――笹口くんって上昇志向はどの程度あるの?
笹口:上昇志向はめちゃめちゃあります(笑)。すべてのフェスに出たい(笑)。
――でも、さっきのデザイナーの話じゃないけど、ゆくゆく「え?」っていう意見を言われる可能性もあったりすると思うんだけど、それには対処できる?
笹口:どうなんでしょう……まあ、今のところはまだそうなってないし、そういうの得意っちゃ得意なような気もしないでもないです。「作れ」って言われた方が、事務に追われるよりは(笑)。「こういう曲作って」って言われて作る方が、全然やりやすいかもしれない。
――あー、でもそうかも。題材用意されて作るの上手そう。
笹口:でも、アドリブは苦手なんですよ。表題渡されてその場で作れとかはちょっと……持ち帰り向きですね(笑)。
――曲の題材はテレビを見て思いつくことが多いんだよね?
笹口:多いです。最近やっとネットをやり始めたんで、ネットもですね。
――『IN RAINBOW TOKYO』に入ってる曲は昔作った曲が多いだろうから、いわば「テレビ時代」の曲?
笹口:そうですね。これは最初と最後の曲以外が元々ソロの曲なんで、いろんな年代のテレビとか……テレビとか(笑)。
――今も基本テレビっ子なの?
笹口:今はテレビを見る時間も減っちゃって、何を歌いたいのかわかんないですね(笑)。まあ、アルバムを出した後とかは、結構そういうのに陥ることがあるんですけど、最近いろいろ取材を受けて、「何が言いたいの?」って本質的な質問をされると、まったく答えられないんですよ。それで最近思うのは、「自分が何を言いたいか」よりも、「これを言って、何が返ってくるか」のみがやりたくてやってるんだなっていうのを、質問に対する回避方法にしてて(笑)。でも、それが自分には合ってるんだと思うんです。作ってるときは、鬱憤を晴らすみたいな曲もあるんですけど、ライブでやるときは「どんな感じかな?」って客観視してるというか、「ゲップが出そうだから、こらえながらどうやって歌おう?」とか考えてるんで(笑)。
――笹口くんが一番大事にしてるのは、言葉よりも曲そのものなんじゃないかって僕は思ってるのね。言葉はニュースとか映画のリアクションであって、それよりメロディとかコード進行でいいものができたときの満足感の方が大きいんじゃないかなって。
笹口:うーん……でも、このアルバム(『IN RAINBOW TOKYO』)でもそうなんですけど、歌詞はよくできたと思うけど、演奏があんまり気に入ってなかったり、その逆もあったりして、普通の人はそういうのを世に出さないと思うんですよ。僕たぶんハードルが低くて、曲の中に一瞬だけ気に入ってるところがあれば出しちゃうんで、自分の中で「完璧にできた」っていうのはあんまりない気がして……それを目指してやっていきたいです(笑)。
――でもやっぱり基本的なソングライティング能力は高いと思うけどなあ。
笹口:昔は曲を作る暇が人よりめちゃくちゃあったんですよ。友達もいなくて、ずっと一人だし、だから数撃ちゃ当たるじゃないですけど、みんなこれぐらいの時間があったら、これぐらいの曲できるといつも思うんですよね。だから、たまたま上手くできた曲がアルバムに入ってるっていう(笑)。
――じゃあ逆に聞くと、音楽活動全般の中で、一番満足感を感じるのはどんなとき?
笹口:さっきも言ったように、何かひとつでもいいところが見つかれば嬉しいです。あとは……僕やっぱり宅録が好きですね。バンドの録音はホントに難しい。やっぱり、自分が好きなようにできるっていうのが好きですね。自分が聴きたいように作れるっていうか。
――バンドをやる理由として一般的に言われるのって、元になる曲があって、それをバンドで形作る中で他の人の要素が入って、まったく違うものになるのが面白いっていうことだと思うのね。それが嫌で、自分が思い描く通りに作りたい人はソロでやる。途中で名前の出たPredawnとかは、今のところ後者だからソロでやってるみたいなんだけど。
笹口:人とやって違うのが来るのがやりたいんですけど、あんまりいいと思ったことがなくて(笑)。でも、それも曲の問題っていうか、曲に合った演奏をバンドはしてくれてると思うんで、すごい曲を作ればおのずとアレンジも決まってくるのかなって。
――笹口くんが曲を作る時点で、アレンジのイメージもある程度見えてるの?
笹口:太平洋のときは自分でバンドアレンジまで考えて曲を持って行ってたんですけど、うみのての曲は元からバンドでやろうと思って作ってないですからね。ソロの全作品そうなんですけど、バンドの曲を作ろうと思って作ってて、ちょっと疲れちゃったときにチョロッと弾いた曲がソロの曲になるんですね。だから、このアルバムの曲は最初はバンドアレンジ考えてなかったです。3人組って一個一個別の楽器だから、逃げ場がないんですけど、5人組だと飾りがついててホワッとなるから、良くも悪くも曲にすぐなっちゃうんだけど、それがあんまりよくないとも思ってて……例えば、“WORDS KILL PEOPLE(COTODAMA THE KILLER)”はホントただニューウェイブとNUMBER GIRL聴いてやってみましたみたいなサウンドなんで、こういうのはもうやめたいですね。
――サウンド面での今後の展望は見えてるんですか? 例えば、RADIOHEADはギターロックから徐々に逸脱していったわけですが。
笹口:離れたいですね。ギターのディスト―ションなくしたいです。
――言葉はめっちゃ具体的なまま、サウンドはめっちゃ抽象的になったりね。
笹口:まさにそれがやりたいですね。今日本で抽象的な言葉を言ってもホワンとしてしまうと思うんで。
――それこそ、RADIOHEADみたいにエレクトロニカとかIDM方向に行ったりね。
笹口:あの人たち自分がいいと思ったら全部やりますもんね。でも、僕年を取るに連れて、音楽漁りしなくなりました(笑)。
――ギターロックから離れるには、インプットも必要かも。
笹口:最近はほぼATOMS FOR PEACEしか聴いてないです(笑)。RADIOHEAD聴いてれば最新がわかるというか、そんな感じありますよね。あ、ALT-J好きでした。フジロックで偶然見て、すごいよくて。
――あー、じゃあやっぱり折衷型が好きなんだろうね。ALT-Jもフォークもヒップホップもダブステップも何でもアリだから。では、そんな今後のうみのての展開にも期待しつつ、まずはレコ発とツアーがあるわけで。ちなみに、この前「exPoP!!!!!」でライブを見たんだけど、ダブのPAを入れてやってたでしょ? あれってあの日の特別編成だったの?
笹口:レコ発とワンマンはその感じでやります。あのPAはオシリペンペンズの道下(慎介)さんなんですけど、オシリペンペンズのライブを見たときPAがすごくてお願いしたら、道下さんも気に入ってくれて。
――うみのてのSF的な世界観にマッチしてて、すごくよかった。
笹口:でも、初めてやったんで、かけ過ぎなところもあったかなって(笑)。
――個人的には、あの過剰な感じが合ってたと思うけど、レコ発とワンマンではよりパワーアップした状態のものが見られそうですね。じゃあ最後に、レコ発とツアーに向けた意気込みを聞かせてください。
笹口:今は押せ押せで受けてるんで、とりあえずワンマンまでは押せ押せで頑張って、そこからはまったく叫ばなくなろうかと思います(笑)。強弱を一ミリもつけないバンドにガラッと変わりたいと思うんですけど、たぶんガラッとは難しいと思うんで、次第に……これ宣伝になりますかね(笑)?
――「これを逃したら今のうみのてはもう見れないかも」ってことだよね。「第一期、完!」みたいな(笑)。
笹口:あ、それいいですね。その感じでお願いします(笑)。
――ファイナルのワンマンは渋谷WWWだから、映像とかも使えそうだね。
笹口:そうですね。いろいろとたくらみを持っております!
●Information
4/12「うみのてレコ発」@渋谷O-NEST
6/12「うみのてワンマン」@渋谷WWW
●Profile
笹口騒音ハーモニカ
1984年2月29日、うるう年に生まれてこのかた活動中の大御所。 ¥anagawarecords社長。太平洋不知火楽団、うみのて等々でライブハウスから路上まではばひろーく活動中。ソロ、バンド活動共に様々なイベントに引っ張りだこで365日どこかでライブをしている。数百もの大名曲をつぎつぎと生みだしており、これまで8枚のオリジナルアルバムとベスト盤を1枚発表。もはや現存する最後の生ける伝説的シンガーソングライターといわれている。
笹口騒音ハーモニカ ホームページ
http://yanagawarecords.com/
うみのて ホームページ
http://uminote.blogspot.jp/
太平洋不知火楽団 ホームページ
http://taiheiyo-shiranui.com/