――それこそ、NUMBER GIRL時代と比較するといかがですか? NUMBER GIRL時代っていうのは、よりシリアスだったというか、ヒリヒリしていたような印象があります。
向井:十何年前とかは結構気負いがあるから、自分たちの音楽を通じて観客とコミュニケーションを取りたいんだけど、その反面、敵視してるような部分もあったりして……敵視って言うと言い方がハードですけど、胸ぐらをつかみかかるようなね。根底には「俺の歌を聴いてくれ」っていう気持ちが強いわけで、どっか壁があるというかね、その壁を突き破って観客と共有したいんだけど、そのコミュニケーションの仕方がまだわからない部分もあったりしてね。空回り感みたいなのもライブの現場ではよくあったし、そういうもがき感はあったかもしれないですけど、その感じにまたビリビリ来てたりね。自分たちがいつもやってるような環境とちょっと違うような環境のイベントとか……
――いわゆる、アウェイな感じのイベント?
向井:そういうとこに出ると燃えたりね。今でもそうですけど、昔はギターの音で全員切り捨てるみたいなね、そういう気持ちがあったと思いますね。最近は我々をあまり聴かないようなすごい若いお客さんがいっぱいいるイベントとかにも出ますけど、若い子たちがポカーンとしてるんですね。チャルメラとか、「何やってるの?」みたいな(笑)。「これ、笑っていいの? 何を私たちに求めてるの?」みたいなね。理解できないんでしょう。そういう状況もよくあるわけですけど、昔だったら、そういうときは「ガキども! 全員正座!」みたいなね(笑)。
――「何でわかんねえんだ!」と(笑)。
向井:そういう感じがあったかもしれないですけど、最近はそのわからなさのハテナマークがいっぱい浮んでる世界を楽しんでるというかね(笑)。でも、ライブをやっていくうちに、観客の頭の上のハテナマークがポンッポンッて消えていくわけですよ。だから、いろんな環境でやるのは楽しいですね。『ZAZEN BOYS 4』は打ち込みのサウンドが多かったんですけど、あれをリリースしてからは打ち込み系のイベントとかにも呼ばれるようになって。
――バンドとDJが一緒に出るような。
向井:夜中にやるようなね。そういう環境でやっても、ホントに楽しいですね。今回のイベント(『HERE AND THERE』)も、ハイブリッドな感じですよね。
――すごくざっくり言ってしまえば、ロックとヒップホップをメイン領域にする人たちの融合ですよね。異種格闘技戦的な。
向井:このイベントはかなり、濃さで言えばホントに、80度ぐらいの濃さじゃないですかね。80度くらいの酒だったら、一気に飲まないと火傷しますからね。日本のラップグループでも、THINK TANKが私すごい好きで、KILLER-BONGのダブの世界もすごく好きですね。
――ヒップホップっていうのは、ZAZEN BOYS結成当初のコンセプトとして大きかった部分ですよね?
向井:ヒップホップというかラップですね。ラップの言葉が前のめりに出る感じっていうのは、ZAZEN BOYSを始めるときに必要だったんですよね。まず意思表示っていうか、「ZAZEN BOYSっていうのを始めました」っていう、「始めました声明」みたいなね。一般教書演説みたいな。「これをやっていく」っていう意思表示をするために、ラップが持つ言葉のパワーとビート感が必要だったんですね。
――なるほど。
向井:あと、異種格闘技戦ということだけど、今のリスナーの人たち、観客のみなさんにとって、ジャンルのカテゴライズはあんまり意味を成してないと思いますね。
――確かに、ジャンルは何であれ、「好きだから聴く」っていう聴き方が主流になってきてますよね。
向井:クラシックも聴けばハードコアパンクも聴くとか、自由でとてもいいと思います。だから、今回のイベントも、こっち側とあっち側で二手に分かれることはないと思います。
――「ZAZEN BOYSと下山(GEZAN)」、「KILLER-BONGと5lack」じゃなくて、「この4組の共演だから見たい」っていう人が大勢いるでしょうね。さっき話に出たような、バンドとDJのイベントっていうのもかなり増えましたし、壁はホントになくなってるなって。
向井:初音ミクと非常階段が一緒にやってるぐらいですからね(笑)。