音楽をやるときは音楽以上のものをやりたいと思ってるんです(LLLL)
――という話が出たところで話題を変えますけど、今回この鼎談をセッティングしたのは、お互いにリスペクトし合ってると聞いたからなんです。なので、それぞれどこに惹かれたのか教えてください。
L:さっきswapさんが言ってたことと近いんですが、僕は音楽をやるときは音楽以上のものをやりたいと思ってるんです。僕の場合だとビジュアル・アートになっちゃうんですけど、そういう形を使って、存在そのものが感情だったりを伝えられたらなと。§✝§は最初に見たとき、音楽もそうなんですけど存在にインパクトがあるなと感じました。人間の深層心理の怖い部分を表してるというか。それが昔だったら寓話とかだったんだろうけど、僕が§✝§から受け取る感情って、そういう怖い部分なんです。もちろん音楽が悪いとかじゃなくて、オカルト話を読んでワクワクする感じを勝手に抱いてます。
『FOGPAK #7』収録の§✝§「Data Drowned」
かんな子:私はTwitterでLLLLさんの音楽を知ったんですけど、切ない感じがあって好きになりました。あと攻撃的な部分も面白いなと思いました。
Maltine Recordsからリリースされた天川宇宙の『平行宇宙マジカルプラネッツ』より
「HYPER SPACE (LLLL Blizzard Night Remix)」
――面白い意見ですね。
L:アンビエントっていう括られ方をされることが多いんですけど、攻撃的な曲も作っていきたいなとは考えてます。普通にアンビエントっぽいのやっても退屈かなと思うし。
――僕はLLLLさんの音楽を聴いて、ArcaやOneohtrix Point Never(OPN)に通じる、静謐なアンビエントっぽさを感じましたよ。
L:近藤さんが挙げてくれた人たちは面白いと思います。ビート・ミュージックからビートを取ったみたいな、ビートの解体というのも進んでると思うし、新しいと感じて意識してはいるんです。でも、今ArcaとかOPNが流行ってるからこそ、そこに行っちゃダメだという気持ちもすごくあるんです。聴くとすごいと思うし、好きなんですけどね。
S:この前、Red Bull Music Academyが渋谷WOMBでやったOPNとFatima Al Qadiriのライブを観てきたんですけど、ほんとにビートがなかったんですよ。めちゃくちゃ人が入ってて、みんな棒立ちで観てる感じがすごく面白くて(笑)。あれがメインストリームと言われたらそうなのかもしれないけど、あれをやれる人ってたぶん少ないんじゃないかなって思います。これからみんながビートをなくすかっていったらなくさないでしょうし。あのライブは良かったです。みんなが期待してるものじゃないものを提示するという意味での裏切りがあって、全然そっちに行きたいって思いました。
L:OPNもArcaも、ビジュアル面が強いと思うんですよ。OPNは現代芸術家とコラボしてるし、ArcaはJesse Kandaというパートナーがいる。ビート・ミュージックやダンス・ミュージックって、元々フィジカルなものじゃないですか。身体的に動くというところに前提があったりして。だからメロディーに乏しいものがあったりしますけど、彼らの場合はそれがないですよね。でも正直、ビジュアル抜きでOPNを聴いたら感動するかといったら、しないと思う。OPNはMVとセットで聴いてます。
――彼らはMVなどのビジュアル表現を前提とした音を鳴らしてますよね。
L:ArcaなんてMVとのシンクロ率が高いですからね。それってChris CunninghamとAphex Twinの関係にも繋がる気がします。
S:話が逸れますけど、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』という映画は、ArcaのMVに通じるところがあって面白いです。美女が男を捕食していくというあらすじなんですけど、そのあらすじからは想像できない映像を提示してくれます(笑)。
ジョナサン・グレイザー監督『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のトレイラー映像
――それは観たい。ここに来る前ひどい映画を観てきたので尚更(笑)。いまLLLLさんが、ArcaのMVにChris CunninghamとAphex Twinの要素を見いだしてましたけど、そこから「90年代」というキーワードを導き出せると思います。90年代の文化に影響を受けたりしてますか?
S:90年代当時にリアルタイムで聴いてた音と、いま聴いて良いなと思う90年代の音がまったく違うんですよ。だからリアルタイムで、いま良いと思える90年代の音を通ってなかったというのはあります。僕の中で90年代は、サイバーな感覚があるんです。Windows95とか、インターネットも少しずつ出てきたり。でも当時は、それをあまり享受してなかったんです。パソコンはやってたんですけど。
L:ウィッチハウスやヴェイパーウェイヴが出てきたあたりから、インターネットそのものに芸術性を見いだす動きって出てきましたよね。でも、90年代のインターネットって媒体だったから、伝達ツールとしてのインターネットが爆発的に広がった感じがします。だからインターネットそのものに芸術性を見たり、そこから人間性の関わりを感じ取ったりするというのは、僕が知る限り当時の人はあまり気にしてなかったと思うんですよ。それよりも、一瞬でみんなが同じものを見れるツールという側面に注目がいってたと思います。
LLLL
――かんな子さんはどうですか?22という年齢からすれば90年代はリアルタイムじゃないと思うけど、後追い世代から見た印象として。
かんな子:私は、いまだに時代性みたいな感覚が薄くて。進んだりしない、切り離された時間の中にいるような感じです。音楽を掘るようになってから、92~94年頃のテクノやジャングルが好きになりました。派手すぎず、でも変な感じがあったりするので。
L:僕の中で90年代といえば、ブリストル・サウンドですかね。トリップホップがすごく好きで、あの頃の人たちってジャズの要素が入ったサウンドを鳴らしてた気がするんです。Portisheadとか。僕はジャズが好きでよく聴くんですけど、90年代を振り返ってまず浮かぶのは、そのあたりですね。