなポップな感じも嫌いじゃないけど、グロッシーな感じ。たとえばSOPHIEなんかは凄い速さでアムロちゃんとかきゃりーとか自分の好きなアーティストをプロデュースしちゃったわけだし。でもそこにコミットしようとは思わないかな。

 

――なるほど。そして2014年の夏にEBM(T)を始めました。そのきっかけは?

 

望睦:ある日突然、ナイルに「望睦、レーベルやらないの?やりなよ」って言われて、「じゃあやろう」ってなった。

 

ナイル:最初は、凄いかっこいい音楽をYouTubeとかじゃなく中国の動画共有サイト「youku」で上げて、そのリンクが張ってあったらわけわかんなくておもしろくない?なんて話していて。そこから膨らましていった感じだよね?音楽家だけじゃなく、美術家や科学者やいろんな人が渦巻いてるプラットフォームにしようって。そこから自分たちがよく行くギャラリーや美術館のホワイトキューブのような、できるだけ情報を少なくして作品だけがあるようなシンプルな空間を作ろうってことで、ウェブサイトをぱっと仕上げて。ただ作品がどれだけ際立って見えるか、作品をどれだけインティメートに感じられるかって環境を作るためのアイデアとして、ウェブサイトができました。

 

望睦:準備期間は1ヶ月もかからなかったよね?ロゴとかもすぐに作ったし。2014年の8月に動き出して、9月1日にオープンした。やっぱり「ミュージシャン以外の人の音を聴いてみたい」っていうのが一番の動機かな。リリースしてるようなミュージシャンからは絶対に出てこないような音が出てくると思ったし、テキストも画像も音ももらってそれがひとつのものになるのは、リリースというより展示だろうって発想。それでまずは俺たちのアイドル、小説家のTao Linにオファーしたんだよね。彼の場合はまったく音を作ったことがなくて、図書館でVICE用の原稿を書いてるときにiPhoneでフィールドレコーディングしてくれて、その音についてテキストも書いてくれて。それが凄く新鮮だった。Robin Mackayの文章にもあったけど、幻覚と体験をループしてる感じ。いままでネットでバンバン落としまくって聴きまくってだったのが、普通にフィールドレコーディングとして音楽を聴くって感覚じゃなく違う聴こえ方で聴こえてきたから、これなんだろうなって。

 

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ナイル:私もTao Linを最初にやれたことがとても嬉しかったです。音楽家じゃない作家という彼がやることによって、EBM(T)はレーベルでもないし、音楽を外に持って行って歩きながら聴くようなものでもないっていうステートメントができたから。そういうスタンスでいままでやってきたし。それからテキストを使うことによって、流れていく音楽をちゃんとネイルしていく感覚も出せてると思います。また同時に、テキストはLPのライナーノーツでもあります。

 

望睦:そう。ライナーノーツってだいたい超くだらなかったりするんだけど、なんかしょうもないけど大事だったなあれ、みたいな。Radioheadの『Ok Computer』のライナーノーツをイエモンの人が書いてたんだけど、凄い熱入ってて、そういうのいいなって。だから立ち位置的にはサウンドがLPで、テキストがライナーノーツで、画像がジャケ。「バーチャル聴覚室」と銘打ってネットでやってはいるんだけど、それをフィジカルなモノのようにしたいのかもしれない。トイレ行きたい人用の一時停止はできるんだけど(笑)再生ボタンしかないから巻き戻しも早送りもできないし、それはレコードに針を落とすような、ある種の面倒くささに繋がってる。

 

――EBM(T)は期間限定の音と残るテキストってフォーマットがある。期間が過ぎたら肝心の音が、LPでいう盤がなくなっちゃうわけですよね。どうしてライナーノーツとジャケだけ残すんだろうって思ったんですけど、展覧会後の「図録」ととらえれば合点がいくかも。

 

望睦:まさに。図録、カタログです。そういえばライナーノーツだけ売ってるお店がアメリカかどこかにあって、そこではカエルみたいな爬虫類も取り扱ってるらしい。凄い興味ある。あと最近ヒップホップのトラック作ってみたんだ。幼なじみがHooriassってラッパーで、まだライブ活動しかしてないんだけど、そいつが言うには「やっぱりモノに戻ってる」って。

 

――おお、望睦さんのヒップホップトラック聴いてみたいです。EBM(T)はこういう風に見られているという実感はありますか?

 

望睦:ポスト・インターネットな人たちとは見られていない印象は受けるけど、現状、ディスられるくらいにかまってほしい感じかな(笑)まだどういう風にも見られていないと思う。海外のアートメディアや音楽メディアにプレスリリースを送ってるんだけど、ネットアートでもなければ音楽でもないから、フィーチャーされにくいんだよね。Rhizomeみたいにカルチャーメディアやテクノロジーメディアとしてやってるところじゃないと、あんまり受け入れてくれない。でもそれこそHEATHAZEやmelting bot、Radd Loungeの人と繋がれていて、国内でもいろんな人に少しずつ受け入れられていったらいいな。

 

――いやいや、恐縮です…海外のほうがしがらみなど関係なく、純粋に「それ」だけを見てくれるから反応ありそうですが。

 

望睦:うん。やっぱり海外のほうが反応ある。でも日本でもわざわざパソコンを真空管アンプに繋いで、ちゃんとステレオスピーカーで60度の角度つけて聴いてくれたって話を聞いたり。単純に嬉しいよね。

 

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――国内外のほかのバーチャル展示室、たとえば同じく2014年に設立されたPanther Mordernなどについてはどう見ていますか?

 

望睦:EBM(T)がキュレーションしたMSHRは、まさにPanther Mordernでうちよりデラックスな展示をしてるけど、概してバーチャル展示室となると偏りは出てくるよね。次の展開とシーンが予想できるというか。うちもPAN寄りではあるって見られたりするんだろうけど、じっくりコツコツやろうって最初から思ってた。やっぱり「音の発見・共有・拡張をめざす」ってモチベーションが一番大きくて、カセットテープやレコードじゃなくストリーミングで聴くEBM(T)という場に置いてみたら、いつもの音楽も違うように聴こえる瞬間が生まれるかもしれないって。ちなみにストリーミングと言えば、下手したらネットにいる時間のほうが長いんじゃないかと思って「マトリックス・シンドローム」って造語を自分で作ったときに、他の人も言ってるかなって検索したら、2006年に書かれた記事がヒットして。そのサイトのURLが「フューチャー・ワールド・ドット・オルグ」でモロじゃんってなった。電子機器にあまりにも没入しすぎちゃって、それを取ったときに統合失調症になっちゃうよって内容。当時はSF的な発想だったかもしれないけど、ここに来て意外と間違ってないという。ナイルは携帯なくして以降、買い替えるのめんどくさいからって携帯持ってないしね(笑)