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icon 2016.2.29

宮崎大祐監督コラム「思い出は幽霊ではない」――永瀬正敏主演の新作短編『BADS~ならず者たち~』ジャパン・プレミア上映によせて

思い出は幽霊ではない

宮崎大祐

 

3月上旬から開催される第11回大阪アジアン映画祭にて私の監督・プロデュースした映画である『5 TO 9』が日本初上映を迎えるにあたって、鑑賞の手引きとなるかもしれない各国・各パートの政治的背景や状況をつれづれなるままに記していこうかと思ったが、己の国のこともよく知らず、一時的に滞在した程度である他国の政治やら社会をしたり顔で語ったところで、偽ブランド服を着込んで貧民街の恵まれない人々の視察に出掛けるような受け入れ難い浅さや鈍さを回避することは出来ないので、もっぱら自分の担当した日本パート『BADS~ならず者たち~』の物語が出来あがっていった背景について書きたいと思う。

 

 

私がこの物語のプロト・バージョンを思いついたのは二十歳そこそこの頃だったと思う。当初のお話は、東京のヤクザ者が引退し九州で隠居することになり、退屈しのぎのために佐賀の吉野ヶ里遺跡を舞台にした「吉野ヶ里ロックフェスティバル(通称YRF)」なるイベントをはじめるが期せずして組の跡目争いに巻き込まれ、YRFの出演バンド及び観客を皆殺しにされた挙げ句、遺跡の物見やぐらまで焼き討ちにされたため復讐を誓い、新宿高島屋タイムズスクエアの屋上からハングライダーに乗って東京都庁最上階に控えるファシズムの権化を打ち倒しに行く、みたいな若干ロック歌舞伎調の『東京流れ者』或いは、『エスケープ・フロム・L.A.』(点の位置が非常にまどろっこしい)とでも言えばいいのか、とにもかくにも荒唐無稽な話であった。

 

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bads5 『BADS~ならず者たち~』より

 

そんな与太話が日の目を見るわけがなくあっと言う間に数年が経ったが、またもYRFが浮上したのは当時通っていた映画学校のネタ出しかなにかの時だったように思う。今度は「現実的に撮りたい」という想いが「漠然とはしているがどうしても撮りたい」という概念を凌駕し、YRFという設定は名画座に改められ、吉野ヶ里遺跡という舞台設定は家族のために夢のマイホームを探して関東近県を駆けずり回るパパよろしく群馬の前橋辺りに落ち着いたのであったが、根本的には落ち着いていなかったので、予想通りの「こんなものただの○○のパクりじゃないか」という冷たく前近代的な言葉の銃弾を浴びて憤死・石棺処理されたが、この時に出来た、ヤクザな副業をしている前橋の映写技師が荒くれたちに名画座で襲撃され壮絶な殺し合いに至るという設定は今回の『BADS~ならず者たち~』にそのほとんどが生かされている。そして、あらゆるハリウッド映画がそう教えてくれたように、正しく埋葬されなかった者は必ずや回帰する。アイヌ、銀塩フィルム、日活ロマンポルノ、上野オークラ、トカレフTT-33、ホンダCBX400F、シブヤ系、ネオ・トージョー、映画館の屋上に住む探偵……。

 

※後編「死んだはずなのに生きている」につづく

 

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bads7『BADS~ならず者たち~』より

 

※連載「台北ストーリー」はこちら

※特集「ひ・き・こ 降臨」オールスター座談会はこちら

 

 

 

●Film Festival Information

第11回大阪アジアン映画祭

2016年3月4日(金)~13日(日)@梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、第七藝術劇場ほか

HP:http://www.oaff.jp/2016/ja/index.html

Twitter:https://twitter.com/oaffpress

 

『5 TO 9』上映日程

3月5日(土)20時15分~@シネ・リーブル梅田4

3月9日(水)16時15分~@第七藝術劇場

前売り1300円、当日1500円

HP:http://www.oaff.jp/2016/ja/program/i01.html

Facebook:https://www.facebook.com/fivetoninemovie/

監督:テイ・ビーピン(鄭彌彬)、宮崎大祐、ヴィンセント・トゥ(杜海)、ラーシケー­ト・スックカーン(2015年/シンガポール、日本、中国、タイ/80分)

 

 

 

●Profile

宮崎大祐

HP:http://www.daisukemiyazaki.com/

Twitter:https://twitter.com/gener80

 

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